時刻は夜の八時を過ぎた

空はもう、綺麗な星が煌めいている

外はしんしんと穏やかな白い雪が降り続いている。夜という静寂な世界、野生のポケモンは既に活動を止め巣穴に戻っている為、より静寂が世界に糸を張らせる




此所はテンガンザンの麓に静かに鎮座する、豪邸の一室








「――――…何か情報でも手に入れたらしいな、ゴウキ」






此所は豪邸の中にある、ゴウキの部屋

帰宅後からずっと静かに資料を見つめ自室に籠っていたゴウキに、ナズナはドアの入り口を背も垂れにして静かに問い掛ける

後ろにはフーディンとヤドキングと従え、頭にゴクリンを乗せたナズナ。どうやらゴウキの並ならぬ様子に何か気付いたのだろう。ナズナの声でゴウキは黙読していた資料から顔を上げ、視線だけをナズナに向けた






「……何故、そう思う?」

「お前は決まって重大な事件絡みになると自室に籠る。外部から情報を漏らすのを防ぐ為にな」

「………」

「ただの事件なら別に俺からお前に話し掛ける事はない。しかし今回が今回だ。…帰って来たお前の様子を見て気付かない程俺は馬鹿ではない」

「こほー」

「……………」






見縊らないでもらいたいものだ、そう言いながらナズナは部屋の中にあるベットに腰を掛ける。どうやら話を聞かない限りその場から離れるつもりはないらしい。フーディンもヤドキングも思考は一緒らしく、ベットを背にして座り込んだ。なんという強行突破だ

ナズナの頭に乗っていたゴクリンはのそのそと頭からベットに落ち、のそのそと椅子に座るゴウキによじ登る。腕から肩へ、肩から頭へとのっそりよじ登ったゴクリンは「こほー」と言い、ポムポムと頭を叩く。言っちまえよ、とでも言っているゴクリンも含め、ゴウキは小さく溜め息を吐いた





鋭いのは(異母)兄弟揃って同じだった







「お前の方はどうなっている?」

「既に纏まっている。後はあちらの都合に任せるだけだ」

「白皇はどうだ」

「麗皇も麗皇で情報を集めているらしい。…が、情報のピースが揃わない限り教えるつもりは無いと言っていた。今アイツも部屋に籠っている」

「………そうか」






アイツらしい、とゴウキは思う

揃えるならきっちり揃える、曖昧な情報は妙な誤解を生ませ、話をややこしくさせるだけ

レンは情報屋としての裏の顔がある。情報屋だからこそ、情報を完璧に揃えたいというプライドがレンにはある。最近は情報収集を疎かにしていたと彼は言うも、確かな情報を手に入れて来る彼の情報収集能力は底を知れない


ナズナの方もカツラと手を組んだとなれば、情報を纏めるくらい造作も無い。ナズナの言う通り、後は"彼等"の都合が付けば良いだけの話











「………リーグ関係者でもなく警察でもないお前に易々と話すわけにはいかんだろ」

「しかし後々知る事になる。…今更勿体ぶってどうする。お前が窃盗事件を担当するのも俺がカツラさんと情報を纏めるのも―――全てはミリさんの為だろ」

「……………」

「…当の本人は…拒絶したがな」

「……………」






全ては此所に居ない、ミリの為

ゴウキが窃盗事件を担当し、闇に葬られた謎を追及するのは警察の立場(とゴウキの性格から)としてだが、全てをひっくるめてミリの為だと言っても良い。ナズナも考古学の仕事があるのに謎の解明に勤しむのも、かつて自分の命を救ってくれた恩返しでもあり、ナズナ自身の揺るぎない意思でもある


全て一緒なのだ。何故二人が、いや三人が動くのも、目的意識も行動意識も。本当ならバラバラに行動していてもおかしくない三人が、まだ一緒に居るのも

全ては、ミリの為に






―――しかし、対するミリは何もしないでくれと否定し、拒絶をされてしまったが










『迷惑よりも、止めて。止めてほしい。本当に本当に、私の知らない所で勝手に……私の心を抉らないで』

「っ……」

『私にとって!私にとって……記憶が無い事は虚無と恐怖と孤独でしかない。自分が自分じゃない不確定な中で生きる苦しみは、もう享受するしかない。……諦めているんです。失った記憶は――蘇る事は出来ない。簡単に蘇ってくれていたら最初っから苦労もしていません』

「ミリ…」

『それに過去を知る事は、もう一人の自分を受け入れる事は―――とても恐ろしい事なんです』

「「………」」

『……もし、この件で私が大きく絡んで、しかも記憶がそれこそ絡んでいたら、何も手出ししないで下さい。そんな優しさ、私にとって残酷な優しさでしかないんです』












だからと言って今更止めるつもりは毛頭無い

ミリの為、それは最大の理由だ。否定されても拒絶されても気持ちは変わらない。―――けれど、他にもこの事件を解明していかなければならない

―――葬られた、あの謎を







「…そうだな。白皇に言うよりもお前に言った方が後々話が進みやすくなる。…話した以上、お前にも手伝ってもらう。もしかしたらお前の力が必要になっていくのかもしれんからな」

「それは大いに構わないが…何だ、麗皇に言ってしまうと色々とヤバい事なのか?」

「ヤバい、と言うよりも…聖燐の舞姫の性格を知っている人間なら……怒りを覚えるな」

「……お前が怒りを覚えるくらいなら、かなり深刻な話らしいな…」






普段ゴウキは日常で怒ったりキレたりする姿をあまり見せない。沸点が高いのか、性格からくるのかは分からない

しかし、だからこそゴウキは誰よりも冷静に物事を対応出来るのだ。警察の仕事も中立に解決出来るのもゴウキの長所とも言っても良い


……けど、その反面感情が乏しい所があるのだが


そんなゴウキが怒りを覚えるなんて余程の事なのだろう。静かに怒りで影をさすゴウキを見て(門下生が見たら戦慄するだろう)ナズナは思うばかり







「―――……俺が担当している窃盗事件で、また新たに謎が増えた。しかもまだ未だに解決されていない、筋金入りの迷宮入りの謎だ。それはリーグが闇に葬った…誰も知らない闇の事件だ」

「ほう、興味深いな。リーグが闇に葬ったとなれば、やはり聖蝶姫が絡んでいる事件なのか?」

「当事者で、被害者だ」

「…何…?」

「六年前に起きたホウエンリーグ協会支部に起きた暴行猥褻及び殺人未遂事件。被害者は当時チャンピオンだった盲目の聖蝶姫、その事件自体を闇に葬ったのも―――盲目の聖蝶姫本人だ」

「――…詳しく聞かせて貰おうか」













ナズナの隻眼が、鋭く細められた






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