「結構結構…いやはや、これはこれは面白い展開になっていきそうだ」 渋みを訊かせ、喉の奥で笑いを噛み殺す男が、一人 目の前には巨大なモニター そこに映るのは――― 「卿達が一体何処まで真の答えに辿り着けるか―――高見の見物とさせて戴こうか」 男は、嘲笑った ――――――― ――――― ――― ― 13年前、俺は自分の片割れを失った 不思議な聖地に迷い込み、湖の祠の前で―――紫の空間に消えていった、俺の双子の兄ゼルジース 聖地から帰還した俺を待っていたのは、残酷な現状だった 誰もがみな、ゼルジースの存在を覚えていなかった 俺と両親を、除いて 「父さん、母さん…俺が絶対、ゼルを見つけ出す。見つけ出して、必ず連れて帰るから……此処で、俺達の帰りを待っててくれ」 「えぇ、待ってるわ。二人が無事に戻って来るのを…私達は信じて待っているわ」 「家の事は父さんに任せてくれよ。…でも、ちゃんと家に帰ってこいよ?帰ってきて、父さん達にお前の元気な顔を見せるんだぞ」 「あぁ…分かっている」 ゼルジースはきっと生きている アイツを絶対に見つけ出してやる どんなに茨の道であろうとも、厳しい道であろうとも、俺は絶対に見つけ出してやる そう、心に決意を決めた…若かりし過去の自分 俺が此処まで頑張れたのも、両親がいたお蔭だったからだ 片割れを失った俺を、二人は慰め、励ましてくれた。悲しいのは俺だけじゃないのに、二人は懸命に俺を支えてくれた 俺は知っていた 母さんは夜な夜な涙を流していながらも、懸命にゼルジースの無事を祈っていた事を 父さんは夜業しながらその頭脳でゼルジースの情報を集めていた事を あの二人の為にも、ゼルジースを絶対に見つけ出す それからいつもの日常に戻って、また改めてアイツと旅をするんだ。父さんと母さんに見送られながら、叶えられなかった、二人でチャンピオンになる夢を、また――― けど、 現実は、また残酷に俺を襲いかかった あれはまだ、俺が白銀の麗皇として名を馳せていた時代だった 今日も今日とて情報を集め、今日も今日とてそこらへんにたむろっていたトレーナーをぶちのめし実力を上げていた、あの時の俺。灰色の世界が、まだ明るかった、あの時の俺 そんな俺の元に、一本の電話が入った 電話先の相手は久し振りな奴だった アイツからこっちに連絡するなんて珍しいな、そう思いながらいつもの様にポケギアの通話ボタンを押して、また何気ない会話でもするんだろう そう、思っていた 「―――――…う、そ…だろ…?」 慌ててシンオウに帰郷した俺を待っていたのは、霊安室で眠っている両親の姿 ほの暗い、静かな部屋 横に並んでいる二人の遺体 顔には白い布、白い服、白い姿 布を捲った、両親の顔は―――― 「―――――……………と、うさん…かあ、さん……………………あ、あ……………ああああぁああああああああッッッ!!!!!!」 野生のポケモンに襲われただろう両親の姿は、悲惨なものだった 顔は爪で傷つけられ、潰され 一部食われている部分があるのか有るべきモノが無かったり 身体中、凄くボロボロで 俺の知っている両親とは、全く言い難い姿になってしまっていた――――― 「レン、お母さん達はいつまでもあなたの味方だからね」 「お前の帰って来る場所は此処だ。父さん達は、いつまでもお前の帰りを待っているからな」 今ではもう、霞みがかかって思い出せない → |