輝く海原

煌めく砂浜

そよぐ海風


そして始まる、新しい道へ











Jewel.03
















迸る電撃と燃え上がる炎が空を舞い、地を掛け、衝撃がナギサの浜辺を震わせる。さざめき聞こえる海の波飛沫、キラキラ輝く海原、空は数匹のキャモメの姿、そして海の波が辿り着く浜辺では―――二匹のポケモンが戦いを繰り広げていた

その小柄な身体を活発に動き回り、身体から灼熱の炎を纏って突進するヒコザルの前に、こちらも迸る電撃を纏って対抗するピカチュウが衝突し、弾き返される。体勢を立て直した二匹は口から灼熱の炎を、身体から強烈な電撃を放ち、二つの攻撃はぶつかりあい、黒煙を共に爆発を起こし、爆風と衝撃が二匹を襲った






「ヒコザル!!」

「ピカチュウ!!」







爆風に襲われ、黒煙に包まれた自分の手持ち達に、二匹のトレーナーは叫ぶ

もくもくとたちこめた黒煙は一瞬のもの。海風によって黒煙が徐々に薄くなっていき、巻き込まれた二匹の姿が露になる

ヒコザルとピカチュウ。彼等は目をくるくるさせながらその小柄な身体を浜辺の上で盛大に大の字になって倒れていた。つまりは二匹共、戦闘不能。これ以上のバトルが不可能となった二匹を、トレーナーは腰からボールを取り出して労いの言葉を掛けながら紅い光線を出して二匹を戻した

くそっ!と内一人のトレーナー…―――アフロがとても印象的な青年が、頭を掻きながら悪態を吐いた









「あー、今日は引き分けかよ!おい、これで何回目の引き分けだよ」

「全くだ。ここ最近引き分けばかりだな。いい加減アイツに俺の良い姿を見せてくれよオーバ。禿げろ」

「ふざけんなよデンジ!そりゃこっちの台詞だ!つーかどさくさに紛れて禿げろとか言うなよ!?禿げねーよ!」







赤い髪をした印象的なアフロをした青年の名を、オーバと言った

燦々と輝く金髪の髪と端整な顔立ちをしたスカイブルーの瞳を持つ青年の名を、デンジと言った

彼等の間柄は専らライバルでもあり、親友の仲だった。今日も今日とてナギサ西海岸でバトルを繰り広げ、引き分けとして幕を閉じる。今日も今日とて啀み合う二人に―――パンパン、と乾いた音が海風と共に二人の耳に届いた



誰かが二人に拍手を送っていた



すると二人はズカズカと競い合う様に拍手を送った本人の元へ足を運ぶ。二人の向かう先には一人の少女が浜辺に敷かれたブルーシートの上に座っていた

赤橙色のワンピースの上にオレンジ色をしたコートを羽織り、惜しみ無く姿を見える美脚、リンと小さく鳴るクリスタルのイヤリング、そして見惚れる美しい顔立ち。少女が居るだけでその場が華やかになり、一枚の絵になってしまうだろう彼女の後ろには水色のスイクン、右肩の上には紅いセレビィ、隣にはミュウツーがそれぞれ寛いでいた

二人は少女達の居場所に辿り着くと荒々しく彼女の隣に腰を降ろす。あらあら、と間に挟まれた少女は慣れたいつもの光景にクスクスと鈴を鳴らす声色で笑った

彼女の名は、ミリと言った









「お疲れ様、二人とも」

「ったく、今日は絶対に勝つつもりでいたのによ」

「全くだ。毟るぞ」

「毟るな!ヤメロ!」

「駄目だよデンジ、オーバーの髪毟っちゃ」

「よしミリ、よく言った!そうだそうだもっと言ってやってくれ」

「オーバーの髪毟っちゃったらこの子のベストポジションが無くなっちゃう」

「キュー」

「おいちょっと待てコラ。俺の頭はクッションか?クッションなのか?おいコラ待て俺はクッションでもなけりゃソファでもねーよ!?」

「ハハッ!そのセレビィ、随分気に入ってんもんな。良かったなオーバー、お前の髪を気に入ってくれる奴がいてくれて」

「このデンジレンジ!その頭デンシレンジに突っ込んでチンさせっぞ!」

「!デンジレンジがデンシレンジにチン…ププッ!オーバー今のソレ面白いね!デンジレンジがデンシレンジ…デンジレンジがデンシレンジ!ププッ!」

「おい待てコラミリ。あんま連呼すんなよ区別が分かんなくなる」

「デンジレンジがデンシレンジ(笑)」

「テンメェエエ!!」








穏やかな一日の中で繰り返される談笑。吹き曝しのナギサ海岸の風は冷たく、肌を刺すものだったが彼等には関係なかった。楽しい会話、楽しいバトル、そんな些細な一日は彼等にはとても有意義なものだった

最近になってこの地に現れた少女、ミリ。ナギサの海にスイクンの背に乗っていた彼女を、一番最初に出会ったのはデンジだった。二人が出会い、デンジの紹介でオーバとも出会い、そして友達になるのも時間の問題だった。彼女の存在は二人には欠かせない存在になっていた。彼女も彼等の中では親友の間になりつつもあり、また別の対象へなりつつもあった。

毎日が楽しかった。三人で一緒にいるのが当たり前にさえなりつつあった。それくらい彼女の溶け込みは早く、存在も大きくなっていった









「おいオーバー、もう一度勝負だ。今度こそどっちかが勝ったらトムさんの所で昼飯奢る。そしてミリに良い所見せる」

「上等だぜ次は絶対勝つ!ミリ、俺の勇姿を見ててくれよな!その心の目でよ!」

「あ、テメッ!それはこっちの台詞だっつーのに…!ミリ、こんな奴はいい。応援すんな。応援するなら俺だけを応援するんだ」

「フフッ、二人共頑張って〜」

「…」
「キュー!」
「……」












そして今日も彼女を巡った小さな争いが勃発するのだ。盲目の、この儚い少女を巡った争いを

浜辺ではまた新しい衝撃や爆発が勃発し始める。当たり前の光景、当たり前の姿。イーブイ二匹が元気よく浜辺の上を走り回り、指示を出す二人は楽しげに笑みを浮かべながら応援するミリに良い姿を見せたいが為に張り切る。そんな彼等の姿を、ミリは微笑を浮かべていた





今日もとても、穏やかだった









(穏やかで、優しい一時)

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -