「盲目の聖蝶姫、人はあの子の事を上辺っ面でしか見ていないから、イメージだけでミリ君を決め付けて、完璧な人間だと崇めた。チャンピオンという職とは限らない、上に立つ者は完璧な人間で無ければ人は着いて来ない。………まさに彼女は、チャンピオンの鏡だったよ。私達が誇れる、立派なチャンピオン。しかし…本当のあの子は脆かった。紙一重、そう…まさに紙一重で、危なかった」






回りからの多大なプレッシャー

チャンピオンとしての、重圧


ホウエンの為、皆の為、彼女は生き甲斐と頑張って働いてくれた。全てはホウエンの為にと、未来の子供達の為に繋いでくれる為に、彼女は日々頑張ってきた

しかし、あの事件が起きてしまった事がキッカケで―――彼女は体調を崩しやすくなった。仕事が終わったら倒れ込む様にベットへ、微熱を生じながら仕事をしていたりと…中には嘔吐してしまう事もあった

平然としていても、いつも通りにしていても、本人は気付かなくても確実に彼女の心は体調にも変化をきたしていた。身体も精神も何もかも――ガタがきてしまっていた







「ミリ君、そんな身体では本当に倒れてしまうぞ!」

「そうですよミリ様!" "は、ミリ様の無理なさる姿は見たくありません…!」

「キューッッ」
「…!」
「……!」

「大丈夫…こんなの微熱ですって」

「人間の体温温度の平均的に言われる微熱が38℃なんですか!?」

「ミリ君、それは微熱じゃない!高熱じゃないか!」

「いやいや、これくらいならまだまだ盗んだバイクで走れますって。それにまだ書類にサインしていないものだって沢山あるんだから、私だけ休むわけには…" "、薬を頂戴。バッ〇ァリンよりナロンエースがあってくれたら嬉しいな。半分が優しさなんて要らない!」

「ミリ様…ロイドさんにセクハラされても知りませんよ…!」

「いや、それ以前に君は休みなさい頼むから!」







やはりまだ18(誕生日を過ぎた)で未成年な彼女には荷が重過ぎたのかも知れない

何せ前チャンピオンでさえ逃げ出したんだ。ベテランの人間でも根を上げるくらいだから他の人間がやっても同じ結果だったに違いない

しかし彼女はめげる事も逃げ出す事もしなかった。風邪をひこうが倒れようが体調を崩しようが(特に生理とか)書類が膨大に増えたり日程がいっぱいになってしまっても、彼女は皆に弱い所を見せなかった


何故、そこまで頑張れるのか、私には分からなかった


元々彼女は真面目な性格だ。勤勉な一面もある。与えられた仕事は最後までやり通したいプライドもあるのかもしれない。しかし、それだけで此処まで頑張れる、その気力は一体何処にあるのだろうか





彼女をチャンピオンに繋ぎ止める理由


それは―――約束だった









「当時四天王の一人だったミレイ君に『約束』の為にチャンピオンをしていると教えてくれたよ。誰と、どの様に約束を交わしたかまでは聞いていなかったらしいけど、私が聞いたらあの子、嬉しそうに話してくれたよ。……久々に見る、本当の笑みを浮かべながら、ね」









「シンオウで、約束をしたんです。こっちに来る前に色んな人と約束を交わしました。シンオウに戻ったら、バトルをする事、コンテストをする事、一緒にいつもの様にナギサの街で遊ぶ事、弟子を育てる事、図書館で本を読んでもらうなど……その中でも、ライバルのシロナと交わしたんです。『一緒にチャンピオンになって、共にチャンピオンとして頑張ろう』って。それが、私がチャンピオンとして頑張る―――本当の理由です」









彼女にとって約束は自分の命よりも大切な事で、自己犠牲を伴っても果たさなくてはならないと思っている

約束に対する執着は凄まじいものだった

何故、そんなにも執着しているのかは分からない。きっと彼女の過去に影響しているのかもしれない。……しかし私はミリ君の過去を知らなかった。彼女は自分の過去を話すのを、恐れていたのだ。差し支えのない話は聞けたが、それ以上の事は話をしてくれなかった。きっと何かあるんだと、私はそれ以上を求めなかったから結局何故彼女が約束に執着している理由まで、理解する日は訪れなかった



交わした約束が、唯一彼女を繋ぎ止める鎖

裏を返せば約束が彼女を蝕んでいた







「私にしてみれば、たかが約束。でもあの子にしてみれば約束こそ全て。…危うかった。約束の為なら省みないあの子が、それこそ過労や疲労で倒れるんじゃないかってね。しかもミリ君が裏で体調を崩しているなんて知らない人が殆どだったから、余計に無理をさせてしまっていた。…………だから私は、チャンピオンから、約束からミリ君を守る為に―――ポケモンマスターの話を持ち出したんだ」










「ポケモンマスター、認定試験…!?」

「あぁ、そうだ。リーグ本部主催で行われるポケモンマスター認定試験。五十年に一度に開催される一大イベントだ。私はね、実は本部の総監と知り合いなのだよ。彼のご好意で私の為に枠一つを空けてくれたから、君を推薦して出場させたいと思っている」

「!!」

「既に多くの博士達や著名人から君に推薦をしたいと募ってきてくれている。…第一関門でもある身分チェックも、総監のご好意でパスしてくれるそうだ。それが叶わなくとも、私の娘として出場すればいい。…だから君は、何も考えず試験に臨んでもらいたい。…どうかね?出場、してもらえるかな?」

「も、勿論です!出場させて下さい!アスランさん…本当に本当に、ありがとう御座います!私…アスランさんの為にもポケモンマスターになってみせます!ね、皆!」

「…」
「キューッ!」
「……!」









五十年に一度リーグ本部で開催されるポケモンマスター認定試験。出場出来る人間は極僅か、出場出来たとしても厳しい試験の課程で脱落していく超難関。故にポケモンマスターこそ、夢のまた夢となっていく

神からくれた慈悲、まさにそう思えた。私は本部の総監と知り合いだった。本部にも彼女の話はかねがね耳にしていたらしい。だから総監は私に言ってくれた、「推薦枠を君に一つあげよう」と。本部の立場から安易に枠を明け渡すなんて出来ない為、総監は私を使って彼女を出場させようとしてくれた(今はもう亡くなられているけど…

私は彼に感謝をした。そして開催される認定試験の為に数多くの博士達や著名人達が募って彼女を推薦してくれた彼等にも感謝をした

彼女はホウエンやシンオウの人々だけではなく、名高き人間や総監の心でさえも虜にさせていたのだから








「ポケモンマスターというものは、ただバトルに強いだけではない。ポケモンバトルの実力に始まり、コンテストとして技を魅せる技術、ブリーダーとして育成の知識やポケモンに関する数多の知識など、全ての実力と知識を兼ね揃えてのポケモンマスターだ」







そう、ただ強いだけでは駄目だ

バトルが強いだけでも、コンテストが秀でていても、一つの才に頼りきってはポケモンマスターなんかには到底なれない。チャンピオンになった事がある人間も、トップコーディネーターなった人間でもポケモンマスターになる事は難しい

ポケモンマスターは、全てのポケモントレーナーの上に立つ存在

チャンピオンやトップコーディネーター、それすらも上の立場に立つ偉人。全てのトレーナーの頂点に立つ人間として、全てにおいて完璧な存在が必要となっていく








「あの子はあの時の時点でポケモンマスターになってもいいレベルに達していた。ポケモンバトルに関してはチャンピオンに君臨しているから分かるとしても、その頃既にトップコーディネーターになっていたし、ポケモン図鑑も完成されていた。それにミリ君は指一本で野生のポケモンをも従えさせていた。ポケモンマスターとして、最高の逸材だった」








人間にも、ポケモンにも愛されていたミリ君

彼女こそ、まさにポケモンマスターそのもの


私はミリ君の夢を叶えさせたかった。幹部長として、父として、一人の人間として、頑張ってくれているミリ君に、何か一つ力になりたかった









「ミリちゃーん!今日だねポケモンマスター認定試験!んもうやっぱりミリちゃんは凄いよ!枠の中に入るだけでも超ど難関なのに…キャーミリちゃんサイコーッ!頑張ってね、ミリちゃん!私、応援しているから!」

「ミリさん、わたくしも応援していますよ。貴女は最高のトレーナーです。わたくしは貴女がポケモンマスターとして戻って来る事を、願っています」

「行ってこいミリ。リーグは儂らに任せて、一発デッカイのかませてやれ」

「どうか気を楽に。私達は貴女の帰りを待っています。ポケモンマスター認定試験…頑張って下さい、我等がチャンピオン」

「皆…ありがとう。チャンピオンとして、聖蝶姫として、ポケモンマスターになってきます。それまで、リーグの事、ホウエンを宜しく頼みます」

「「「「チャンピオンのお心の侭に」」」」












「さぁ、ミリ君。行こうか」

「はい!」

「…」
「キュー!」
「……!」










それから一週間後、


彼女はポケモンマスターとして、ホウエンに帰ってくる事になる






(数々の試練を乗り越えての、帰還)



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