いつまでも心配そうに身体に気に掛けてくるゲンを押し退け、時間になったので出勤するゲンとオーバとデンジを見送ったミリとシロナとダイゴの三人

相変わらず弁当(流石にもう重箱じゃない)を嬉しそうに持って行ったオーバと、怠そう且つ眠そうに飛び立って行ったデンジの姿に苦笑を浮かべるも、三人の姿が見えなくなるまで見送ったミリ。姿が無くなったと確認した三人は早速家の中に戻り、ミリは家事に取り掛かった






「さて、と。今日は幹部長達がこっちに来る日になっちゃったわね、ダイゴ」

「そうだね。久し振りに会う人達だから緊張するよ。しかも画面越しじゃないから、尚更」

「本当にね。全く、オーバとデンジは上手く逃げ出せたって感じよね。もう、夕飯にわさび交ぜたものでも食べさせたいくらいだわ」

「ははっ、それはキツいね。とにかく僕らは普通にしていればいいんだよね?」

「えぇ、チャンピオンの立場としてそうだけど、今回の主役はミリだから私達はミリを守ればいいのよ。まぁミリの事だから勝手にどっかに行ってフラッと消えない限り普通にしていればいいだけなんだけど」

「楽しみだねぇ〜白亜、黒恋」

「「ブイブーイ!」」

「こらミリ、スルーしないの聞きなさい」






現在、時刻は午前8時30分を過ぎている

此処から三人の仕事場、特にゲンが働くカンナギ博物館までは一時間以上も掛かる。出勤時間はそれぞれバラバラだが、デンジに至っては早めに出た方がジムの為にもなる。いつも遅刻さぼり三昧だったデンジが真面目に出勤している事実にジムトレーナーが警戒していたのは今ではいい思い出だ。ジムトレーナーにマジで攻撃されたとゲッソリした顔でそう暴露したデンジに笑ったのも今ではいい思い出。最近生活リズムが整ってきたのか、しっかりと朝一人で起床してきている。この調子でいけばニート脱出来るはず。…多分


ミリはぷりぷり怒っているシロナを尻目に(慣れたむしろスルー)、家事に戻る。台所の流し処には、先程お弁当を作った時に使用した調理道具が水に浸したままで放置されていた。お弁当を丁度作り終えたすぐに三人を見送ったので、てづかずになっていたのはしょうがない。朝ご飯に使用した食器も紛れている為、かなりの量にミリは溜め息を零した






「(…ゲンさんには悪いけど、休んでいるわけにはいかないんだよね……)」






食器を洗う為にゴム手袋を手にしたミリは、数時間前のゲンが言った言葉を思い返し、頭を振るう

同時に、タイミング良く自分の口から欠伸が漏れた

二人にバレない様に上手く噛み締めながら、ちらりと居間にいる二人の姿を見る。二人はソファに座って、何やら資料を見て口論を広げていたのを視界に入った。真剣な表情を浮かべている辺り、リーグの事だろう。二人の膝には白亜と黒恋が嬉しそうに寛いでいる。顔が緩んでいるぞ。まぁ二匹の事はさておき、二人の会話の内容に関しては自分に関係ない事だし安易に踏み込んではいけない内容なので(リーグ関係者じゃないし)、ミリは暫く四人の姿を眺めた後、皿洗いに専念する






「(全く…油断も隙もあったものじゃない)」






皿を洗いながら、ミリは悪態を吐く

平然を装い、今まで通りに過ごしてきたのだが、つくづく波動とやらは面倒臭い力だと悪態を吐くばかり。使う分には使い勝手が良い力なのだが、これが自分に使われているとなると話は違う

ゲンは波動使いだ。それは彼自身の口から聞いていたし、この世界に来る前に既にゲームで認知していた為さほど驚く事はなかった。実際にゲンは波動を使ってこうてつじまの爆発物を空に転換させて爆発から逃れた実績がある。そこまで話は聞いていない(むしろ知らない)ミリだが、この男ならやらかせるだろう、とそう思っていた

波動を象徴するルカリオを見れば分かる通り、ルカリオは波動を使って相手の考えや動き、そして鍛えられたルカリオほど1キロ先にいる人間やポケモンの位置や気持ちさえも分かる。ルカリオの進化前のリオルも、応用はともかく波動を使って感情を読み取り、見極める力がある。波動使い、となればきっと同じ様な事が出来るのだろう


ミリは溜め息を吐いた









「(…強豪が此処にもいたか)」






勿論、ミリもそういった力や能力に関しては熟知していているし、習得済みだ

ミリの場合、この能力を別世界で得た能力を全て「オーラ」と一纏めに言っているだけであり、この世界では「オーラ」を「波動」を指している

無論、此処にはいないゴウキの能力である「気」もミリにとっては「オーラ」の一部に過ぎない。以前、三強として過ごした時にゴウキの口から語られたあの日の事は忘れられない。淡々と話すも、「気」を見れる様になれたのも厳しい修業の賜物だ。ミリは改めてゴウキを畏敬すると同時に、逆に警戒心が強くなったのも今では良い思い出

ゴウキの名が出れば、此処にはいないマツバやナツメの能力も全て「オーラ」の一部。二人は千里眼や未来予知が出来るから故に、オーラが見える。どの様に見えるかなんて説明されなくてもミリは知っていたし、共通共感出来ると向こうが思ってくれているのか度々そういった内容の会話をした事もある


こういう能力を持つ人に限って、彼等は鋭い。いくら平然を装っても、彼等にとっては無意味なのだから










「さて、と」






最後のお皿を食器置場に置き、カチャリとした音が小さく響いた

洗った拍子に濡れてしまった所を台布で拭き取り、ハメていたゴム手袋を外したミリは休む事なく次の行動に移る

先程運転を終了とした洗濯物を干したり、リビングの掃除、お昼ご飯の準備やお茶だしの準備等々。それから、ポケモン達のおやつに、夕飯の買い出し―――



生憎、ミリには休む時間は無い










「はーいお二方、今からお掃除しますから煩くなりますのでご注意ですよー」

「はーい」

「あ、ミリ。僕も手伝うかい?」

「あらダイゴ、あなた家事出来るの?いっがーい!」

「「ブーイ!」」

「ちょっと君達、失礼だよ」

「あはは」







(また一つ、欠伸を噛み殺した)



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -