ミオシティの外れにある麓

海の潮の香りがフワリと風に流され鼻を霞む。此所から見渡せる景色はとても綺麗で、ミオシティを一望出来る程に

空は濃い夕焼けの色が一面に染め上げ、地平線の向こうは幻想的に煌めいている。オレンジの色がミオシティ全体を包み込んでいた







「…………此処から見る景色も、久々だな…」





コトブキシティからミオシティにやってきたレンは、自分の家の中に居た

家の中の、昔自分が自室として使っていた部屋。ゼルがまだ一緒に居た頃、兼用として共に暮らした部屋でもあった。この部屋は、昔も今も変わらなかった。………いや、レンの私物だったものはミリの自宅に持って行った為か、その姿は無い←

部屋の窓から一望出来るミオシティ。オレンジ色に染まっている自分の故郷に、レンの心中は懐かしい気持ちと複雑な気持ちが入り交じっていた






「……家に戻るつもりはなかったんだけどな……まさかこんな時に戻るなんて予想外だったぜ」







小さく溜め息を吐きながら、やれやれと頭を振った




シンオウに(強制的に)戻っても、自宅に足を運ばなかったレン。久々に帰ってきた家は今も昔も変わらずにそのままの状態でいた

家の主はもうレンの物になっている、この家。レンが不在の間、アンナが代わりにこの家の管理をしていて、適度に掃除までしてくれていた。少々埃まみれになってしまっているが、記憶にある形状のままに存在していた






「……―――――――」






レンは暫くあのオレンジ色の景色を見つめた後、踵を返して部屋を出る

向かった先は父親の書籍部屋。此処でアルフォンスはよく籠って、様々な情報を集めていたり、集めた情報を纏めあげていたりしていた

既に扉は開いている。その中には様々な資料集、書類、数多くある書籍が山のようにあった





懐かしきかな。この場所を思い返すたび、アホでうっかりなアルフォンスはいつも資料に押し潰されていた姿を思い出す

今となればいい思い出だが←








「確かにな、お父さんの頭の中はすっごく沢山の情報が詰まっている。けどな、人間の記憶容量には限界がある。勿論お父さんだって忘れる事はあるんだぞ?だからな、忘れないようにこうして記録していくんだ。そして改めて脳の本に書き込んで、書き込んだ本は父さんの本棚にしまうんだ。それを繰り返して、今の父さんがあるんだよ。分かったかな?」









アルフォンス=イルミールの頭脳には情報が詰まった本棚がある

誰かは彼の事を、歩く情報屋と唱えた

人間の記憶容量には限界がある。しかし彼はその常識を覆す容量を備えていた。彼に知らない事は何一つない、と一目置かれていた。昔の歴史から始まり、今の歴史まで。ちょっとした出来事でさえも、彼は全て知っていた

今となればその情報屋もこの世からいなくなり、本当に伝説の情報屋になってしまったが







「………こうなるなら、俺に"言ノ葉"の方法教えてくれよな…父さん」






レンは知っている

彼は、それだけではないことを






アルフォンスの中には、精神世界がある

その精神世界こそ、彼の情報が詰まった図書館そのものだという事を





アルフォンスは、いつの日かレンに語っていた



真っ白な空間に無数の本棚が並んでいて、それらが一冊一冊が「時空の記憶」のデータベースとなっている事を。使用者が「言ノ葉<ことのは>」(キーワード)をかけると自動的に本が選抜されていき、任意の情報が入った本が絞り出せる事が出来るのだ

だからこそ、ちょっとした出来事や、知らないはずの情報を手に入れる事が出来るのだ

ただし、残念な事にその能力は万能ではなかった

「言ノ葉」が足りなければ本棚は反応しない。それは最大の理由でもある。他には、個人に関する本でも感情に関する情報は表記されない上に、中身が全て削除されていたり、何かしらの関係で鍵が掛かって閲覧出来ない事があるのだ







「お父さんが物心がついた頃から、この能力を可能にしたんだ。一体どういう経緯で手に入れたかなんて、今はもう忘れたよ」


「今はまだ早いけど、近い内にレンにも図書館へのアクセスを許可しよう。レンならきっと、ゼルジースを見つけられる筈だからね」



「しかし忘れてはならないのはこの存在を他人に教えてはいけない事だ。教えてしまえば、図書館を求めて命が狙われる可能性があるかもしれない。教えてもいいのは、自分が最も心を開いている人間だ。そう、父さんで言えば母さんの様にね――――」













アルフォンスは優秀な人間だった

しかし、それは情報面というだけあって、本来の彼は他人が呆れてしまう程に、抜けている

馬鹿と天才は紙一重、まさにその言葉がぴったりだ


非常に、残念である←







「………………」






レンは部屋の机の上に置いてある本を手に取った

一冊の、分厚い本

ページを捲っても、何も記されていないただの本


この本は、アルフォンスが常に手に持っていた彼の形見だった


精神世界から得た情報を見る為のモノ、とアルフォンスは言う。しかし他人からしてみれば真っ白なページを見て意気揚々に語る異様な姿でしかみえない




レンはもう一つの本を手に取った




それはアルフォンスの日記だった

形見の本と同様に分厚い本。表紙を捲り、ページを捲っていくと懐かしい父親の字が連なっている

他愛ない内容。くだらない内容から懐かしい文面。ペラペラと捲っていくと、あるページに辿り着く










「盲目の聖蝶姫のミリさん。ゼルとレンと同い年の若い女の子がどんどんバッチやリボンを活躍していっている。今まさにリーグ内では彼女の話ばかり。今後の活躍に注目していこう」

「珍しいポケモンを持っている。セレビィとスイクンはジョウトで有名な伝説のポケモンだ。まさかそんなポケモンが彼女のそばにいるなんてびっくりだ。今後、彼等とミリさんの関連性を調べてみよう」

「しかしミュウツーというポケモンは知らないポケモンだ。ミュウの眷属なのだろうか。ツーなだけに。機会があったら調べてみようと思う」

「〇月〇〇日、彼女の手持ちが増えた。朱色のルカリオと黒銀色のダークライだ。ルカリオはともかくダークライには驚いた。しかも色違いだし。というかダークライ…あーそういえばレンの奴、ダークライの話をすると軽く寝れなかったんだよなぁ。懐かしい。そうだ、今度帰ってきたらからかってやr―――」

(すぐにページを捲ったレン)


「〇月〇〇日、ハイパーランクコンテストが開催された。主催地がミオシティだったので、ユリと一緒に聖蝶姫の活躍を近くで拝見。ユリがまさか聖蝶姫に握手を求めた事で仲良くなるキッカケが出来た。相変わらずユリの行動の早さには感服するばかりだ。近い内に会う約束をしたらしい。いつの間に…」

「〇月〇〇日、約束の日になった。聖蝶姫はいつもの様に【三強】を従えてミオシティにやってきた。近くで見れば見る程綺麗な子だった。眼福眼福。ユリと話が盛り上がっていて、ユリの暴走で会話に入る隙が無かった…ちょっと残念」

「息子達の事を言ったら、「いつか会ってみたい」って言ってくれたから、レンが帰ってきたら会わせよう。この子がお嫁さんに来てくれたらいいな。どっちでもいいからくっつかないかな…」

「盲目の聖蝶姫、彼女は噂通りの人間だった。けど、私は彼女に"何か"あると悟った。だから彼女の何かを調べる為に言ノ葉をしたら―――(墨汁を零したのか読解不可能)―――だから、彼女の事を気にかけていこうと思う」








それからページはどんどん捲られていく


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某仮面走者から参考にさせてもらいました





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