「この子がコウダイさんのお孫さんですか…可愛らしい女の子ですね。歳はお幾つになられるんですか?」

「6歳だ。写真ならまだあるぞ」

「ありがとう御座います。…活発そうで優しい目をしていますね。笑顔が可愛い。きっとこの子は誠実で誰よりも優しく正義感が強くて、コウダイさんに負けないトレーナーになりそうですね」

「君に言われると光栄だ。他にも写真が…」









「あのコウダイさんの顔が…」

「緩んでるわ…」

「あの人は写真常備なくらい溺愛していますからねぇ。暫くお孫さんの話が続きますから注意して下さいね」






案の定暫く話が続いた


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「嫉妬」という感情は不快な感情の一つであり、感じたくない感情の一つだ。しかし、恋愛、社会の中の様々な競争の中ではよく感じる感情の一つでもある。怒り、傷心、怨み、拒絶感、敗北感、掌握感、無価値感、依存心、自分にはない感じ、惨めさ、羨ましい感じなど全ての素材を一気にごちゃまぜにした様な混ざり合った感情も「嫉妬」である

誰かの影響を受けて「嫉妬」を感じるという事は、その誰かに負けてしまった様な敗北感を感じます。敗北、即ち負けを感じるという事は、誰かと競争があった事を意味する

つまり「嫉妬」という感情は、自分の価値を誰か他人の基準として比べて計ろうとした時に、『負け』を感じて起こってしまう感情なのだ














「―――デンジ、そろそろそこまでにしろ」





悲痛な叫びが響き渡ったジム内に、彼を止める制止の声が掛かった

止めたのは観客席で見守っていたトムだった。階段を降り、枠を飛び越えてフィールド内に入って来たトムを、デンジは一瞥するだけですぐにレンの胸倉を締め上げる力を強くする。嫉妬に狂い、我を忘れているデンジをやれやれと溜め息を吐きながらその肩を掴んだ







「デンジ、お前の気持ちは分からなくもないが冷静になれ。ただ鬱憤をレンにぶつけても意味がないのは分かっているはずだ」

「うるせえ!これが冷静でいられるか!」

「いい加減にしろデンジ。理由はどうであれ、レンに手を出した事は彼女を悲しませる事になるのを分かっているのか?」

「っ……悪いがトムさん止めるな!これは俺達の問題だ!俺はコイツを殴らなきゃ気がすまねーんだよ!」






一瞬だけちらついたミリの悲しむ顔がデンジを引き止めるも、しかし昔から溜めて来た鬱憤がそれを勝り、近寄るなとばかりにトムを睨み上げた

嫉妬する男女は醜いとよく言ったものだ。嫉妬は消えたはずの怒りを呼び覚ましては、爆発をさせる

デンジは怒りの沸点は低いものの、あまり大きく怒鳴らない。静かに怒る、と言った方が分かりやすいだろう。怒る、よりも機嫌を悪くして身体から現在怒ってますオーラを包み隠そうとしない質でもある為、こうして怒りを爆発する姿は珍しいばかりで

それだけデンジが溜めていた鬱憤はデンジ本人が思っていた以上に大きかった。大きかったからこそ、歯止めが効かない

未だ微動だにしないレンを、デンジはもう一発殴ろうと拳を振り上げた




―――が、それは第三者の手によって未遂に終わる








「―――今一度冷静になれ、デンジ。かの有名なナギサジムリーダーがその有様だと市民に示しが付かんぞ」

「っ…!」





振り上げられたデンジの腕を掴んだのはゴウキだった

いつの間に移動してきたのか、デンジが気付かなかっただけなのか。振り切ろうと抵抗をしてみても、その鍛えられた剛腕からくる握力からは逃れる術はない。相手が相手な為、デンジは悪態を付いて舌打ちをするばかり

ナギサジムリーダー、と今度もまた別の第三者の声が静かに響き渡る






「麗皇を殴るのは大いに構わないが、此所がジムフィールドだという事を忘れるな。聞けば此所は民間のテレビと中継されているらしいじゃないか。嫉妬に狂うみっともない姿を安易に見せびらかせるな。恥を知れ」






カツカツと靴底を鳴らし、観客席から降りて近付いて来るのはもう一人の第三者のナズナ。容赦ない言葉は逆にデンジの怒りを煽らせるものだったが、しかしナズナの言葉は正しく、この姿を中継されている事にやっと気付いたデンジはレンの胸倉を掴む手を離し、突き飛ばして解放させた

突き飛ばされた反動で身体をよろめかすレンだったが、さも平然立ち直り、顔に被さっていた髪を無造作にかき上げた。その表情は多少の怒りが見えるも、やはり飄々としていた為、デンジは気に食わないとばかりに眉をつり上げた。頬はデンジに殴られた事で赤く腫れていたが、普段ゴウキと殴り合いを繰り広げていたお蔭か全然平気そうに見えた

ペッと床に吐き出したのは瞳と同色である、口の中で切れた血。口から垂れた血を拭ったレンは、自分を睨み付けて来る相手を見つめ返し―――鼻で笑う






「―――お前が俺の事をどう思っていようが関係無ければ興味も無い。勝手に喚いていればいい。俺は自分の行動に一々理由なんて言わねぇし、言い訳もしなけりゃ否定もしない」






一匹狼だった故に他人との距離を置いていき、いくら昔馴染みな友達でさえ多くの事を語らずに、辺り障らずの関係性を保ってきていたレン。語らない故に、何故デンジがこうして怒りを覚えているかなんて大方察しが付く訳なのだが、本当に彼はその口から否定も言い訳を語ろうとはしない




ただ一つ訂正するなら…、そう言ってレンは言葉を切り、ゆらりと視線をデンジに向ける

ピジョンブラッドの瞳は妖しく光り、影をさす。飄々とした表情はそのままに、レンは不意にフッと笑うと―――スッと己の右脚を動かした


そして、





――――ドガッッ!!!!










「―――俺がミリを見捨てるだと?冗談はよせ。悪いが、生憎俺はアイツを手放すつもりはない。残念だったな」







レンは不敵に、笑った






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