そんな時だった 隻眼の鴉が、世間の前に姿を現したのは 「当時、俺は既に奴等の存在を知っていた。中々面白い集団が面白い事を企てている、とな。始めはいつもの様に様子見をさせてもらっていたが、とうとう奴等が動き始めたんでな。奴等が行動を起こす前に俺流に潰させてもらった」 警察が一課総出で犯罪集団の居所を必死に探している最中に、一通のメールが受信された 「奴等の本拠地を教えよう」 そう書かれたメールが、フリーメールで送られてきた 差出人は、「隻眼の鴉」 鴉が、始めて表舞台に出た瞬間だった 「あっけなく奴等は崩れた。怪電波装置を少しいじくっただけでな」 「そこら辺からは聞いているぜ。内部や装置が動かなくて修復中だった所を駆け付けた警察によって全員逮捕。一件落着、無事に解決。奴等は結局何も出来ずに終焉を迎えたってわけだ」 「それから鴉の名が広まり始めたのか…」 「当時の俺には良い暇潰しになっただけなんだけどな」 奴等の本拠地は鋼鉄島付近にある、名も無き小さな孤島 警察警備員総出で取り掛かり、無事取り押さえる事に成功した。奴等の総動員数は主犯を含めた約20弱の少人数、発見された研究所には目を見張る巨大な怪電波装置が置かれていた 逮捕された奴等は事情聴取を受けた後、そのまま刑務所行きとなった。装置は厳重に保管し、科学班へ処理を託した後、破壊された。勿論、また今後とも同じ事が繰り返されない為に、見つかった設計図も始末した そしてこの事件を、警察は「シンオウ怪電波未遂事件」として処理する事となった 「隻眼の鴉は以前から裏で騒がれていたハッカーだ、そんな奴が表に出た事で面白ェくらいにメディアは鴉を取り上げていたな。事実、鴉がシンオウを救ったから過大に評価しては騒いでいたのをテレビで見てたぜ。中にはハッカーなんかに、って批判する奴もいたが、結局ヒーローになった鴉は正義のハッカーとして世に広まったって訳だ」 その事件以降、鴉は表に現れては警察に荷担し、様々な事件解決の手助けや助言を促してきた それこそ人は鴉を正義のハッカーとして称え、警察も鴉の存在を認めた 「シンオウ怪電波未遂事件」は鴉が世に広まる為に存在していた様なモノだと誰かは言った。事実、あの事件よりも鴉の話題が持ち切りになっていた訳だから、事件の影はどんどん薄れていくばかり 「…が、結局隻眼の鴉は本当に伝説になっちまったんだがな」 「残念だったな。その頃俺は既に拠点をカントーに移転していた。ロケット団に入団したのも、同じ時期だ」 「ハッ、シレッと言いやがって。鴉がいてくれりゃ、ギンガ団の奴等の野望を打ち砕いてくれるんじゃないかってメディアはぼやいていたんだがな?」 「事実、仲間もギンガ団には苦戦を強いられていたと聞く。カントーに戻る前も俺も四天王として奴等の動きをマークしていたが、中々尻尾が掴めず苦労をしたものだ。今ではいい記憶だが」 「知らんな。第一ギンガ団が活発に動き出したのは半年前だ。その頃俺はもう既にクリスタル状態になっていたから手の出しようがない」 「フッ、言ってくれるぜ」 そう、レンやゴウキの言う通りだ。隻眼の鴉がまだ居てくれたらどんなによかったか、と人々は言う。あの妙な格好をした電波集団、きっと鴉がいれば騒動を未然に防ぎ、盗難騒ぎも回避できた筈なのに まぁそんな事言おうものならナズナはさも興味がないと言ったばかりの態度であしらう。現実、ギンガ団の存在を知っていても絶賛クリスタル化真っ盛りな時だったので、やれって言った方が無茶な話なのだ つーかそっちはそっちでやってくれ、シンオウにはゴウキがいるんだし。が、ナズナの本音だったりする 「ま、そんな大それた事件も今となりゃ昔の話だ。………へぇ、事件簿ってこうなっているのか…やっぱちゃんと細かく書かれているんだな」 「当たり前だ。普通ならお前達の手に渡らない代物だ。丁寧に扱えよ」 「分かってるっつーの。…お、こいつが主犯か。そういえばテレビにも映っていたなぁコイツ。名前は…そうそう、シラクモって名前だったな。…コイツ、まだ刑務所の中か?」 「あぁ。主犯だったからな、他の手下と比べて懲役は長い。約十年といった所か」 「………………」 「奴等の名前は『彼岸花』。組織名を決める際に近くに咲いていた花をそのまま使用したと聞いている。結局なんの掠りもせずに終わったがな」 「『彼岸花』…あぁ、確かそんな組織名だったな」 マスコミやメディアに宣戦布告を掲げた際に、奴等は置き土産に一輪の彼岸花を添えていた 彼岸花、赤い花 不吉の花 それが、嫌に印象を残したのだった 「……ナズナ、お前の勘にはいつも助けられている。お前の助言のお蔭で今の俺があると言っても良い。………そんなお前が、わざわざ数十年前の事件を掘り出してくる、となれば一つしかない。この『彼岸花』が、関係しているのか?」 先程から、いや、電話を受けてからずっと疑問に思っていた、ゴウキの問い。レンも事件簿を捲りながら、視線はナズナに向けていた 三人にとっては過去の話。今となれば良い思い出にしかならない出来事だ。そんな事件を、わざわざ振り返るとなれば原因は一つしかない 二人の視線を受けながら、レンが持参した資料のページを捲りながら、ナズナはやれやれといった様子で小さく溜め息をついた 「……ハードマウンテン変死体事件、この事件がお前達にとって因縁の事件だとすれば……俺にとっても、この事件は因縁の事件になっていくだろう」 「…おい、ナズナそれってまさか…」 「あぁ、そうだ。察しの通りだ ―――――奴等が、復活した」 (赤い赤い)(不吉な予感) |