「―――――しかし、先日随分と驚かせられた。ゼルジース…レンの双子の兄が現れただけじゃなく、まさか総監だったとは。後から思い返すとジワジワくるものがあるよ。…そんな事は後回しにするとして…―――ナズナ、大丈夫か?あの時はマツバ君とミナキ君がいたから安易に口を出せなかったが……まさか、君をクリスタルにさせた元凶が目の前に現れるなんて」

『……先詠みの力で何度も何度も殺されかけた映像を見せられれば、平常心でいられないのが本音だ……』

『トラウマになってしまうのも無理はない。…シンオウに戻ってから暫くして、ナズナが火に対する恐怖心を持つ様になってしまったのだからな』

「火に対して、だって?…仕方が無い事だ。そうなってしまってもおかしくない。……炎ポケモンは平気なのか?」

『あぁ……だがしかし、自分に向けてかえんほうしゃをされると…暫く震えが止まらないだろう……まさかこんな後遺症が残ってしまうとは』

「…………、なるべくナズナに私のポケモン達を会わせるのは避けよう。しかし、トラウマを持ってしまうのは分かるが…何故後になってトラウマが出てしまうのかが疑問だ。ナズナがまだこちらに居た時には日常茶飯事だったのに…」

『……多分、それはミリがいたからだ。ミリの力がナズナの後遺症を抑えていたのかもしれねぇ。……ま、当の本人は無自覚だったにしろ、こちらも体験済みなんでな。あながち間違ってはないぜ』

『……ミリさんの、力か……』

『…………』

「ナズナの後遺症、ミリ君が治してくれるんだったら治してもらった方がいい。火は日常でも使うんだ…あのガイルと名乗る執事に対抗する為にも克服した方がいい。ミリ君なら進んで手を貸してくれるはずさ」

『そうだな……これに限ってはミリさんにお願いするしかないな』

「またポケモンタワーが見たいしね」

『俺を殺す気か』








この会話は―――あの会合を終わらせて、改めてあの三人とテレビ電話で言葉を交わした時の内容

忌々しそうに眉間に皺を寄せる、普段ならけして見ないナズナの表情は珍しいの一言だが、それだけナズナのトラウマは深いモノなのだろうと推測出来る






『――――奴等は、俺にした仕打ちを…無かった事にしている。俺達はあくまで初対面だときたものだ。こんな笑えない話、あったものではない』

『しかもガイルと名乗るあの執事、ただの人間ではない。ナズナのデンリュウのエレキボールを易々と受け止めたのだ、普通の人間だったらよほどの事が無い限りありえない芸当だ』

『少なくともアイツ等に敵意は無い。むしろ気持ち悪いくらい友好的な姿勢でいやがる。利害一致の関係、とはいえ…何処まで信用していいものか』

『解せないが、ゼルジースが言う"まっさらな人間"として奴等の居所を見つけ出す。まず話はそれからだ。カツラさん、くれぐれも他の者達に知られる事がないようにしてほしい。他には―――…』








親友が、あんな状態にさせられた

常識では考えられない、不可思議極まりない状態になってしまった

本当だったら自分達にとって"敵"だ。敵以外でも何者でもない。何が目的でナズナを、イーブイ達を狙い、また何故ミリを狙っているのか。ハナダのどうぐつの鍾乳洞で爆発をさせてまでミリと自分達を引き離したとしたら、危険極まりない行為をけして許してはならない――――少なくても、こうも早く対面する日が来るとはカツラも含めて全員が思っていなかっただろう

思わぬ状況で、彼等は現れた

ミリが行方不明になった、あの日。ナズナから「思わぬ想定外の人間がいる」と言われ、いざ会合に顔を出したら―――いた。まさにレンと瓜二つの、本来敵である筈の、人物が、優雅に紅茶を飲んでいたから驚いた。年輩者として、なんとか動揺を押さえ込んだカツラであったが、正直なところ目玉が飛び出るくらい驚きたかったのが本音だった

シンオウの彼等には、ゼルとガイルとの関係性を明かすわけにはいかない。向こうもあくまでも総監として立っている。こちらの立場を弁えた上で、カツラはしがないジムリーダーの一人として説明に専念してきた

彼等に敵意は無い。それは彼等の姿勢でよく分かっていた。一旦解散になって自分達が残り、ナズナとレンの威圧を受けたとしても一切臆する事もなく、むしろナズナの罪を許すとまで言ってきた。ロケット団にいた罪、ハッキングをした罪、それ以外にも―――聖地に足を踏み入れた罪をも許す。カツラにはそう思えてならなかった







「――――…一体、どうなってしまうのやら」





ナズナに関しては、ゼルという総監の後ろ盾で"真人間"に戻れるのなら、是が非でも戻って欲しい。ナズナは自分でも認める優秀な人間だ、こんなところで躓いては困る

自分の身がどうなっても構わない。ナズナには、幸せになる権利があるのだから








「ミリ様はお前を許した。その罪をも、あの御方は全てを許した。そう、全てを――――だからこそ、俺はお前の実力を買っているんだよ」








ゼルジースが絡む全ての因果の矛先は、ミリだという事には間違いない

まずは行方不明になってしまったミリを探す。その事についてはお互いに手を取り合うつもりだ。つまり利害一致の関係になるのだが―――ミリが見つかったその先の未来は、どうなる?




少なくてもミリを求めてレンとゼルが争うのが目に見えていた。二人は双子、よく似ている。二人は二人なりに争い、奪い、泥沼合戦になるまで勃発するのだろう。やりかねない。三角関係ドロドロ展開にいきそうで恐い

ゼルの執事であるガイルがどう動くのかが気になる。人間とは思えない行動をしたとしたら、いずれ彼が何者かつき止めなければ、彼が一番厄介な人間なのは間違いない

そしてナズナとレン、そしてゼルを繋ぐ"聖地"にも矛先を向けなければ、全ての謎が解く事が出来ないだろう










「――――…カツラさん!」












レン、ゴウキ、ナズナ

マツバ、ミナキ

カントーとジョウトの仲間達

そしてシンオウやホウエンの者達


彼等の心を魅了するばかりに飽き足らず

総監にまで虜にさせるとは……






「つくづく君も、罪な人だ………」

「…?クゥーン?」

「あぁ、すまないガーディ、こちらの話だ」







その"孫"を持つおじいちゃんも大変だ

大変だけど不思議と楽しいと思う自分がいる




カツラは足元にいるガーディの身体を撫でつつ、しかし笑みを零しながらこの先訪れるであろう未来を思案するのだった













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