盲目の聖蝶姫を襲った悲劇の事件から、後々

彼女は最年少チャンピオンでもあり数々の偉業を成し遂げた後、念願のポケモンマスターとして人々に認められた






――――だが、彼女は行方不明になってしまった








「後は師範長のご存じの通りッスね。チャンピオン辞退後、突然行方不明になって、ホウエンとシンオウの警察とリーグ総出で彼女の捜査。…結局何も掴めないまま終わっちまったんスけど、ね」






けれど、それは表向き

本当の闇が潜んでいる事はもう既に気付いていた






「事件解決後俺はすぐにシンオウ警察庁に戻って別の事件の捜査を進めていたんで、しかもその事件が中々解決出来なくて結局彼女の行方不明捜査に乗り出す事が出来なかったんスけど……当時研修先の上司達が事件性を見つけて捜査に乗り出したんスよ」






それは、そう、ただ一つ

あの時不可解に感じていた、闇に葬りかけた…あの謎を





しかし――――









「―――…それで、その謎は解明出来たのか?」

「…残念ながら」

「…………」

「理由は二つ。一つは師範長も分かる通りだ。彼女は世間から忘れ去られた。…あん時はマジで目を疑いましたよ…皆あれだけ聖蝶姫の行方を騒いでいたのに、スッパリと忘れちまっていた。俺がいくら言っても、皆俺を冷めた目で見るか馬鹿にするかどっちかッスよ」

「…お前も記憶が残っていたのか」

「えぇ。こっちのチャンピオンもジムリーダー達もまだ覚えていたみたいッスけど……結局俺も、成す術も無く六年間、彼女の事を忘れちまったんスけどね…」

「……………」







たった二週間だけだったけど、聖蝶姫と過ごした時間は掛け替えのないモノだった

それすらも忘れて、自分は今まで生きてきた




……彼女に顔向けが出来ない



今ではもう、後悔でしかない









「……なら、二つ目は?」

「二つ目は、捜査の打ち切りッス」

「……打ち切り?」

「はい。まぁ詰まる所…上から強制的に捜査を止める様に言われたんスよ。…しかもまだ聖蝶姫の事を覚えている時ッスよ。覚えているなら普通捜査して当たり前な筈なのにッスよ?おかしくないッスか?」

「……チャンピオン且つポケモンマスターになった優秀な者程世間の目もある。なにより聖蝶姫は人気があった、その様な者程警察が出動してもおかしくない、いや、むしろ当たり前だ。記憶を失い捜査の見込みが無くなれば自然と捜査は打ち切りになるのも頷けるが……まだ記憶がある内から捜査が打ち切りになるのは不可解だ」

「上に言われちまえばもう何も出来ない。上司達には家庭があったから、安易に違法捜査なんて出来たもんじゃないッス。…しょうがないッスよ、誰だって家庭が第一ッスからね」

「……………」

「だから結局、あの謎は本当に迷宮入りになっちまったんスよ」








容疑者の証言から生まれた、不可解な謎

そして、まるで真実を隠蔽させる様に捜査を打ち切らせた上の行動





―――謎はまだ、闇の中










「俺がこの話を聞いたのはもうシンオウ警察庁にいて、捜査が強制的に打ち切られた後だった。…ホウエンが駄目なら、シンオウでって思ったんスけど……そうすると聖蝶姫の約束を破る事になっちまう。シンオウは聖蝶姫の知り合いがいましたからね…新米のペーペーだったからもあったけど、結局俺は何もする事が出来なかった。…不甲斐ないッス」

「…………」

「上司も言っていました。『不甲斐ない』と。『こうなる事が分かっていたら、上に止められても捜査を進めるべきだった』」

「…その時から既に上からの圧力が掛かっていたのか」

「はい。…俺はなんも、気付かなかったッスけど、ね…」

「…………当時の上司と話がしたい。連絡先を教えてくれ」

「……………無理ッスよ。もう、この世には…いない」

「…なんだと…?」

「殉職しました。一人は五年前、悪党集団規制活動中の最中に、相手の攻撃で深手を負って命を落とした。もう一人は心筋梗塞で帰らぬ人となった。…彼女が行方不明になって捜査が打ち切りになった、数日後に」

「―――――…」







偶然なのか必然なのか神の悪戯なのかは、分からない

あの謎を解き明かそうとした人間を、誰かが背後で操ったかの様に感じてはならない


…偶然にしては、出来過ぎていた







「師範長、もしアンタがこの事件の真相を暴くのなら、俺も力になります。今はまだ他の事件で手がいっぱいな関係、影から支える事になりそうッスけど………もう、あの頃の俺とは違う。―――今度こそ、俺は彼女を救いたいんだ。亡くなってしまった上司達の分も、一緒に」

「………………残念だが、この件は俺が調べるつもりでいる。話を聞かせてもらっただけでもお前は十分やってくれている。…後は俺に任せろ」

「……………、何故この事件を調べるのか…本当の理由を聞かせて下さい」

「……一つは窃盗事件関係で関連性を見越してだ。二つは行方不明になった盲目の聖蝶姫の真相、三つは……いや、これは別に言わなくてもいいだろう。俺はあくまで中立に、事件の真相を暴くまでだ」

「肝心な三つ目を言わないとかずるいッスよ師範長…気になるー…。まぁ、別にいいッスよ。口閉ざしたら本当に何も言わないッスからね、師範長は。……しょうがないッスね、この事件は師範長に任せる事にするッスよ。俺はまだ残っている仕事を片付ける事にします」

「そうしておけ。後は俺…いや、"俺達"に任せろ」

「よろしくお願いします。―――…けど、これだけは忠告しておくッスよ。この件は、もしかしたら命を落とすかもしれない危険な事件ッス。…気をつけて下さいよ、この話の次の日にアンタが死んじまったらそれこそ上司達の二の舞ッスからね」

「分かっている。…肝に命じておく」























「………………」




二人の会話を聞く、黒い影がいた







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