「そういえばゼル様、最近好物のケーキをお作りにならなければ召し上がってもいませんが……体調でも悪いのですか?」

「あ?…あぁ、その事か。俺なりに償っているんだよ、ミリ様を巻き込ませた事のな。…だから今、甘いモンを一切禁止している」

「そうでしたか。…その割には紅茶に砂糖はお入れになるんですね」

「…そこは大目に見てくれ。…―――甘いモンの解禁は、ミリ様が無事見つかった時…それこそ一緒にケーキを召し上がってもらう時までだ。解禁した暁にはとっびっきり上等で美味いケーキを作ってやるんだ、…楽しみはとっておくものだぜ?」

「(……糖分不足で暴れない事を祈るしかありませんね)」









※糖分不足で暴れた事があり


―――――――
――――












「――――…しかし、此処までくると暇ですね。未だリーグは私達の居場所を見つけ出せていないとなると、どう暇を持て余せばいいか」

「そうですね。暇過ぎてトランプゲームも飽きました。次何やります?」

「ランス、次はジェンガでお願いします」

「はいはいジェンガですね」






此処はシンオウにあるとある屋敷の中

西洋風の屋敷、中も西洋風で造られている構造は少し場違いにも感じられるこの場所。立地している場所が場所なだけあって、この屋敷がとても不気味に見えてしまっているのか誰一人としてこの屋敷に立ち入ろうとはしない。隠れ家としたら上等な場所だろう

西洋風、しかし何処かボロボロのテーブルを囲むのは、今指名手配真っ盛りの渦中であるアポロとランスの姿。先程までトランプゲームの他に色んなゲームをしていたらしく、テーブルの上は道具が散らかっていた

しかも此処に居るのは、アポロとランスの二人だけではなかった






「確かにな。こんなに暇だって分かってりゃ俺達別に急いでくる必要無かったんじゃねーか?」

「そうよ。あー、ホウエンの温泉とっても気持ち良かったのに!ずっとこんなところで引きこもっているとお肌がストレスでボロボロだわ!」







一人の男―――紫色の髪と瞳、不精髭を生やし猫背気味な特徴の三十代前半の男

名は、ラムダ


一人の女―――燃える様な真っ赤な髪と瞳を持つ、所謂ナイスバディな体型で色っぽさを魅せる二十代後半の女

名は、アテナ



彼等二人もまた、アポロとランスと同じロケット団復興を目論む仲間でもあり

かつてロケット団時に同じチームメイトでもあった、ナズナの部下達でもあった







「さあランス、組み立てなさい」

「指定した本人が何を言いますか」

「しかしジェンガとか懐かしいわねぇ。昔よくやっていたわよね。覚えている?」

「あー、あったなぁそんな事…」

「いつも必ず崩すのはラムダでしたね。今日はなるべく崩さないで下さいね」

「うるせー。苦手なんだよ」

「崩したら罰金ですから」

「鬼か。お前は鬼か」

「はいはい貴方達も組み立てるの手伝って下さい」






世間はポケモン凶暴走化現象で怯え、騒がれ、『彼岸花』の脅威に警察やリーグが必死になって居所を掴もうとしているのに、当の本人達は呑気に仲良くジェンガをして暇を持て余していた







「貴方達はまず、貴方達のお仲間さんと合流をお願いしたい。こう見えて私達『彼岸花』は人手不足なので。合流出来ましたら連絡下さい。またおって連絡をしますので」







ジョウトにいたラムダ、ホウエンにいたアテナ。一週間も経てば遠くにいた二人もこちらに合流する事が出来た

二人には既に事の説明はしてある。ロケット団復興の為に『彼岸花』と手を組んだ事、シンオウに元上司のナズナが生きていた事、行方不明の【氷の女王】を生きていて且つ捕らえる事に失敗して消息不明になった事――――話を聞いた二人は、それはそれは驚きを隠せないでいた

やはり一番二人を驚かせたのは、元上司が生きていた事だ。自分達を見捨てた上司が、ナズナが、博士になっていた事に加えて"あちら側"の人間になっていた事を

何故、上司があちら側の人間として成り下がってしまったのかはこの際気にしない。生きていたのならそれで結構。ただ、上司はロケット団にとって重要な主戦力、味方にするなら頼もしいが―――敵に回ってしまったら、どうなってしまうのか



不意に、煙草を吸っていたラムダがジェンガを黙々と組み立てていたランスに声を掛けた







「…なぁ、ランス」

「何でしょうか」

「お前、もう悪夢は収まったのか?」

「……………」






ピタリ、と

ランスの手が止まった






「……相変わらずですよ。まぁ、昔と比べたらいくらかマシです。不本意とはいえ、女王を倒した事には変わりありませんから」

「そうかい。ま、よかったじゃねーか。因縁果たせてなによりだ。あの時のお前、色々とヤバかったからな」

「………」








「―――………」

「おーっすランス、丁度いいとこ、ろ、に……………ランス、お前大丈夫か?目の下すっげー隈あんぞ。つか、生きてるか?」

「………い」

「あ?」

「―――…許さない、許さない許さない許さない許さない…女王の悪夢が、鎖が、罪が、私を…許さない許さない許さない、絶対に次は私が、女王に、勝ってみせる、絶対に、絶対に絶対に絶対に絶対に」

「ッおいランスしっかりしろ!!!―――アテナ!アポロ!ランスの様子がヤベェ事になってやがる!!手を貸してくれ!!」








「俺としたら一度でもいいからあの女王を拝みたかったけどな。どんなベッピンな嬢ちゃんか、恐いモノ見たさってな」

「止めときなさいラムダ。アンタもランスと同じ悪夢に陥れられるか、奪われるわよ」

「あ?奪われる?何を?」

「決まってんじゃない。心よ、こ・こ・ろ。アンタみたいなタラシは女王の魅力とやらにコロッとやられるのがオチよ」

「ほー。コロッと、ねぇ…」

「確かに女王は女の私でも納得するくらいとても魅力的だけど、私は他の人間達とは違う。ああいう何でもこなす完璧な人間、ナズナ様はいいとして…これが女になると無性に気に食わないのよね。私は小娘でも容赦しないわ。…ま、その女王が生きていたらの話だけど」

「皆さん、何度も言いますが女王は私の獲物ですからね。横取りは許しませんから覚悟して下さい」

「へーへー」

「分かっているわよー」







獲物の横取りを許さないとばかりに睨み付けるランスに、ラムダもアテナも軽くあしらいながら完成されたジェンガに手を伸ばす

一人一回、積み上げられたジェンガの積み木を抜いていく。一人、一人と慣れた手付きでサクサクと回数をこなしていく

このまま暇を持て余していくのだろうか。この場所は、隠し宿は、居心地が悪い。以前の地下部屋で過ごしていたあの頃の生活環境と比べたら全然快適だと言えるのだが―――やはりこの屋敷は"出る"と噂をされているだけあって、あまりいい気分ではない。住めば都、まだまだ慣れるには時間が掛かるだろう






「―――――………」






サクサクとジェンガに手を伸ばしながら――――アポロの脳裏に浮かぶのは、一人の男

かつての上司で、一番に尊敬する人だった隻眼の男。そういえば彼とは結局ジェンガをする機会が無かったな、そうぼんやり思いながらアポロはまた一つ積み木を抜き取る









「(……ナズナ様、貴方は何処まで此処にたどり着けれますかね)」







『彼岸花』は、強敵ですよ












結局またラムダがジェンガを崩したのだった





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