「おかえり、二人とも。温泉はどうだったかい?」

「気持ち良かったわ!もう日頃の疲れを癒して来たから明日もお仕事頑張れるって感じだわ」

「そうか、それは良かった。それで…ミリは?」

「あぁ…あの子なら、ほら、あそこ」







「の、ぼせた…」

「おーい、大丈夫かー?」

「気持ち良過ぎて調子乗っちゃったのがいけないのよ」

「えぇええ…」






少々長風呂が苦手なミリだった


―――――――
――――









ポケモンマスターになって帰って来たミリ君を、マスコミやテレビ番組は劇的に彼女を報道した。彼女の事は瞬く間にホウエンやシンオウに知れ渡り、人々は彼女の栄光を称えた

私は誇らしかった。自分の娘の様に思っていた彼女が、沢山の人間に慕われ、ポケモンマスターとして認められていくのを

ミリ君は笑っていた。嬉しそうに笑っていた。仮面の笑みではなく、本当の笑顔で彼等の声援に答えていた。一際立派になって帰って来たミリ君を、私は誇らしい気持ちで見つめていた









「―――…しかし、君は本当にやってくれたよ。私でさえ難しい試験をクリアしてきたなんて…本当に、君は素晴らしい人間だ」

「全てはアスランさんのお蔭ですよ。アスランさんが居なければ、私は試験にさえ出られなかったんですから。私がこうしてチャンピオンとして君臨出来たのもアスランさんの御力添えのお蔭ですし、ポケモンマスターなんて尚更ですよ。本当に…ありがとう御座います、アスランさん」

「いやいや、礼を言うのはこちらの方だ。君がいてくれたお蔭で私も助けられた。それにポケモンマスターの誕生を間近で見れたんだ。私はとても、誇らしいよ。…良く頑張ってくれたよ、ミリ君」

「アスランさん…ありがとう御座います。…皆もありがとね」

「…」
「キュッ!キュー!」
「……」







リーグの仕事を終わらせ、報道陣からの取材を終わらせた私達は、自宅のリビングにいた

帰って来てからというものの、様々な報道陣の取材で忙しく、しかもリーグの仕事やらで追われていた。ミリ君に至ってはポケモンマスターとして現地に赴きバトルを披露したりと、お互い忙しい毎日を繰り返していた。今日やっと仕事に区切りが着き、こうして久々に会話を成す事が叶った

相変わらず部屋の中でも黒い服を着込んでいた。膝の上にはこの地方では見掛けないチュリネというポケモン、頭にはアゲハントに肩にはセレビィ、隣りにはスイクンとミュウツーが座っていた。彼女の影の中にはダークライ、後ろにはルカリオ、せっせと家事をするラティアス等、試験で活躍したポケモンがリビングに沢山いた






「それでミリ君、君はこれから…どうしていきたい?」

「どう、とは?」

「ポケモンマスターはチャンピオンよりも地位は高いのは知っているね?」

「あ、はい。…支部の幹部長以上の地位になっていくのも、総監から聞いています」

「そうだ。ポケモンマスターは私以上の地位で、プロ以上だ。ポケモンマスターになると自動的にチャンピオンは辞退する事になっていくのも、知っているね?」

「………はい」







ポケモンマスターはチャンピオン以上の地位だ

本部直属になっていくので、支部管轄のチャンピオンで居られなくなる。それはもう、理由とやかく絶対の流れ

私はそれを知っていて彼女にポケモンマスターになる様に仕向けた。彼女を、約束から守る為に


事実を知った時のミリ君の表情は、私に罪悪感を覚えさせるものだった。約束こそが全ての彼女には、残酷な答えだったのかもしれない。―――しかし、彼女は何処か吹っ切れた様子で総監の話を受け入れていた






「………なので、私は最期にホウエンリーグチャンピオンとして、サイユウシティでリーグ大会を開催しようと考えています。最後の仕事として、新しいチャンピオンに…あのチャンピオンマントを託したい。そう考えて居ます」

「そうか…なら私は全力で君をサポートするよ。思う存分、悔いのない様にね」

「はい。最後までお世話になります」

「それから、リーグ大会を終わらせたら…」

「シンオウに戻って、皆と約束を果たしたいと思っています。聖蝶姫として、ポケモンマスターとして。……でないと、ハリセーン飲まされそうですからね、フフッ」

「………………寂しくなったらいつでも帰ってきなさい。君はもう、私の娘だ。君の帰る家は、此処だ」

「!…アスランさん、本当に…ありがとう御座います」








「それからミリ君は最後までチャンピオンとして役目を果たしてくれた。無事にリーグは開催され、新たにチャンピオンが決まった。新チャンピオン、彼こそ君達も知っているはずだ。彼はミリ君の数少ない友人の一人、チャンピオンを任せるには十分な男だった。今は大災害の関係で、ミクリ君と共に裏チャンピオンとして君臨しているのは聞いているけど」






彼が就任する際に、多少のいざこざが生じたのは置いておくとしても

チャンピオンマントを託した事によって、彼女は列挙としたポケモンマスターとなった。私達の目の前で、チャンピオンマントを手渡した彼女の表情は今でも忘れられない

彼女は笑っていた。彼の就任を喜び、無事チャンピオンを務めた達成感で満ち溢れていた。嬉しそうに笑うミリ君と、決意を固めるダイゴ君、拍手を送るミクリ君の姿はとても微笑ましいものだった






「君が築き上げたホウエン…僕とミクリ、そして四天王とジムリーダーの皆と共に守っていきたい」

「頑張って、ダイゴ。ダイゴなら立派にチャンピオンを務めれるよ。私が保証する。もっと胸張ってもいいんだよ?」

「ハハッ、少し自信ないけど頑張るよ」

「私もジムリーダーとして頑張るから、ダイゴも頑張りたまえよ?」

「あぁ!」







リーグ大会を開催された事で、新たにチャンピオンと四天王が変わった

ゲン君とプリム君はそのまま在籍、ロイド君は弟子のカゲツ君にバトンを託し、ミレイ君は友人であるフヨウ君にバトンを託した。ロイド君とミレイ君は四天王引継ぎ後、事情があって一足先にホウエンの土地を去って行った






「ミレイ、ロイド…」

「ミリちゃん、今度絶対こっちに来てね!こっちの地方には見た事がないポケモンがたっくさんいるんだから!その時、私があげたポケモンの成長を見せてね」

「さよならなんて言いません。世界は繋がっていますからね。…ミリさん、こちらの地方に来た時は是非私に連絡下さいね。待ってますから、貴女がこちらに来てくれるのを」

「またね、ミリちゃん。また今度、一緒にガーデニングしましょうね」

「…うん、また会おうね二人とも。私、絶対…二人に会いに行くからね」

「チュリネ〜!」







チャンピオンマント引継ぎ後、彼女はダイゴ君にチャンピオンの仕事を教える為に一時的にホウエンに止どまる事になった

チャンピオンの仕事は膨大だ。いくらデボンコーポレーションの副社長で書類との格闘が慣れている彼でも、中々すんなりと理解出来るものじゃない

……と、思っていたけどアレはホウエンに引き延ばす為の演技だったらしいが…彼も中々やってくれたと思うよ






「最後まであの子はチャンピオンの務めを果たしてくれた。引継ぎが終わって、送別会が終わって、沢山もらった色とりどりの花束を持って、色んな人に囲まれて―――嬉しそうに、笑っていたよ」







「皆…今まで、こんな私に着いて来てくれて…本当にありがとう」







送別会は無事に終了した

私達は後片付けがあったから、彼女には早く帰ってもらう事にしてもらった。引継ぎが終わって送別会が無事終わった今、彼女を縛るモノはない。このままシンオウに戻る為に荷造りでもするのだろう

リーグの前で、送別会に出席していた人の全員を前に、彼女はスイクンの背に乗ってリーグを去った。肩にはセレビィ、腕の中にはチュリネ、宙にはミュウツーとダークライとラティアスとラティオスを従えて―――ミリ君は、私達に見送られながらリーグを去って行った






「皆、また会いましょうね―――」























「…それが、最後に見た笑顔だったよ」








彼女は私の家に戻る事は無かったのだから






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