光ある世界に行きましょう

光ある世界に赴きましょう

光ある世界に誘いましょう



光ある世界を、求めて









Jewel.02















聖地

それは何も無い一つの空間から造り上げられたもの

外界から閉ざされた唯一の異空間でもあり、何物にも囚われない時空間でもある





聖地

それは【異界の万人】が造った世界

【異界の万人】でしか造れない世界







聖地

それは…―――――























「――――…やっぱり、どの聖地もとても素敵な場所…」







聖性の力が満ち溢れるこの場所は、聖性の力を動力源に使う私にとってはとても居心地が良い場所だ。足りなかった聖性を補充出来るし、聖性が心身を癒してくれる。欠けた何かが、聖性の力でゆっくりと、ゆっくりと満ちていく



此処は第五代目【異界の万人】が造った異空間


何故、此処に来てすぐに分かったのかが、分からない。不思議な話だ、私は以前この場所を訪れている。初めてなのに、本当に不思議。聖性は人によって違うのに、この世界に満ち溢れる私の聖性と限り無く近く、異なった聖性の源を私は知っている。記憶の引き継ぎはまだな筈なのに、知らなくて当たり前なのに本当に…不思議






パシャリと不意に音がする


眼前に広がる水面に何かが触れ、水滴が跳ねた音。それは私の隣に座る別の存在―――ミュウツーの刹那が、その長い腕を伸ばして湖に触れていた。パシャリパシャリと遊ばせる刹那の頭には―――セレビィの時杜が嬉しそうに小さく歌を弾ませていた。私の背中に座る―――スイクンの蒼華も静かに目の前の世界を眺めていた








《―――…此処が、聖地か》

「そういえば刹那は初めてだったね。聖地という、この場所を」

《…あぁ…確かに此処は初めてだ。私が知っている限り、どの湖よりもどの土地よりも清らかで神々しく美しい場所だ………しかし、》

「?」

《……………私は、この場所を…知っている気がする。初めて来た筈なのに……何処かで誰かから話を聞いた様な………いや、これは私の気のせいだろう。……私は此処に来たのは、初めてなのだから》

「………」

《……だが、何故だろう…私の細胞が、この場所に来れた事を、喜んでいる気がする……分からない…》

「そっか……あまり落ち込まないで、刹那」

《…あぁ…私は平気だ…》

《うーん…でも、刹那がこの場所に来れた事は誇りに思ってもいいよ。この場所はミリ様達【異界の万人】が認めてこそ入れる場所なんだから。そうだよね、蒼華》

「…」
《そうだ。他の同胞でも入る事が叶わないこの場所にお前がいる。主人に認められ、側に居られるこそ光栄に思った方がいい》

《…………そうか……私は主に認められた、だから私は此処に居る。光栄な事、か…そうだな、光栄な事だ》

「フフッ、よしよし」







腕を刹那の元へ伸してやれば、私の手に気付いた刹那が自分から近付いて来てくれる。そのまま頬を撫でてあげれば嬉しそうに感情を揺らす刹那に、自分も!と腕に抱き着いて来た時杜にも胸に引き寄せて、その小さな頭を撫でてあげる。愛らしい二匹の仕草に自然と笑みが零れる。こちらも擦り寄ってきた蒼華にも笑みを浮かべながら撫で返す私は…――――改めて今の自分達の状況を振り返る







―――――…私達は気付いたらこの場所にいた




どうして私達が聖地にいて、いつこの場所に来たのかが分からない。そもそも、私達は此処に来る前までの記憶が無かった。どんなに思い出そうとしても、自身の事なのに全然浮かんでこなかった。頭の中が霧状で包まれている、不思議で曖昧な感覚。しまいには探れば探る程、頭痛が襲いかかってくる。何かの術に掛かっているのだろうか。しかしどんなに解除の力を働かせても一向に現状が変わらず、この言い様の無いモヤモヤが己の胸内を締め付ける。自分の事なのに、最近あった出来事が、思い出してくれない

唯一思い出せるとすれば、私は確か別の異世界に居た筈だ。私が主に拠点とする世界で、一般人として、しがない学生として(年齢を詐欺しているとかはさておき)生活をしていたはず。もっと詳しく言えば、私はフレイリが趣味として経営する宝石店の副社長として勉強に励んでいた、のだけど…そこまではしっかりと覚えている。覚えているんだけど―――…就寝したその後の記憶が全くもって存在しない

でもおかしな話だ、こんな状況になっても落ち着いて居られるんだから




―――此処は、ポケモンの世界




初めて来た世界。それなのに、私の隣にはこの子達がいた。初めて見たポケモンにテンションが上がり、そのポケモンにもテンションが上がる、筈だった。普通だったら。そう、普通だったら。この子達を見ても驚かず、むしろ居るのが当たり前で…しかもこの子達を覚えている。流石にどうやって出会ったのかまでは分からないけれど、こんな不思議な自分の心境に心の奥では驚くばかり

そんな私の内心はともかくとして、何故か三匹の身体はボロボロで、対する私の方も薄手の恰好に素足といった無防備の恰好で立ち尽くしていた。とりあえず急遽彼等の身体の傷を治してあげたけど…一体、どうして。私達は、"何"かと戦っていた?だからこんなにこの子達はボロボロに?…なら私は?何でこんなに無防備な恰好?フレイリの悪戯?イジメ?おいおい勘弁してくれ。まだサバイバルやら戦地に放り込まれないだけまだマシだけど…!マシだけど…!

リン、と耳元で鳴るのは二つのクリスタルのイヤリング

コレも気付いたら私の耳に付いていた。大小のクリスタルに細くて綺麗なチェーン。私、イヤリングだなんて綺麗な物は付けていなかった筈なのに……嗚呼、なんだかもうよく分からない。まだピアスじゃないだけマシだけど。ピアスって手入れ大変だし、それに穴開けたら力の働きで塞いじゃって意味ないし









「…目も、見えないなぁ…」

《大丈夫ですか?》

「えぇ、見えなくても支障は無いから平気…――――皆が居るから、見えなくても大丈夫」

《なら良かったです!》








気付けば眼も見えなかった

視界は真っ暗だ。瞼を開いても何も写しだされていない。でも、大丈夫。問題は無い。今更視界が失ったとしても、私には力がある。五感の一つが失っても補える力を。むしろ逆に見たくもない世界を見なくて済むと考えれば都合がいい。もう、嫌なモノは見飽きたから

それに私には、この子達がいる

他人の眼を借りて世界を視るこの能力――――…名を"心夢眼"。まるで夢の様に、心で視るこの能力があれば、私は見えない世界を視る事が出来る。距離や範囲なんて関係ない。私が認め、心を繋ぎ、シンクロを交わせば―――どんなに遠くにいても私は世界を視れる



だから―――…大丈夫




















「――――…さて、と」








膝を折って、刹那の手を借りて私は立ち上がる。少しよろめいてしまったが後ろに控えた蒼華が支えてくれたので彼に身体を預けながらゆっくり身体を起こす。ありがとう、二匹に言葉を掛けた私は腕を伸ばして二匹の頭を撫でる。それから私はパチン!と指を鳴らした

すると何処からともなく淡い光が溢れ出し、光が形を変え、フワリとコートが私の手に現れる。時杜がコートを手に持ち、導かれる様に袖に腕を通す。それから時杜は胸元にある前のボタンを閉め、ピッとリボンの皺を伸ばす。満足そうに触覚を揺らす時杜にありがとう、と私は微笑む

また一つ指を鳴らせてみれば、私の足下にまた淡い光が溢れ出し、今度は花のワンポインが可愛らしいシンプルなサンダルが現れる。刹那がしゃがみ、その球体の手を使って器用にも私の足にサンダルを穿かせてくれた。刹那にも感謝の言葉を述べながらその頭をよしよしと撫で…――――私は顔を上げた








目の前には、紅い橋

不安定に揺れる紅い橋は、やがては立派な姿になりうつす

それは真っ直ぐに――――湖の上に鎮座する紅い祠まで伸びていた










「――――…思い出せないのなら、旅をしよう。分からなかったら、原点に戻ろう。私達は何故、どうして"此処"にいるのかを―――捜す旅に、赴きましょうか」








心夢眼で見える紅い祠

紅い祠から繋ぐ小さな祠

小さな祠の上には大きな光




別の空間へ繋ぐ、光の扉









「まずは何処に行こっか。光の扉は四つあるから…その扉が一体何処に繋がっているか、だよね」

《僕はミリ様に着いて行きます!》

《私もだ。私は主に従い、主と共に歩むのみ》

「…」
《主人の歩む道こそ、我等の歩む道。主人の思うがままの道を進め》

「―――…フフッ、そうだね。なら皆には、トコトン付き合ってもらうから、そのつもりでいてね」








振り返ってはいけない

私達は、前に進まなきゃ



無くしたモノは、そのままに


昔の私と、一旦お別れ

さようなら、昔の私









「行こっか、皆」











どんなに茨の道であろうが構わない

私達は前に進む

この子達と共に、皆と一緒に


無くした記憶と、さようならして






リーン…―――――







そして私達は眼前の橋に足を踏み入れるのだった










(一つの光が、輝きを放った)

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