「情報のピースが足りない、と言ったのは覚えているか?それがまさにコレだ。…この調子だと、俺の役目は無くなったみたいだな」 ナズナはすぐさまパソコンに向き合い、キーボードを操作し始めた。また画面には新しい窓枠が表示され、様々な文字の羅列が流れていく エンターキーを押せば、ピピッと機械音が鳴り、画面はまた新たにシンオウ地方を映しだ シンオウの所々には数多くの色がチカチカと点滅をしていた。ナズナはマウスを操作しながら、また分析を開始させる 「ナズナ、これは…」 「人工衛星の映像からポケモンの生態反応を表したものだ。赤い色は炎タイプ、青は水タイプ、黄色は電気タイプと言った様にな。色でどのタイプのポケモンが生息しているのかが分かる」 「…凄いな、そんな事も出来るのか」 「ロケット団に居た頃、俺が独自で開発した分析方法だ。これはまだ一般的に公にされていないが、ものの一部にすぎない。それに人工衛星を利用しているんだ、大抵の事は可能だ」 「へぇ」 「よくこれでポケモンの捕獲命令を出したものだ、…フッ」 「…悪人顔してるぞ」 悪どい顔と冗談はそこそこに、タン!とナズナはエンターキーを叩く ピピピッ、機械音と共に分析結果が表示された 立体化した棒グラフ、折れ線グラフ、グラフを指した数字、17種類のタイプの生態数を表した分析結果。一般人には理解しにくい分析内容を見て、ナズナの眉間に皺が寄った 「…麗皇の言う通り、ポケモンの数が減っている。一件普通に見えるが…少々偏っている」 「偏っている?」 「シンオウに生息するポケモンの平均生態数が妙にバランスが悪い。食物連鎖、トレーナーに捕獲されたポケモンを省いても人工衛星から見れる現在の生態数が過去の生態数と比べて妙に少ない」 「………野生のポケモンに話を聞いてみれば、行方を眩ましたポケモンの様子がおかしかったらしく、フラリと何処かに行ったまま帰って来なかったらしいぜ」 「なら、問題はその行方を眩ませたポケモンは一体何処に消えたのか、だな…」 何処に行こうとも、宇宙からシンオウを映す人工衛星には全てが筒抜けになる なのに何故、行方を眩ませたポケモンの反応が無くなったのだろうか。居なくなったポケモンは、一体何処に消えてしまったのか。…まさに神隠し現象といってもいい やってくれたな、ナズナは眉間に皺を寄せた 「………ポケモンが次々に行方不明になっていくと分かれば他の者達も事件性と見て調査を進めていくが、この程度のモノはまだ憶測だけに過ぎん。人間が気付いてこその事件だ、もっと証拠を集めていかなければ人を動かす事は出来ない。まだ調べが必要になっていくな…」 これは本当に、盲目の聖蝶姫だけの問題じゃない 六年前、突然聖蝶姫の行方不明になった。時があまり経っていない時期に、彼女について何か気付いたらしいアルフォンスとユリの突然の死。二人の死に絡んでいる、14年前ナズナが壊滅した『彼岸花』… 一件見る限り、三つを繋げる要素は見受けられない。しかし、この三つを繋げたのは何を隠そうアルフォンスが記した日記。たかが日記、主旨を隠した内容、仮にアルフォンスの憶測であっても―――彼の死が、憶測から真実へ確立された これは本当に考古学の勉強をしていられる状況じゃなくなり、 此処には居ない何処かに居るミリをどうこうする以前の問題だ 「麗皇…お前、ミリさんをどうしたい?」 「……………」 「ミリさんはある意味当事者だ。…きっと個人情報が見つけられないのも奴等が手を掛けたと考えてもいい。奴等がミリさんが生きている事に気付いたら、奴等は確実にミリさんを狙うはずだ」 『彼岸花』が聖蝶姫に何かしら手を下した事は間違いない 仕留めた人間が生きていたとなれば奴等は黙ってはいない。彼女が記憶を失ってしまったとしても、奴等には関係ない話なのだ。一体奴等がどういう形で手を下したかまでは分からないが、また奴等がミリの前に現れる事は確かだ 「彼女が何をしているかは分からないが…俺達が今している事を、悟らせてはいけない。巻き込ませてもならない。ミリさんは正義感のある人間だ…聖蝶姫が絡んでいれば、自分から調べに行ってしまうかもしれん」 「分かっている。…それに、」 「……………」 「アイツ、自分のせいで俺の両親の死が絡んでいるって分かったら、きっと悲しむだけじゃ済まされないかもしれねぇな……それこそ命投げ出してまで償いそうだ…」 「…………」 それこそ自分自ら危険の中に突っ込んで行きそうなミリに、レンは恐怖を覚えていた ミリは命の尊さと儚さを知り、人の命を尊重し、大事にしている。…が、自分の命になると無頓着で無造作に扱う一面がある 理由をレンは知っていた 何故なら彼女の身体には、力がある 力があるから、治癒の力で小さな傷でもすぐに再生を促してくれる。そう、自分で自分を傷つけてもすぐに傷が治ってしまう様に。それで何度か救われた所があったが、そのせいもあってミリは自分の命をぞんざいに扱うのだ いくら傷ついても、傷は治ってくれるから大丈夫だ、とミリは笑うのだ。身体の傷は治っても、心の傷は治らないのを知っていても―― 「痛みはあっても、傷は治るから」 「…最悪な事にならなければいいな」 「…あぁ、そうだな」 (彼女の涙は、見たくないから) |