此処は、ふたごじまの山頂―――






「―――――………」

「―――――………」

「―――――……」

「―――――……」







「―――――あ!」

「!!」

「あー………、あー、……」

「……………」

「………………あ!」

「!!」

「…………あーー…」







「――――マツバ、頼むから少しその反応を抑えてくれないか」

「あー、ごめん。ちょっと待って、後少し………!あーーーーー……あ?…………残念、違った」

「だからな、それな、それ。こちらが勘違いするからそれは止めろな」





ふたごじまの山頂に、二つの影

山頂なだけあって吹き曝しでむき出しの場所に、マツバとミナキの姿があった。眉間に人差し指と中指を重ねたポーズで千里眼を行ない続けるマツバに、少し離れた場所にはミナキがその後ろ姿を見つめていた

ふたごじまは寒い。山頂ならそれこそ氷点下並だ。防寒具完備の状態とて身体に突き刺さる寒さは身に染みる

ミリが行方不明になり総監であるゼルからの承諾を得た一週間前を含めて千里眼を発動してから―――今日で既にかなりの時間が経過していた






「あー、ごめん。また出ちゃっていた?中々直らなくて………まぁ相手がミナキだからよかったけど」

「………マツバお前、昔は黙ってやっていただろ。どうしてそうなった」

「……どうやら無意識にやっているみたいでね。中々直らなくて…どうしたもんだか…」





千里眼を発動している時に、本人の意思とは関係無しにマツバの口から出る癖。数年前には無かった癖が、何故ややこしい形で生まれてしまったのか。千里眼を発動している本人はともかく、傍で聞いているこちらはその反応一つで見つかったのかと期待してしまうというのに。ミナキは呆れた様にため息を吐いた

マツバ曰く―――数週間くらいに出始めた癖、らしい。いつしか千里眼を発動していたら依頼主に指摘を受けたそうで、その時発覚したらしい。本人はまさか変な声が出ていたとは思わずすっごく恥ずかしかったと後になって語る






「で、収穫はあったのか?」

「………いや、相変わらず」

「………」

「あと少しでシンオウを全て視終われる。日が過ぎるたびシンオウの森や街が騒がしくなっていくのがよく分かる。…彼等は必死になってミリちゃん、そして奴等の居所を掴もうとしている。勿論、レン達も諦めずに必死になって動いているのが視えた。…僕もいい加減、あの子達を見つけないと」





自分から名乗り出たのにも関わらず、一向に成果の兆しが見えない

ただでさえシンオウは広い。広大な土地を全て視るとなると時間も掛かれば神経も使い、疲労が蓄積されていく。一週間殆ど寝ずにぶっ通しで千里眼を続けるマツバの姿は危ういもので

いつの日か、"記憶の光の欠片"たる不可思議なモノを探し当て―――たとえ他者からの介入によって得た成果だったとはいえ―――確かな自信と実力を持ったと自負していたマツバだったからこそ、一向に見つけ出せない探し物に焦りを覚えていた






「………あまり根を詰めるなよ。倒れてしまったら元も子もない」

「分かっている。…それに、仮にそうなってしまったらミナキ、君がいる。ゲンガー達に任せても倒れた時に身体を通り抜けて地面にダイレクトしても困るし。受け止めてくれるのが君だったら本望だ」

「マツバ……」

「といっても正直ミリちゃんだったらどれだけ嬉しいか……おにーちゃんは寂しいよ…」

「…始めに言っておくがミリ姫みたいに丁重には扱わないぞ」





軽口を交わしながら、マツバは休む間もなく千里眼を発動させる

ミナキの心配そうな視線を振り切って、集中させる。今此処で体調を崩している場合ではないし、休んでいる暇もない。心配してくれる気持ちは有り難いが、彼女の手掛かりが見つかるまでは目を瞑っていてほしい






「――――………しかし、こんなにも探しているのに見つからないとなると…他の地方まで視た方がいいのかもしれない、か…」






彼女が死んだとは思わない

ポケモン達も、絶対に生きているはずだ

自分達の知る彼女だからこそ―――自身の身を捨ててまで、あの色違いのポケモン達を何処かへ逃がしているに違いない

彼女には不思議な力を持っている。強い力に、恐ろしい闇を。かつて自分が畏怖したその力で―――必ずポケモン達を守っている。時渡りのポケモンの能力もあるんだ、彼女自身が逃げ切れなくてもポケモン達なら絶対に逃げ出せたはず

そうであってほしい。それがマツバの願いでもあった






「―――マツバさん、貴方は筋がいい。やっぱりその道にいたからかな?掴みがいいよ。これなら早い段階で習得出来るよ。負のオーラに影響されない、強い心を」



「大丈夫です、マツバさん。この私がいる限り、負のオーラで苦しむ心配はありませんよ。一緒に乗り越えていきましょう、マツバさん―――」






千里眼の修行者というプライドを掛けて、必ず見つけ出してやる

マツバはさらに発動を続けた










「―――――……」






マツバの後ろで静かに見守るミナキ

ミナキの脳裏に―――いつしかミリと交わした、ある会話が木霊していた






「ミナキさん、マツバさんの事をよろしくお願いします」

「!…なんだミリ姫、突然どうしたんだ?」

「力を持つ者は高みを目指すあまり、自分の身をないがしろにする事があります。マツバさんはそれに近い…特に追い込まれた時に使う力の場合は危険です。千里眼となると、意識が飛んで帰ってこなくなる可能性も…無いとは言えないんです」

「………」

「そうならない為にもストッパー役として、親友であるミナキさんにお願いしたいんです。彼を、力に溺れる事がないようにしてほしい。お願いします、ミナキさん―――」






力を持つ者だからこそ分かる苦悩。あの時彼女の瞳は有無を言わせないものだったのを今でも忘れず記憶に刻まれている

生憎自分はそちらの道にいる人間ではないので、事の重要さはいまいち理解に乏しいのが本音だったりする。しかし、彼女が適任だと背を押してくれるのなら、身体を張ってでも役目を果たそう

もう自分では何一つ手段が無い今、唯一貢献出来る事としたら親友の安否を確認し、力に溺れないように見張る事―――












「………………あー、………ああああ………あー……………あ、間違えた。………うーん、………あー、………あー…」

「………ミリ姫が戻ったら一度アレ見せて直してもらった方がいいな」











暫くしたらマツバの口にガムテープが貼られていた






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