「先日…とても懐かしい顔を見たんですよ。元ホウエン幹部長アスランが住んでいるコトブキマンションの前で、ね。―――相変わらず、ムカつく顔でしたよ」








薄笑いから、歪んだ笑みで

喉の奥で怪しく嘲笑うバーテンダーの男。黒斑眼鏡の下にあるその瞳からは、歪んだ憎悪、強烈な――嫉妬






彼は何故、その光を宿すのか


一体、その光は誰に向かれているのか






そんな彼の姿を、客も歪んだ笑みを浮かべて見返していた











「彼等はアスランの話を聞いたのは間違いありません。それから三方向へ飛んでいきましたよ。会話までは聞き取れませんでしたが」







空は夕焼けから夕暮れに変わりつつあった。コトブキシティをオレンジ色に染めていた空はほんのり薄暗くなっていく

喫茶店の窓から楽しそうに子供達が親の手を引かれて帰っていく姿が見えた。親の手には買い物袋がある、という事は買い物の帰りなのだろう。きっとこのまま帰ったら、温かい食卓を開いて家族団欒に過ごすに違いない





嗚呼、なんて平和な世の中なんだ









「彼等をあまり甘く見ない方がいいと思いますよ。一人は警察と関わりがある鉄壁の剛腕、もう一人は白銀の麗皇――…かつて伝説の情報屋と謳われた、アルフォンス=イルミールの息子ですからねぇ」






先程見た三人の面子の中にいた男の姿を思い出しながら、男は言う

かつて青年だった息子は、今や立派な男になっていた

アルフォンスの面影を残す白銀の髪を靡かせながらプテラに乗って飛び立って行った彼。最後に見たピジョンブラッドの瞳は、一点の曇りも無く真っ直ぐ先を見つめていた






六年前、絶望の淵に落ちていた当時の姿とは―――全く想像出来ない姿だった












「―――…まぁ、貴方に言っても無駄な事は分かっていますけどね」






しかし、忠告を促す言葉を言うバーテンダーの男を余所に、客は平然と、愉快そうに笑っている

この状況を、まるで楽しんでいるように

やれやれと、小さく溜め息を吐く男の様子でさえも、客にとって笑いのスパイスになるのだろう。洗ったコップを吹きながらまた小さく溜め息を零した





クツリ、客は喉の奥で、嘲笑う













「―――…結構結構、大いに結構。所詮は無駄な足掻きだ。全てを知った処でまたあの様な悲劇が起こるまで」








客は、嘲笑う

この現状を、楽しむように










「この状況を楽しまずと、一体何を楽しめというのかね?これこそまさに一興だと私は思うのだよ。たかだか一人の女の為だけに、己の欲望を押さえ込み、奮闘する姿はまさに滑稽そのものだ」








笑う、嘲笑う、ワラウ


歪んだ笑み、歪んだ嗜好

愉快そうに、客は嘲笑う








「欲望に忠実であれ。欲しい物は奪ってでも手に入れろ。その姿こそ、人間の最も醜く美しい姿だ」







欲望こそ、人間の本能



男はそう言い、また、嘲笑う










「しかし…あの二人はともかく、アイツは、」

「なあに、私にはあれも人生の通過点でしかない。卿がどうこうにしろ、私にはただの余興に過ぎんのだよ」

「……」

「卿もまた、欲望に駆られ、衝動で起こしたものだ。実に興味深い事だ。私は大変、楽しませてもらったよ」

「…………――――」






コーヒーを含みながら、バーテンダーの男をおかしそうに見つめる客







「それに存在や居場所を見つけられたとしても―――我々の本当の目的には、卿達も気付かないだろう」






カチャリ、と、飲み干したカップをソーサーの上に置いた客は―――喫茶店の窓から見える景色を見ながら、また嘲笑った










「さぁて、一体卿達はどの様にして私達の存在を知っていくのか…楽しみだ」










彼等は一体、何者?





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