―――リゾートエリアの別荘 「ミリ、お前にいいモンやるよ」 「いいモン、ですか?」 「ほら、ハーゲンダッツ」 「ハーゲンダッツ!」 「の、バニラだぜー」 「バニラ!」 ジムの仕事から帰ってきたデンジの手には、コンビニで買ったハーゲンダッツが袋の中で揺れていた ソファーに座って雑誌を読んでいたミリの視界を遮る様にガサリと袋を雑誌の上に置けば、ミリの瞳はパァアアッと輝いた 「おおおお…!デンジさんありがとう御座います!ハーゲンダッツ!ハーゲンダッツ!」 「プッ、お前本当に甘い物になると目が無くなるよな」 「…あはー、単純でごめんなさいねー」 「違ェよ、誰もそんな事言ってないだろ。まぁ、強いて言えば……餌付けしている気分だ」 「餌付け!?」 ガーン!とショックを受けたミリにデンジは喉の奥で笑いを噛み殺す 気分はあながち間違ってはいない。警戒心強い猫に猫戯らしを与えて遊ばせる様な、そんな感じ。目の前の猫(ミリ)の場合は猫戯らしではなくアイス(ハーゲンダッツ)が一番お好みらしい 可愛い猫だな、とデンジは未だショックを受けているミリを見て思った 「………(-"-;)」 「よしよし、機嫌直せって」 「ちょ、別に機嫌悪くありませんよ」 「機嫌悪い奴こそそういう反応をするんだよ」 「わわっ」 ソファーに座るミリの隣りに無造作に座り、腕を伸ばしてバフバフと頭を撫でる 急な至近距離、しかもデンジはこれみよがしに肩を掴んでミリを引き寄せた。まさか身体を引き寄せられるとは思わなかったミリはビクリと身体を強張らせるも、じわじわと頬を赤らめあわあわと慌て始めた ウブい所も相変わらずか デンジはクツリと喉の奥で笑った 「…(・ω・;=;・ω・)…」 「(プッ、マジでウケる)」ギュー 「Σ…」 力を込めてもっと引き寄せてみれば赤い顔はそのままに、身体を硬直させてはすぐさま逃げようともがいている 本当に可愛い奴だ 「(………レンにミリを渡してやるものか)」 ふと浮かんだのは、憎きレンの姿 テレビ電話で交わしたあの会話を思い返す度にフツフツと浮かぶ、別の感情 これはそう、嫉妬だ 自分はアイツに、嫉妬をしている 今こうして抱き寄せていても、ミリは逃げようとしている。けど、これがもし自分の場所がレンだったら、と考えるだけで苛々が募っていく アイツの元へ渡すより、このまま自分のモノにしてしまおうか―――― 「……あ、アイスが溶けちゃう」 声を上げたミリの声にハッとデンジは正気に戻り、肩に抱いていた手を離してしまう 解放された事で安堵し、コンビニの袋をあさってバニラ味のハーゲンダッツを取り出すミリを見て、俺は今何を思ったんだ、と冷や汗を流す 「デンジさんデンジさん、このままだとアイスが溶けちゃいますね」 「………、まぁそのままにしちまったら普通に溶けるな」 「ですよねー」 「食っちまえよ。冷蔵庫に入れちまったら誰かが見つけて食べちまうかもな。そもそもソレ、お前の為に買ったモンだから食っちまえ。俺が許す」 「それもそうですね!なら頂きます〜。はーい、白亜ちゃーん、黒恋ちゃーん、デンジ兄ちゃんがアイス持ってきてくれたよー」 「「ブイブイ!」」 「……………」 今の感情は、危険だ 一瞬だけ過ぎった、小さな感情 従ったら最後、コイツを泣かせてしまう所か―――ミリ自身をまた失っちまう様な、気がした これは、危ない → |