鑑識の、門下生だった仲間の衝撃な連絡を受けたゴウキはすぐさまトバリ病院まで急行した



セキが、事故を起こした



一瞬だけ過ぎった嫌な予感は、的中していた。事故、だけならまだしょうがないと思えるのだが―――事態は深刻だった







「―――………」








駆け付けて来たゴウキを待っていたのは、とても悲しい現実だった








「!……ゴウキさん」

「…セキ、は…」

「………残念ですが…」

「……そうか」







フライゴンの背に乗り、病院に着いたゴウキは、関係者の案内である場所まで案内された



―――――霊安室に



ほの暗い部屋は相変わらずで、無駄に沈黙が広がっているのも今も昔も変わらなかった

霊安室の中に眠る、布を被った遺体

その姿は、あの時と同じだった







「……死因は?」

「交通事故、と我々は見ていますが…どうやら争った形跡がありまして、セキさんの遺体には防御層がありました。セキさんのボールも割られていました…事故でボールは簡単には壊れませんが、ですが証拠不十分で…」

「…アイツのポケモンは、」

「今、トバリセンターで治療中です。……セキさんの手持ちの二匹の内、一匹は…残念ながら駆け付けてきた時には、もう…」

「………そうか、分かった」






自分の目の前に横たわる、セキの遺体

遺体のそばに立っていた担当者がセキの顔に掛かっていた布を手に取り、ゆっくりと、その顔を露わにさせた




―――紛れもない、セキの顔




しかし、やはり傷が付いていたのだろう。縫って創傷した後がありありと残っていた。頭の中身が出ない様に鼻と耳には綿が詰められていた。ゴウキの隣りにいた男はセキから顔を背け、肩を振るわせていた






「ゴウキさん…アイツ、最近様子がおかしかったんですよ…」

「…………」

「同じ仲間として気に掛けてもアイツ、気にすんなって全然教えてくれなかったんですよ。普段なら、すぐに愚痴を零してくるアイツが、珍しく、黙ってて……」

「……………」

「っ…セキ…お前、何で死んでんだよ…!お前はまだ、生きて親孝行するんだろ…?弟に新しいポケモン捕まえに行くんだろ…?だったら、どうしてこんな場所で寝てんだよ……っセキの馬鹿野郎…!」







泣いていた

皆、泣いていた

霊安室の廊下でも、啜り泣く声で木霊していた


(嗚呼、あの時と同じだ)











「…………セキ」








あの時、アイツはおかしかった


帰り際の顔が、映像の様に頭を過ぎていく









「お前が言いたかったのは、この事だったのか…?」











「俺の代わりに、彼女に謝っといて下さい。アンタと交わした約束を、破ってしまって悪かった、って」













「………相変わらず、お前は馬鹿だな。本当…お前は呆れるほど大馬鹿者で……真っ直ぐだった」











「…………師範長、俺…やっぱりアンタの門下生になれて良かったッスよ。暴走族を辞めてシホウイン道場に入門して正解だった。惚れた男がアンタで良かったッスよ、本当に」














「……馬鹿野郎がッ…!」












セキの他にも門下生だった生徒は百を越えているも、誰を欠けてもゴウキにとって大切な仲間で

その中でもセキは、門下生の中でも珍しいタイプだった。暴走族あがり、しかもゴウキに惚れて暴走族を辞めて道場の扉を叩いた前代未聞を果たし、ゴウキに弟子入りを申し出てきたまさに珍しい奴だった。そして、厳格や真面目な性格のゴウキに怖じ気付き、師範長もあって一線置く門下生がいる中で、セキは親しく接してきた…本当にゴウキにとって珍しいタイプの人間だった









「俺、絶対アンタみたいな立派な男になってみせる!いくらアンタが年下でも、んなこたぁ関係ねえ!足洗って、って言っても大した事してないけど…ココで鍛えて、アンタを倒せるほど強くなってみせる!」

「ハハハッ!いいねぇこの威勢のいい兄ちゃん!気に入ったよ、アンタが暴走族だかなんだか知らないけど、ウチは厳しいよ?」

「お手柔らかによろしくッス!」

「ゴウキ!そんなわけだからビシッバシ鍛えてあげんのよ!こんな馬鹿で珍しいタイプ、みすみす手放しちゃ駄目よ〜!」

「Σ馬鹿って何すか馬鹿って!?いや俺確かに馬鹿だけど初っ端から言われた!!」

「手始めに背負い投げ行くわよ〜」

「ギャアアアアアいきなりぃいいぃぁぁぁぁぁ」










鍛え甲斐のある奴だった。どんなに投げても投げても勇猛果敢に立ち向かっては投げられていく、真っ直ぐ過ぎて馬鹿じゃないかと思ってしまうくらい、真っ直ぐで素直な奴だった

自分に一番懐いていた、本当に珍しい奴だった




そんなセキが………死んだ




身近にいる人間こそ、死んだ時の反動は大きい

かつてレンの両親が死んだ様に、今回も同様にセキの死はゴウキの心を抉り、突き刺した











「これだけは忠告しておくッスよ。この件は、もしかしたら命を落とすかもしれない危険な事件ッス。…気をつけて下さいよ、この話の次の日にアンタが死んじまったらそれこそ上司達の二の舞ッスからね」
















セキが、奴等に殺られたのは明白だ

何故ならセキは聖蝶姫の件に関わっていた最後の人間の一人だったから

今日…いや正確には昨日、セキがパトロールして暴走族を取っ捕まえた事は案内中に話は聞いていた。きっとセキはパトロールを終え、帰宅をする際に殺られたのだろう。しかし、状況証拠が状況証拠なだけに立証出来ない。奴等の狙いはまさにそれに違いない。手の混んだ殺人方法につくづく怒りが込み上げていくばかり














「―――師範長、後はよろしくお願いします」















腰ベルトに装着してあるボールの一個が、カタカタと音を鳴らし、揺れている。このボールは、そう、フライゴンのボールだ。フライゴンはセキが捕まえたポケモン、故に元とはいえ親でもあるセキの死を、許せないとばかりにボールを震わせていた。フライゴンは、泣いていた。ボール越しから分かるフライゴンの気に、答える様にフライゴンのボールを握り締める事しか出来なくて

絶対に、奴等を許してたまるか

無益な命を、簡単に落とした奴等の存在を、必ず捕まえてみせる




セキが殺られた事で、敵の存在は自分の中で確定した。主犯が死んだとか、模倣犯だとか、もうそんな事は関係ない

人を簡単に殺せると分かった今、これ以上被害を拡大させてはいけない










「…セキ、お前の無念…この俺が必ず晴らしてやる」








だから、お前は空で見ていてくれ








ゴウキの頬に、一筋の涙が零れて―――落ちた






(さよなら、我が友よ)



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