「すみません…わざわざお手数おかけしまして」

「キオの為にありがとう御座います」

「いえ、」





ゴマゾウとゴクリン、そしてフライゴンと楽しく戯れる姿を見ながら、キオの両親はゴウキに頭を下げる





「…ゴウキさん、あなたの事はセキから聞いています。あの子を鍛えて、真っ当な道に導いて下さり…本当に感謝の言葉も尽きません」

「アイツはよくやってくれた。…自慢の息子だと思ってもいい。家族を守りたいと思う気持ちには、嘘はなかった」

「ありがとう、御座います…!」






母の腕一本で育て上げた息子を、息子が最も尊敬していた人間から貰うお褒めの言葉は、一番嬉しい言葉

セキの母はそれこそ涙腺が崩壊し、何度目かの涙を流した。隣りにいた夫はハンカチを手渡しながらも、まだ冷静にいられているのかゴウキに事の真相を問い掛けた






「…セキ君は、やはり事故死ですか?」

「今、一課が捜索中だが…事故死としと処理されるのも、時間の問題かと」

「そう、ですか……ですが、殺人じゃなくてよかった」

「何故?」

「殺人は人間の醜い感情から生まれる悲劇です。セキ君は私から見ても立派な人間でした…殺人を受ける様な、他人に不快な思いをさせる様な人間じゃないのは一番に分かっています。ですが…これが殺人だったら……キオに、死の真相など一生言えたものじゃありません」

「…………」

「警察の人間は良くも悪くも憎しみを一身に受ける立場にいます。現に警察だからと、放火魔にやられたとかそういった類いにやられているのも事実です。…セキ君に一体何があったのか……私は、真相を知りたいんです。被害者側の人間なら、誰もが思う事です。それは…貴方なら分かってくれるはずです」

「必ず、俺達がセキの死の真相を明らかにしてみせる」






キオの父はゴウキの真っ直ぐな瞳と揺るぎない決意を垣間見て、改めて頭を下げた。何も出来ない自分達は、ゴウキでしか頼る相手はいない





ゴウキはキオの方へ視線を向け、二人に頭を下げ、キオへ向かう。三匹と遊んでいたキオはゴウキの姿を見て「おじさん!」と声を上げた






「キオ、」

「おじさんありがとう!この子達本当にかわいいよ!」

「ゴマァ!」
「こぉお!」

「そうか、それはよかった」

「うん!」






嬉しそうにキオは笑う

ゴクリンを頭に乗せ、ゴマゾウを抱き上げるキオは幸せそうな顔をしている。兄の死を、まだ理解していない無垢の姿

キオ、とゴウキは静かにキオに問い掛けた。なーに?と上機嫌に反応するキオに、ゴウキはキオの前にしゃがみこみ、親指をフライゴンに向けて言う






「このフライゴンもお前の兄貴から譲り受けたものだ。ナックラーの時から俺の仲間だ。立派に強く、逞しく育っているの、分かるか?」

「え!そうなの?おにーちゃんって色んな人にポケモンを交換しているんだね!やっぱおにーちゃんすごいや!友達が多いんだね!フライゴンかぁ…すっごく強く見えるよおじさん!」

「ジジジジジッ」

「フッ、お前の手に渡ったゴマゾウも兄貴からの贈り物だ。このフライゴンの様に、強くて逞しいドンファンに育て上げるんだ。いいな?」

「うん!ボク、おにーちゃんやおじさんみたいなりっぱなドンファンに育てる!がんばろうね、ゴマゾウ!」

「ゴママ〜!」

「こほぉー、こぉ!」

「あ、分かってるよゴクリン!お前もりっぱなマルノームに育てるからね!」

「こお!」






純粋無垢な笑顔で、キオは笑う

キオの頭を撫でたゴウキは、ゴマゾウとゴクリンの頭も撫でた後、立ち上がった。こちらを見上げるキオを見下げて、静かに、でも、真剣な声色を含めた声で、言った








「キオ、強くなれ。誰にも負けない、自分にも負けないくらいに実力を持て。そしてお前の兄貴の様に、その力を誰かの為に使え。大切な者の為に、守りたいものの為に強くなるんだ。お前の兄貴も、セキもお前らを守る為に今まで頑張ってきていた。……兄貴の様な立派な男になれよ、兄貴を越える意地を見せてやれ」







まだ兄貴の死を、知らなくていい。小さな弟には、まだ子供には大切な人間の死の現実は、残酷でしかない

ゆっくり、兄の死を受け入れ、その過程で強くなれ。現実を受け入れるくらい、心も鋼の様に硬くなれ


(それが、ゴウキなりの)

(正しい選択への、助言)









「…うん!ボク、おにーちゃんやおじさんみたいな強い男になって、みんなを守っていくよ!」

「ゴママ〜!」
「こおっ!」








まだ、言葉の本当の意味を知らなくていい

今はまだ、兄から譲り受けたポケモンに喜んで、笑ってくれればいい。ポケモンは、どんなことがあってもトレーナーを支え、守ってくれるから



しっかりと頷いたキオ達を見て、ゴウキは静かに笑ったのだった















「…付け加える様に言うがな、キオ」

「なーに?」

「…お前の兄貴より、年齢は下だぞ」

「え、」

「故にまだ俺はおじさんではない」

「嘘、」

「それにまだ息子など持っていない」

「え、」

「普通、おじさんやおばさんと呼ばれるのは相手に子供がいる男女を指す名称だ。俺はまだ該当すらしない」

「………」

「まだ俺は25なのに、何故かそれ以上に見られがちだが、俺はまだ20代だ。……俺にも兄貴がいるが、兄貴と並ぶと二歳差だとか同い年だとか言われ、兄貴の方がまだ若く見えるだとか言われているが、はっきり言おう

俺は、まだ、25歳だ」

「えっと、その…おじさ……おにーさん、ごめんなさい…」

「分かれば良い」

「(なんて不憫な子……!!)」







やっぱり気にしていた






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