"ありえない事はアリエナイ"


この言葉は、私の口癖だ

【異界の万人】という異端な存在が在る手前、常識というものは通用しない次元が存在する。ありえない事は、アリエナイ。お陰様で私も自分の常識が呆気なく崩れたといいますか。普通ならありえない事が【異界の万人】は簡単に起こせる―――自分の言い訳にも言えるこの口癖で、私は自分自身や相手を諭してきた

…でもごめん、ちょっと言わせて





「ありえない!!」






昨日はポケモンのゲームが楽しくてちょっと願望がだだ漏れしちゃったけどまさかこんな形でポケモンの世界に来ちゃったってどういう事なのかな!

いや嬉しいよ!?嬉しいけどさ!

もうちょっと他にやり方あったんじゃない!?←






「うーん…どうしよっか、マジで」






此処がポケモンの世界だっていう事は分かった。簡単に分かったからよしとしても、だ

この世界にポンと放り投げられ、身一つだけだから生き抜く手段は限られてくるし、今自分自身の現状が把握しきれてない。お金なんて勿論ないから、公共機関を使用する事も出来ないし、憩いの場ポケモンセンターにも行けない。野宿ならいつもの事だから今更抵抗感なんてないからいいとしても

なにより身分証が無い。この世界の人間として潜り込む、大切な証を。トレーナーカードが無ければそれこそ八方塞がり。行動したくても出来ないじゃないか

…まあ、簡単なモノとかなら自分で作っちゃうからいいんだけど…ゲーム感覚で進んでみたら絶対に路頭に迷いそうだ


……はぁぁぁ






「ポケモン捕まえるにしても、どうやって捕まえればいいのさ……」





ここ重要

いや、だってね?

コレ、普通に投げればいい話なのかもしれないけど万が一変な事が起きて豪速球並な勢いで当てて死なせたりしたら私きっと一生ポケモン捕まえられないわけで…

むしろこれ中どうなってるの?←






そんな未知なる道具に悪戦苦闘している私の耳に、微かな気配と感じ、物音が聞こえた

微かな気配や物音といっても、この辺りには色んなポケモンの気配や物音が充満しているわけだからさほど気にもしない程度。しかし少なくても今感じた気配はまっすぐこちらに向かってくるのは分かっていた。しかもただこちらに向かってくるんじゃなく、何かに追い掛けられている様な…そんな切迫感を感じた

私はモンスターボールから目を離して前方の彼方へ視線を移した






「―――――……、あ」






私はあるものを見つけた

視線の先、砂利道の先

そこには二匹のイーブイがいた

ただでさえイーブイは珍しいポケモン。初めて見るイーブイに驚く私に、更に驚かされる事になる

そのイーブイは、私の知る"色"をしていなかった


白と、黒


所謂、色違いのポケモンだった






「か、かかかかか、可愛いじゃないか!」






イーブイだよイーブイ!

あのイーブイだよイーブイ!

イーブイは強いよ!ゲームには私のパーティに必ず入れてたくらい私はイーブイが大好きだ!(ドーン!)イーブイはモコモコしているんだ!(デーン!)私の夢はイーブイと一緒にお昼寝をする事だ!!ああああ遠くからなのが残念でしょうがないよふおおお可愛いいいい!!(ジタンバタンゴロゴロッ


いや〜遠くから見てもやっぱり可愛いなぁしかも色違いだなんて目の保養だよ〜、と場違いな考えでほっこりとイーブイ達を眺めていたら―――向こうにいるイーブイ達の様子がおかしい事に気付く

相手はこちらの存在に気付いたらしい。けど何故か後ろばかり気にしていて、しかも二匹の身体はこちらから見ても傷だらけだった





「あれって…………!」





私は見た

二匹のイーブイが、二匹の野生のグラエナに襲われているのを。グラエナの攻撃で、二匹は傷だらけだった

丁度私が目にしたのは―――…一匹のグラエナが黒いイーブイに自身の尻尾を使って…アイアンテール?で攻撃していて

黒いイーブイは軽々と簡単に空に振り上げられた

ハッとして片割れを見上げる白いイーブイ。その一瞬の隙を突かれ、もう片方のグラエナに攻撃され―――同じく空に振り上げられてしまう






「これはいけないね」






私は動いた



瞬間移動とも言える目視出来ないくらいの脚力で駆け出し、落ちてきた二匹のイーブイをスライディングでチャッチする。最初に地に付きそうだった黒いイーブイから、次は白いイーブイ。そして素早く体勢を整え後退した

目の前にいたグラエナ達はいきなり私が現れて、イーブイをチャッチしていたことに驚き、戸惑っていた。無理もない、何せグラエナから見れば目を瞬きした瞬間に私が居たんだから






「弱いもの苛めは、ダメでしょ?」






二匹のイーブイを優しく介抱しながら、グラエナにウインクしてやった


私は腕に抱かれている二匹のイーブイを見た

二匹のイーブイは地面に叩きつけられる痛みに耐えようとしたらしい。けど自身に襲うのは痛みではなく温かいぬくもりで、しかも柔らかいものだった。恐る恐る目を開け、戸惑った様子のイーブイ達と目が合った






「ブイ…?」

「大丈夫?」







私は安心させるようにニコッと笑う



突然の登場にびっくりしたイーブイ達を地面に降ろし、私は「逃げて」と合図をする

しかし、いきなり私の登場でイーブイ達はおどおどしてしまう。無理もないかもしれない。そんなイーブイ達を守るように、私は一歩前に出た。選手交代だよ

前に出た私を見て標的を換えたらしいグラエナが、体勢を変えてこちらに迫ってきた。こちらに猛ダッシュで走ってきているという事は、多分あれはとっしんだろう。そう確信をしたや否や、私はすかさず地面に手をつける






「ごめんね、錬成!」






地面一帯に電気が走った直後、いきなり地面から壁が現れた

それはこの世界ではありえない筈の、しかもポケモンではなく人間が起こした異形な攻撃
。当然これは私だからこそ可能とする技であり、他の人間ならまず無理な技。勿論、いきなり目の前に壁が登場すれば避けられず、そのまま壁に強く激突してしまう。凄い音だった。痛そう

眼前の後継をびっくりして眺める、後ろにいるイーブイ二匹


グラエナは退くが自分は勝てないとわかると風のように去って行った






「大丈夫?」






私は逃げてったグラエナを笑いながら見送ると、未だまだ固まってるイーブイを見て、微笑んだ












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