サカキとマツバがイーブイ達の応急処置に入っている間に、ミナキはふたごじまにいるカツラに連絡を入れた 電話に出てミナキから事情を聞いたカツラは大いに驚いただろう。しかし、同時に納得した。ダークライが自分達を、サカキに救いを求めた意味を、理由を。詳しい事情を知らないミナキとマツバだからサカキに警戒をしているが、事情を知るカツラだからこそ、サカキという存在を受け入れる事にした 彼には知る権利がある。ミリの父親代わりとして、ロケット団首領として―――シンオウに今起こっている事態と、ミリの安否についてを カツラの承諾を得たミナキはさっそくサカキとダークライを連れて、ふたごじまの研究所へテレポートをし、カツラの元へ案内する事になる 「カツラさん、」 「ミナキ君、マツバ君、おかえり。君達ならやってくれると信じていた。特にマツバ君、よくやってくれた。この子達の治療は私に任せて、まずは身体を休める事が先だ」 「…ごめん、そうさせてもらうよ。仮眠を取ってくる」 「ミナキ君、君は一度ナズナに連絡を入れておいてほしい。イーブイ達を見つけた事と、ロケット団首領の事も」 「…分かった」 「君はダークライ…名前は闇夜だね?この子達を守ってくれて感謝する。君もまずは回復した方がいい」 《…頼む》 マツバとミナキ、そして新たな来訪者をカツラは歓迎した 歓迎する間も無くカツラはダークライの腕に眠るイーブイ達の容態が危険だと見抜くと、すぐさま治療に取り掛かろうと急かせた。勿論、マツバには休む様に伝え、ミナキにもイーブイ達が見つかった報告を入れる様に促した 一気に緊張感が抜けたのかは分からないがフラフラとマツバは止っている部屋へ、ミナキはポケギアを片手に部屋を出る。カツラもすぐにサカキとダークライを案内し、この研究所の中にある治療室の部屋まで足速に向かった 治療室に入ったカツラはテキパキとイーブイ達、そしてダークライの問診や触診に入る ダークライはともかく、イーブイ達の容態は危うかっただろう。一体、何があったんだ。包帯でグルグル巻きにされている小さな二匹を、カツラは辛そうな表情で身体を撫でるばかり 「…イーブイの具合は?」 「適正に応急処置をしてくれてあったお陰で命に別状はなさそうだ。…見たところ栄養失調にもなっているから十分な栄養と睡眠、休養をすれば大丈夫だ。ダークライの方も栄養と睡眠を取れば問題無い。…問題は、このヒビ割れたボールだ」 ダークライから預かった、包みの中にある三つのボール 水色、紅色、緑色―――このボールがどのポケモンが入っているかなんて、聞くだけ愚問 カツラの眉間に皺が寄る 「だいぶ危険だ。まずはボールからあの子達を出さなければ…」 「俺も手伝う。…此処は治療設備は整っているのか?」 「ポケモンセンターと比べたら完備では無いが、重篤な症状ではない限り問題は無いはずさ」 カラフル色のボールは形状が保っているのが不思議なくらい、無惨なものだった。それだけ厳しいバトルだったと想像され、またミリ自身にも危険が及んだ事の証明にもなる 運良く開閉スイッチは機能しつつあったが、だからといって普段使用の様にはいかない。万が一ボールが壊れてしまったら、一生このポケモンはボールから出る事叶わずに命を落とすだろう。ボールを壊さない様に慎重に厳重に扱いながら―――カツラとサカキはボールから三匹のポケモンを出す事に成功する 現れた、三匹のポケモン―――水色のスイクン、紅色のセレビィ、緑色のミュウツー。口に出すのも憚れるくらい、かなり重傷な状態だった。身体はボロボロ、血まみれ、呼吸も弱々しい―――この三匹こそ早急に手当てをしなければならないくらいまで、追い込まれていた。まだボールの中にいたからこそ命が持っていたにしろ、もし一歩遅かったら―――嗚呼、考えたくもない結果だ カツラはすぐさま三匹を専用の回復機械の中に入れた。ミュウツーは以前使用していた液体回復保管機の中に、スイクンとセレビィも新たに造っておいた液体回復保管機の中に入れてやった。この保管機はロケット団の研究所でも使われていたモノ―――この中に入れておけば、まず問題は無いだろう しかし回復にはかなり時間が掛かるだろう。骨折までとはいかないが、内臓が損傷していてもおかしくない。精神面でもダメージを食らっていたらすぐに目覚める可能性は薄い ミリの手持ちで一番の主力である彼等が、こうなってしまったとなったら―――それこそミリの安否が危うい 無事でいてくれ もはや神頼みに近い祈りだった 「―――ナズナから話は聞いていた。私はただの科学者、ジム仕事以外こうして貴方と面と向かって話す事はなかった。…ミリ君から、貴方が父親みたいな人だとも聞いていた。療養中だと聞いていたが…?」 「問題ない。体調は…アイツのバランスのいい食事のお陰で順調だ。今も調子はいい。心配するな」 「…………。私は、ロケット団を裏切った身だ。…貴方に不信に思われても仕方が無い」 「昔の事に俺は一々関与しないし、興味が無い。気にするな、カツラ。…ナズナを守ってくれた事には、感謝している」 「!…親友として当然の事をしたまでだ」 二人はある保管機の中に眠る存在を見上げた それは、緑色のミュウツー 全てを知っていたサカキ、『錠前』の役目を託されたカツラ。彼等を繋ぐのはナズナ、ナズナを救えるのは『鍵』の役目であるミリ、『鍵』を導くのはミュウツーの存在 嗚呼、懐かしい。たかだか数ヶ月前の出来事だったというのに、遠くの話に思えてならない 「…話に聞いているなら、分かっているはずだ。俺はミリを娘として接してきた。そんな娘の身が危ういとなったら、腰を上げるのが父親の役目だ」 「………貴方の息子は、」 「安心しろ、先程ナナシマに行った。暫く帰って来る事は無いだろう。…そちらの事情は話を聞かない限り分からんが、希望とあれば他言はしない」 「…他言無用でお願いしたい。部屋を変えよう、少々話が長くなる」 ボロボロのイーブイ達 ヒビ割れたモンスターボール 黒銀色のダークライ 重傷の、スイクンとセレビィとミュウツー 「サカキさん――――…」 「……ミリ、一体何があったんだ」 黒いイーブイの身体を一撫し サカキは苦い表情で治療室を後にするのだった (無事でいてくれ) |