サカキは驚愕していた

ダークライの腕に眠る二匹のイーブイ達の、ボロボロの姿に加え―――まさかだ、まさか【盲目の聖蝶姫】の手持ちであり【氷の女王】の象徴とも取れるポケモンが自分の目の前に現れ、救いを求めて来ただなんて

ダークライ、闇夜。このポケモンの事は嫌でも知っている。先程の悪寒はこのダークライからだと知れば納得がいく。このポケモンは、裏業界に住む沢山の人間達を闇に堕としてきたのだから

そんな事よりも、一体何があったというんだ。二匹がボロボロ、見間違いではなければ包みの中はモンスターボール…チラリと見えている緑色のボールは、ヒビが割れてしまっている

サカキはすぐさまダークライの腕に眠る二匹を引き取ろうと腕を伸ばした

しかし、すぐにダークライは二匹を抱えたまま影の中に戻ってしまう






「!」

《私の問いに答えない限り、この子達をお前に託すわけにはいかない》

「………答える前に問う。何故俺の名前を知っていた?」

《主が私に複数の名を伝えた中に、お前の名前があったからだ》








「カツラさん、マツバさん、ミナキさん。この人達は一番信用出来る人達だから、一番に探し出してこの事を伝え手欲しい」


「そして、サカキさんも探して。彼もまた信用出来る人―――彼には知ってもらわないといけないし、もしかしたら何か知っているかもしれないから」









「―――――……ミリとは血の繋がらない家族みたいなものだ」

《…家族、だと?》

「あぁ。アイツは俺の娘みたいなものだ。出来のいい義娘…俺には息子がいるが、息子の姉代わりとして世話になった時もあった。今となったら一緒に食卓を囲む仲だ。…アイツが俺の名を出したなら、信用してもいいはずだろ?」

《―――…》





目の前にある不自然な黒い影

影の中に姿を眩ますダークライを相手に、サカキは嘘偽りのない正直な事を話す

アイツがシンオウに行く前にも食卓を囲んでいたし、報告を受けた、電話も受けた。少なくても―――たとえ一線が引かれていても―――向こうもこちらを父親として接してくれている事は分かっていた。自分がいて息子がいて義娘がいる。昔では考えられなかった、この心地好い関係が、サカキは好きだったから




ズズズッ、とダークライは頭部だけを影から現し、金色の瞳を怪訝そうに覗かせた






《……家族、か。残念だが主には父親がいる。血は繋がってはいないが、戸籍と呼ばれるモノには家族となっている》

「そうか。アイツにちゃんと親がいるならなによりだ。……俺の出番が無くなったのが残念だ。本人が望めばいずれ養子に加えようと思っていたからな」

《…………》

「闇夜、と言ったな。俺のミリの関係性は話した。次はお前だ。まずはその二匹の手当てをさせてくれ。そのボールもな。そして話してもらうぞ―――ミリの身に、一体何があったのかを」







「いってきます、サカキさん」






温和で優しく、それでいて楽しみだと言わんばかりの眩しい笑顔を残して、シンオウへ旅立った―――最後に見たミリの姿

世間は【盲目の聖蝶姫】の事で騒ぎつつある中、何も知らずにシンオウへ行ったミリ。目的があってシンオウに行く彼女をサカキが止める権利は無く、本当に純粋に楽しんで行ってこい、という気持ちで見送ったというのに

仮に【盲目の聖蝶姫】の件で巻き込まれたとしても、向こうにはナズナがいる。ナズナなら先回りしてミリを保護してくれるだろうと踏んでいた。勿論、顔の知らない白銀の麗皇にも。不安要素は拭えないにしても―――命に関わる事は無いだろう。そう思っていたのに

ダークライの腕に眠る二匹を見て、何も起きていないのがおかしいくらい痛々しい姿になってしまっている。察しのいいサカキには、ミリの身に危険が及んだ事に気付いてしまう

このダークライはテレパシーを使える。それが救いだろう。助けを求めたところでこの二匹にはテレパシーの兆候はない。だからこそミリはこのダークライを差し向けたに違いない




真剣なサカキのまなざしがダークライの心に届いたのか、ゆっくりと影の中から姿を現した

金色の瞳が、サカキを写す






《…いいだろう。私は影、主の影。主が認めたのなら、私も認めよう。お前の瞳には、嘘偽りが無い。…人を信用しなかった主が認めた人間だ、信用してもいいだろう》

「………」

《サカキよ。お前にこの子達を託す。そして聞いて欲しい、主に何があったのか、そしてシンオウに降り懸かる脅威の存在を》






ダークライは抱いていたイーブイ達をその大きな手で包み込み、サカキに差し出した

辛そうに眠る二匹の呼吸は荒い。早く手当てしなければ命が危ういかもしれない

まずは秘密基地に招き入れて応急処置から始めよう。サカキは差し出されたイーブイ達に手を伸ばした




――――その時だった








「―――ちょっと待ってほしい!」

「その者に渡してはならない!」








息を切らす新たな来訪者






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