「……終わったんスね」 「あぁ」 事件を引き起こした容疑者6名は無事に検察の方へ送検された これでもう、一件落着だ 自白し、送検されていった容疑者はそのまま刑務所に入って数年過ごす事になる。懲役は約数十年。当然の報いだ。俺は検察の人間に連れて行かれた容疑者6名の後ろ姿を見て、これで彼女も安心出来ると小さく息を吐いた 「…彼女の方も傷は治って明日には無事にチャンピオンの職に復帰出来そうみたいだから、本当に良かったッスよ」 「けれど彼女の傷は未だ癒えていない。…彼女だけじゃない。被害者になってしまった人全員は必ずしも心に傷を負う。…犯人を逮捕し、送検した今、我々の出番はもう終わった。後は被害者自身の問題だ。前に進むか進まないか…人によって気持ちの持ちようが違ってくるからな、彼女には是非立ち直ってもらいたいものだ」 「…そうッスね…」 彼女の傷は癒えていない その証拠に、今日まで彼女は黒の服から肌を見せていない(いや別に彼女の肌が見たいとかそんな気は全く持ってないから! 彼女同様に、ポケモン達の心の傷も回復していない。上司の言う通り、彼女達には立ち直って前に進んでもらいたい 心の底から彼女の幸せを願っていた俺を余所に、隣りに立っていた上司は眉間に眉を顰めていた 「犯人は逮捕出来た。物件も証拠も自白している。…気掛かりだった犯人の証言は、未だ謎のまま。―――……このまま、言われた通り闇に葬るべき、か…?」 「?どうしたんスか?」 「あぁ―――すまない、何でもない」 腑に落ちない表情を浮かべたまま、上司は小さく溜め息を吐く 上司の反応を見ても特に何も気付く事は無かった。上司がどんな気持ちで、どう思考を巡らせていただなんて。聖蝶姫の事で頭がいっぱいだった俺は、何も気付けなかった (気付いていたら)(分かっていたら) (もしかしたら――――) 「セキ、今日が最後だ。彼女と話し相手になるのも、彼女を護衛するのも。…行ってこい。今日の事をしっかり彼女に伝えてこい。それがお前の研修最後の課題だ」 「はい!」 ――――― ――― ― すぐさま俺は彼女に報告する為に幹部長宅に行って、彼女に今日あった全ての事と事件の終焉を報告をした。これが研修の課題だったとか今更知ってかなりびっくりしたけど← 約束していた時間より一時間も早く来てしまったけど、彼女は嫌な顔せずに俺を歓迎してくれた。流石に二週間も経てば当初アレだけ俺にピリッピリなポケモン達もわりかしマシになっていて、俺を(それなりに)歓迎してくれた 「そう、ですか…これで無事に解決してくれたんですね。…ありがとう御座います、セキさん。皆さんにもお伝え下さい。本当に、ありがとう御座います、と」 「はい」 安堵の息を吐きながら聖蝶姫は微笑む 彼女は相変わらず黒一色の服装を着ていて、首の白いスカーフも相変わらずだった。部屋の中にあるタンスには、今まで無かったあの見知ったオレンジ色のコートとチャンピオンマントが掛かっていた 明日、彼女はチャンピオンに戻る 「これで俺は警察に…いえ、シンオウ警察庁へ戻ります。なのでチャンピオンとこうして会話するのも、今日で最後になります」 「フフッ、話は聞いてますよ。研修が終わったからですよね。貴方の上司から話を伺っていました」 「ってえぇええ…まさか知っていたとか……」 「…」 「キュー」 「……」 「ま、いいッス。細かい事は置いといて、――…今までありがとうございました。研修とはいえ、チャンピオンと過ごした時間は忘れません」 「こちらこそ、ありがとう御座いました。―――次会った時は立派な刑事として、また会いましょう」 「チャンピオンも頑張って下さい。俺は、いや…"俺達"は、アンタの活躍を遠くで応援しています」 最後の勤めを、果たした 俺は警察として、最後に彼女の前で敬礼をした 彼女は盲目で目が見えないから、俺の敬礼は見えない。けど、彼女は確かに俺を視てくれていた。彼女の、心の目で 彼女は笑った 綺麗に、笑った 「セキさん、最初で最後です。……貴方に、お願いがあります」 彼女は言う ゆらりと、光りの無い漆黒の瞳を青色に変えて 「セキさん、この事件は闇に葬るべき事件です。…こんな事で、私は大事にさせるつもりは毛頭ありません。チャンピオンとして、一人の女として。セキさん達の活躍のお蔭で事件は無事に解決されました。…だからお願い、このまま誰にも言わずに闇に葬って下さい。……私の知り合いと呼ぶ人達には、特に」 何故、とは聞かなかった いや、思わなかった 「―――…この事はアンタの名誉に関わる事だ。俺はこの事を、口外するつもりはないッスよ。それがアンタの頼みであり願いなら、尚更」 「…上司の方々にも、」 「分かってるッス。俺から上司に伝えておく。元より、上司達もこの事件を口外するつもりはないッスからね。…だからチャンピオンは安心して下さい」 「…はい」 伏せた瞳がまた顔を上げた時には、青色だった瞳は漆黒に戻っていた けどそんな変化よりも、彼女がやっと安心してくれたと思うだけで、俺はそれだけで十分だった リン、と彼女の耳にあるイヤリングが小さく音を鳴らした 「ありがとう、セキさん」 それが、俺と彼女が交わした最初で最後の言葉だった (彼女は、消えてしまったから) |