「話を路線に戻そうかね。……事件が起きた次の日に自宅に警察の方々を招いてミリ君の事情徴収を執り行なう事になった。……ゴウキ君なら、ここら辺の話は理解していると思う。ある警察の人間が、特定の時間だけ護衛を兼ねた話し相手になってもらう話を。彼はよくやってくれたよ。研修の為とはいえ、彼がわざわざ来てくれなければ…あの子はずっと部屋に籠ってばかりだったからね…」






彼女は警察の護衛を拒んだ

ポケモンが居るから大丈夫だと彼女は言い、次は同じ目には合わないとも彼女は言い、護衛されると逆に緊張すると彼女は言った

多大な自信と信頼、しかしその裏には彼女は警察を、いや、他の人間を寄せ付けつけないという主張そのもの

彼女は私の説得で了承してくれた。裏を返せば、彼女は私にしか心を開いていなかった事になる。それを分かっていながら、漬け込んでしまった部分も勿論あった。そうでなければ…彼女は明るい子に戻ってくれなかったと恐怖してしまうくらいに




自分の世界に他人の介入を、彼女はかたくなに拒んだ

有休となった、初めての休みの二週間。今までリビングで過ごしていたのに、彼女は自分の自室へ籠る事になってしまった。私が帰宅した時は出迎えてくれるが、夕飯を済ませ家事を終わらせたらすぐに自室へ戻ってしまう始末。閉まられた扉を、私は開ける事が出来なかった




まるであの扉は、彼女の心の闇の扉だと思えてならなかった




警察の新人君であるセキ君が来ると、開かれる部屋の扉

私は仕事中なので二人が、いや、ポケモン達を含めた彼等が一体どんな会話をしているかは分からない。でも、ミリ君が「楽しい時間を過ごせましたよ」と言ってくれただけでも私は嬉しかった。セキ君にも話を聞けば、「いやぁーあの子の会話は面白かったッスよ!また明日も楽しみに行かせてもらうッスよ〜今度はハーゲンダッツ買って行くッスから!」と、こちらもこちらで楽しんでくれた様で、ミリ君はちゃんと笑ってくれていると思うと、…安心した



…ん?どうしてゴウキ君は頭を抑えて溜め息吐いているんだい?







「あの子が付けられた傷は日を追う事で無事治ってくれたよ。どうやら、あの子は傷の治りが他の人と比べると速いみたいで医師が回復の速さに驚いていたよ。しかし治ってくれた事には変わらない。警察の方も、既に容疑者は確定しているから後は送検されるだけだから、事実上この事件は解決をしたようなものだったから私達は安心していたのだが…どうやら警察とミリ君はそう思っていなかったらしくてね…。二週間が経って、セキ君が警察庁に戻ってミリ君がチャンピオンに戻っても、あの子達の警戒は緩む事はなかった」






暴行猥褻及び殺人未遂事件

この事件は彼女の希望で、闇に葬る事になった


盲目の聖蝶姫、ホウエンチャンピオンがまさか襲われていたという事実は、マスコミにとっては良いスクープばかり。リーグでもかなり大きな大打撃は確実だった。彼女はソレを分かっていた。分かっていたからこそ、彼女は闇に葬った

私は彼女の意向に尊重した。リーグ幹部長の立場として、確かに世間に報せると大変な事態を招く事は避けたいのもそうだが……やはり報道された事で余計に彼女の傷を増やしたくなかった。警察も私達の意向に従ってくれた。なので、この事件は世間に知られる事は無かった

知っているのは、私とリンカ君と現場にいた従業員に……シンオウ地方リーグ幹部長のコウダイと副幹部長のジンと…情報管理課の部長、アルフォンス=イルミール




アルフォンス=イルミール

そう、この人こそ






「君のお父さんだよ、レンガルス君」

「「「!!」」」

「君のお父さんはリーグの情報を扱う課に居た事は…ご存じだったかな?」

「……あぁ。シンオウリーグ協会支部の中にある、情報管理課。その部長に在籍していたっつー事は知っていたが…」

「彼は凄く優秀な人間だったよ。彼の情報量の凄さは世界一だと言ってもいいくらいにね。まぁ…私生活に関してはよく笑わせてもらったが」

「…あんのうっかり親父…!」

「ハハッ、アルフォンス君に関してはまた今度話すとして、だ」






ミリ君はチャンピオンに復帰した

チャンピオンマントとコートの下には、黒い服を着込んで

彼女はまたチャンピオンとしてリーグに君臨した。何も知らない従業員達や四天王は彼女の帰りを喜んだ。おかえりなさい、どんな休日だった?、等様々に

いつも通りの生活に戻った。見てくれはいつも通りのミリ君だった。凛とした姿のミリ君に、神秘的なスイクンやセレビィやミュウツー。リーグ内に優雅に歩む彼等はそう、いつも通りだ

……しかし、彼女のポケモン達による鋭い警戒心と威嚇は事件後も変わっていなかった。勿論、彼女も平然としていても、人との壁を作ってしまっていた






「元々、あの子は浅く広い交友関係をモットーにしていたから、リーグ内でミリ君を深く知っている人間は居なかった。あの四天王でさえ、完璧なチャンピオンであるミリ君しか知らない事実。…それが良かったのかもしれない。これが、今のシンオウチャンピオン達があの子の姿を見たら…びっくりする程だったからね」






彼女はいつも通りに過ごした

いつも通りに書類にサインしたり、纏めたり、企画を提案しては奮闘し

チャンピオンとして様々な地域に赴いては公開試合、地方アピール、そしてコーディネーターとしてコンテストに出場と…様々な活動を行った




彼女は笑っていた

綺麗に笑っていた




――――…仮面の、笑みで










「……私はミリ君の気持ちを分かっていながら、何もする事が出来なかった。いや、私はまだあの子の事を理解しきれていなかったのかもしれない。……日を追うたびに、あの子がどんどん遠くに行ってしまう錯覚さえも覚えたよ……あの事件で、あの子は…本当に、心を閉ざしてしまった」






一番、恐れていた事だった


いつの日か見た、満月の下にいた彼女

あの時から危惧していたのに、いや、もう手遅れだったのかもしれない









「……ミリ君、君は…人間が嫌いかね?」

「……何故、そう思うのですか?」

「…あの事件はチャンピオンとして頑張ってきた君を愚弄した様なものだ…。それに薄々感じていたのだよ、君が…人間を良く思っていないのを」

「…フフッ、おかしな事を聞いてきますね。でも―――その質問は、鋭い」

「っ…」










「私はあの時、何をしたらあの子を救えたのか……もし神がいたら、一番に聞いてやりたかった」













「大丈夫ですよ。アスランさんは――嫌いじゃ、ありません」


「むしろアスランさんには感謝しています」



「アスランさんは私達を裏切ったりしませんし、」







「私はアスランさんを、一番に信用して―――信頼していますから」



















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