自宅に帰ってもミリ君の姿はなかった。連絡を入れても全然繋がらないポケギア、部屋は手ずかずのままで…いくら待っていても、日にちが過ぎてしまっても、彼女が帰ってくる事はなかった

サッと嫌な予感がした。足場が崩れる感覚さえも起きた。私自ら捜しに行っても彼女はいなかった。直ちにリンカ君達に連絡を回し、リーグ役員騒動で捜しに向かわせても―――彼女の姿を見つけだす事が、出来なかった…




そして彼女は、行方不明となって世間に騒がれる事となった






「………今でも後悔しているよ。あの時…あの時誰か一人でも付き添ってやるべきだったんだ…そうすれば、あの子が行方不明になる事は無かったんだ…!…全て、私の全責任だ…私の不祥事で、あの子をあんな事態に招いてしまったんだ…!!」







今でもずっと後悔している


全ては、私の責任だ


私が最後までミリ君を見ていれば、彼女を一人で送ってしまったのがいけなかった。いくらポケモンがいたとしても、何があるか分からないご時世

現に彼女は狙われていたし、忌々しい事件に巻き込まれた

…迂闊だった

その事を分かっていながら…私は彼女を、見殺してしまった






「………六年前、貴方は幹部長を辞職している。その事と、この事は…」

「あぁ、そうだ。不祥事の責任を負う。私が辞職したのは専らあの子絡みだ。それにタイミング良く定年を向かえていたのもあったが……これで責任を負っただなんて、笑い話にもならない」

「…後に世間は舞姫の存在を忘れた。その件に関しては、」

「覚えていたさ、覚えていたとも。他の人間が次々に忘れてしまっても、私はしっかり覚えていた。一緒に暮らした家、日常、声、姿、名前……忘れない、絶対に忘れないと心に誓っていたのに…結局、忘れてしまったよ。あの子の事も、ポケモン達も、全て……」

「「「…………」」」






あれ以来、私の中の時間<とき>が止まってしまった

過去を振り返る事は出来ても、今でも前に進められない


ミリ君が無事だと安心しても、時間は進んでくれない。彼女は記憶を無くしてしまっていた、つまり記憶を無くしてしまった原因は全て私にあると言う事だ





私の罪は、ただ一つ

消えない様に、忘れない様に刻み込むのだ


私が犯した、大罪を






人はそこまで思い詰めなくてもいい、と私に言うかもしれない

しかし私にはどうしてもそう思うしかないのだ




せめてもの、罪滅ぼしを









「―――二年前、私は此処のマンションに引っ越して来たんだけど、何でわざわざシンオウまで引っ越す理由が、分からなかったんだよ。…おかしな話だろ?宛も無く、自分も分らないまま流れる様にこちらに引っ越してきた。けど、半年前…記憶が蘇ってからやっと理由が分かったよ。…記憶が無くても、私はあの子を追い求めていたんだ、とね………」






マンションから見えるコトブキシティは、いつの間にかオレンジ色に染まっていた

窓から差し込む夕陽の光が部屋一面に広がり、彼等を差した。レンガルス君の白銀が淡いオレンジ色に煌めき、ナズナ君の茶髪をより一層に引き立て、ゴウキ君の黒髪を艶め立てた

彼等はイケメンやハンサムな部類に入る顔立ちをしている。場違いだと思うが、夕陽の光を浴びた彼等は―――とても綺麗だった






「…此処のマンションに選んで本当に正解だったよ。此処はとても…夕焼けが綺麗だし、ソノオタウンにも近いからね…素敵な場所だ」







「ミリちゃーん!」

「?(ポスッ)……ミレイ?」

「おやおや、可愛らしいオレンジ色をしたお花ですね」

「ふふふ!私の目は間違いなかったわ〜!ミリちゃんはどんな色も似合っているけど、やっぱオレンジが一番似合ってるわよ〜!」

「うむ、そうじゃのう」

「オレンジこそ、ミリさんの代名詞って言ってもいいくらいですものね」

「…???」

「おやおや、クスッ。どうやら現状が分ってないみたいですよ」

「ミリちゃんかーわーいーい!」

「――――おやおや、今日も仲がいいね」

「御機嫌よう、アスランさん」

「おぉ、お主か」

「こんにちは幹部長」

「あ!アスランさん!ちょっと見て下さいよ〜!ミリちゃん、とっても可愛らしいでしょー?」

「ハッハッハッ、これはまたもや可愛らしい。キレイハナみたいで似合っているぞ、ミリ君」

「???」

「あらあら、ミリさんったら」

「んもうミリちゃんったら!」










もし、ミリ君が行方不明になっていなかったら……と、無駄な妄想ばかりしてしまう

あの頃の日常に、戻りたい

ミリ君は事件の一件で心を閉ざした。ポケモンマスターになっても結局閉ざしたまま。しかし心を閉ざしていようとも私達と過ごしたかけがえのない日常は確かにあって、私達は笑っていたんだ












「………俺達の知っているミリは、写真で見た通り元気でやっている。…記憶を無くしていても、アイツは前向きに生きて、笑っている。きっと、今もな…」

「そうだと、いいね…」

「アスラン、悔いる気持ちは分らなくもない。だが、それは違う。きっと送別会の後に何かがあった筈だ。お前のせいなんかじゃない、誰のせいでもない。……アイツは、ミリは、今のお前を望んでいない筈だ。そうだろ?」

「………あぁ、そうだね、そうあって欲しいね…」






分かっている。分かっているとも

今の私の姿を、彼女が望んでいるわけがない

誰よりも人の安寧と幸せを願っていた彼女。だからこそ頑張ってチャンピオンとして活躍してくれていた。そんな彼女が、今の私の姿を見たら―――どんな顔を、浮かべるんだろうか








「――――長い話を聞いてくれてありがとう、三人とも。久々に…本当のミリ君の話が出来きたよ。……私はもう歳で何も出来ない老体の身だ。これで、君達の力になってくれたら幸いだ」

「…ありがとう御座います、アスランさん。貴方の御力添え、けして無駄にはしません」

「浅はかな願いを、聞いてくれないか。あの子を、ミリ君を……どうか救ってやってくれ。閉ざされた心は開く事も、あの子の闇にも手を出す事が出来なかった私の代わりにも……君達なら、きっとあの子を救ってくれる筈だ」

「分かっている。……後は俺達に任せてくれ、アスラン」

「必ず、全ての謎を解き明かしてみせる」







見ているかい、ツバキ、アルフォンス君

君達の息子達は―――こんなにも立派に育っているよ






世界は本当に狭いと思うばかりだ

娘のミリ君と、君達の息子達―――私達は、繋がっていたんだね







「ありがとう、ナズナ君、ゴウキ君、レンガルス君―――」







いつかまた、皆と一緒に――あの日常へ






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