コトブキマンションから見える景色は相変わらず壮大で見応えのある美しい景色なのは変わらないが、唯一変わってしまったのは―――空はヘリコプターで縦横し、陸はパトカーや白バイが忙しなく走り回っている。道端は通行禁止になり隣街にいけないトレーナー達で溢れている。ただでさえコトブキシティはシンオウ随一の都会街、"外"の状況が状況であっても、このままだと収集がつかなくなるだろう しかしもう自分にはどうする事も出来ない。無力な自分はただただ眼下の景色を眺めるだけ。そして友人達や総監の活躍を此処で応援し、行方不明になってしまった大切な娘の安否を祈るだけ――― 「ハッピー…」 「ミルミル…」 「くぉー」 「あぁ…すまないね、構ってやれなくて」 「……ホーク…」 「私達には何もする事が出来ない。彼等を信じて、待つしかない。…それまで暫くの間、君達には窮屈な思いをさせてしまうと思うが、許してくれ」 「ハッピー」 「ミル」 「こぉ」 「…ホーッ」 ソファーに座り、静かに外の景色を眺め続けるアスランの元に、彼の手元に渡ったポケモン達が心配そうに主の様子を見つめていた ハピナス、ミルタンク、ゴクリン―――そして、新たに手持ちに加わったムクホーク このムクホークはコウダイの手持ちだったポケモン。否、正確にはパソコンの中に預けられていたポケモンだった。このムクホークは高齢でもあり手持ちからリタイアするも、スピードは遅くても人を乗せるだけの体力はまだまだ健在。もし万が一の事を想定し、コウダイから譲り受けたのだ 高齢でおじいちゃんなポケモンとはいえ、一匹増えた事により一段と雰囲気が明るくなる。一人だったアスランにとって新たな仲間の存在は嬉しい事なのだが―――色々な状況が重なってしまった手前、気持ちが追いつけていなかった 「―――…アスランさん」 脳裏に浮かぶのは、大切な娘の笑顔 太陽な笑顔でもあり、月の微笑を浮かべていた事もあったミリの姿。慈愛に包まれた暖かな存在は、聖母とも言えるし女神とも言える姿で、優しくポケモン達を、自分達をも包み込んでいた そんな彼女が―――裏では【氷の女王】と呼ばれるくらい相手に酷な仕打ちをしていただなんて、一週間経った今でも信じられるものではなかった 「―――…今思うと不思議でならない。何故気付けなかったのか、気付こうともしなかったのか…状況に満足していたにしても、当時の自分があまりにも愚か過ぎて……なんて自分は、馬鹿だったんだ……ッ」 「……こちらには、ホウエンの犯罪組織などハンターが彼女達を狙っていたという話はアルから耳にしていた。追い返す程度とまでしか聞かなかったが………そこから【氷の女王】になってしまったと考えていいだろう……」 「アルさんは…知っていたんでしょうね。彼女の事を、【氷の女王】の事を―――敢えて私達に言わなかったのは、彼女を守る為だったのでしょう。【氷の女王】という冷酷な名前によって彼女のイメージを崩さない為にも……」 「………何故、わざわざ小島でそんな事していたかは…彼女が見つかった時に聞けばいい。といっても記憶は無いが……しかし、そんな事よりもまずは彼女を見つける事が先決だ。…アスラン、気持ちは分かるが気を落とし過ぎるなよ」 「ッ、あぁ……分かっている…」 "何故"という疑問から始まり 込み上げて来るのは―――"怒り"の感情 初めてだと言ってもいい。彼女に対して、こんなにも、怒りの感情が芽生えてしまっただなんて 何故、自分に何も言ってくれなかったんだ。何故、秘密にしたんだ。何故、自分一人で背負い込んでしまったんだ―――と 疑問、動揺、困惑、怒り、そして悲しみと後悔がグルグルとアスランの心を掻き乱した。ただでさえアスランは罪の意識が人より強いのに、この話はさらにアスランを追い詰めただろう 「アスランさん、そろそろ私達は寝ますね。おやすみなさい」 「ミロー」 「キューン」 「おやすみなさい、アスランさを!」 「チュー…Zzz…」 「あぁ、おやすみ。今日もよく休むんだよ」 「はい。アスランさんも」 あの時の彼女は"彼女"で間違いない 【三強】達が傍にいない、今だからこそ分かる違和感―――家に居たミリと、【氷の女王】のミリ―――彼女達は同一人物、しかし身体は一つしかないのに、何故、何故―――まるで分身が動いていたかの様な、不可思議な事が起こっていたなんて 一体、どういう事なんだ 彼女は、一体、何者なんだ ――――記憶が無くなってしまった以上、それこそ真相は闇の中だろう 「――――…アスランさん」 嗚呼、本当の彼女は 自分の知るミリは―――何処にいってしまったんだ くぅぅぅぅ… 「くぉー」 「!―――…おや、もうこんな時間か。夕飯の時間だったね。ハピナス、ミルタンク、すまないね用意を頼む」 「ハッピー!」 「ミルミル〜」 「さぁて。今日のご飯はなんだろうね」 「こお!」 「ホー」 まずは無事でいてほしい 安心させてくれ 今はまだ、理由は言わなくていい。けれど記憶が戻ったら、聞かせてほしい こんな事をしてきた、君の話を――― (その時は父親として君を叱るつもりだから) |