そんな感じで俺は午後の二時から午後の三時半に限って彼女の話し相手になった訳なのだが……

いやもう上司の言葉を疑ったっていうかなんていうか。状況が状況だったとしても、あの聖蝶姫に!あのチャンピオンと仲良くお話出来るんだぜ!?みたいな!いやぁーあの時はマジ上司に感謝したなぁ。テレビ越しで見ていた彼女が実際に目の前に居るだけでも十分なのにまさか話し相手とか!下っ端の俺がうろうろしても捜査の邪魔になるって事は頭の片隅で分かっていても、まさかの待遇に心を踊らすばかり!


うん、師範長とりあえずその冷めた様な憐れな眼で見ないで下さい分かってますよ自分でも単純だって事くらい…!←






期間は聖蝶姫の有休が終わるまで。事件に関しては容疑者を送検するだけだから、後は上司が気になる所を捜査するだけ。俺は話し相手兼捜査の報告役ってわけだ。下っ端には下っ端らしい初仕事だけど俺はマジ幸せな仕事だったぜ…!←←

初めの一日はかなり緊張してかなりガッチガチで何を口に出せばいいか分からなかった俺。つーかミュウツーとかスイクンとか他のポケモンの視線が痛いっていうかなんていうか。今思えばかなり情けない俺を、聖蝶姫は嫌な顔をせず受け入れてくれた。お陰様ですぐに俺達は打ち解ける事が出来て、お互いシンオウ出身だからもあって話も弾んでくれた








「そういえばさ、チャンピオンってシンオウにいた頃…暴走族グループをぶっ飛ばしたって本当ッスか?」

「暴走族グループ、ですか?」

「や、俺の気のせいだったらいいんスよ。なははー、一部の暴走族グループの人間がアンタの事を氷の女王って恐れていたから、なんかしたのかなぁ〜みたいな…」

「キュー?…キュー、キュッ!」
「…」
「……」

「……あぁ…、もしかしてあの人達の事ですかね?えっと…確かナギサシティを拠点としていた…」

「そうそう。ナギサシティって治安悪いからさ、結構たむろっている奴等が多くて……って、え、やっぱチャンピオンあの暴走族を…」

「あはー☆」

「マジでか!?」

「だって夜のマフラー音ちょー五月蠅いんだもん」

「だもん!?……つーことは暫くナギサシティに暴走族が現れなくなったのも…!?」

「その話が本当かどうかは分かりませんが、確かにナギサシティにたむろっていた暴走族を蹴散らしましたよ。人数までは把握しませんでしたが、数グループの暴走族さん達をこの子のぜったいれいどで、一発(にっこり」

「…」

「ひぇぇぇぇ…!本当だった…!笑顔でぜったいれいど食らわされたって話本当だったんだ…!!(ガタガタガタ」

「あはー。だって昼にドライブするならまだしもあんな夜中にドライブですよ?皆さんの迷惑にもなりますし、野蛮な人達が多かったのでお灸を吸わせてあげただけですよ。ねー?」

「……」
「…」
「キュー」

「最後はナギサに住む市民の方々の前に全員土下座させて一件落着です」

「(……元同僚が『聖蝶姫怖い恐ろしいうわぁぁぁぁ』って嘆いていたのはこの事だったのか…!?)」

「それに私もバイク乗りたかったし」

「何故に!?」

「ついでにナギサを拠点としていた暴力団にも乗り込みました」

「危ない!それもそれで危ない!」

「話が分かる人達で良かったですよ〜。今はどうかは分かりませんが、心を改めてナギサの街を貢献してるって、私信じてる」

「……暴力団の執り行っていた裏事業がいつの間にか改まって真面目な事業になったのはアンタのお蔭だったのか…!?」

「最後は暴力団の皆さんにもナギサ市民の方々に土下座してもらいました」

「土下座好きだなおい!?」








盲目の聖蝶姫という人間は見た目と裏腹にマイペースでお茶目な性格の持ち主。そして正義感溢れる、我顧みず敵陣に乗り込むちょっと(いやマジで)目を離したら危ない子。落ち着いていて大人っぽい雰囲気を持っていても、中身は実は面白い子でした、なーんてこの話を聞いただけでもよく分かる一面だった

つーかアンタ何やらかしてんのぉぉぉ…!?

いや、あの時はマジで戦慄した!当時その頃は暴走族の足洗ってシホウイン道場に入門していたからあの場には居なくて話しか聞いていなかったから「あの聖蝶姫が氷の女王?土下座?まっさかぁ〜!」って恐怖に怯える旧友を笑っていたけど、まさかそんな話が現実にあったとか!マジかよ!実際にあの後詳しく調べたらマジあの聖蝶姫…他の暴走族グループ(5グループ総勢150名)をスイクンのぜったいれいどで氷結→迷惑かけたナギサシティの市民に全員で土下座をさせたとか!俺が所属していた暴走族は含まれてなかったから良かったにしろ…シンオウ全土の裏業界では確実に「盲目の聖蝶姫=氷の女王」って名前が確定したのは確か。しかも「怒らすと笑顔で悪夢を見せてくる」って噂もある。…いやマジで。あながち間違っちゃいないと思うのは俺だけ?特にスイクンとかミュウツーとかダークライとかダークライとかダークライとか!

しかもナギサシティを拠点としていた暴力団にもメンチ切って土下座させたとか恐ろしいにも程がある。ちなみにその暴力団は改心して今は立派な会社を経営しているから驚いたもんだ


どっかの誰かさんみたいでこっちはヒヤヒヤもんッスよ。え?別にゴウキさんだなんて一言も言ってないッスよ〜、だからそんな睨まないで下さいッスすんません調子こきました














「チャンピオンも大変ッスねー。まだ未成年なのにチャンピオンとか…俺なんてまだまだバイクぶっ放していた年齢だったのになぁ…」

「フフッ、確かにチャンピオンは大変ですよ?でもやり甲斐はありますし、それがホウエンの為なら私は努力を惜しみませんよ」

「…………大丈夫ッスか?」

「…何がです?」

「アンタがホウエンの為に尽くして来たのは周知の事実だ。けど、アンタはこんなに頑張っているのに…こんな事件が起きてしまった。……それでも、まだチャンピオンに君臨するつもりッスか?」

「……………セキさん、貴方は私を見くびってますね」

「は?」

「上に立つ者はそれ相応の義務と覚悟が必要になっていきます。義務は上として、チャンピオンとして民間に尽くしていく為に。覚悟は…いつ命を狙われてもおかしくないからこそ、命を狙われる覚悟をしていかなければならない。…そう、今回みたいな事件のように。ですがたかがこんな事件程度で、チャンピオンを辞めるなんてありえませんよ」

「!…は!?じゃアンタは自分を犠牲にしてまでチャンピオンをする気なんスか!?」

「……確かに裏を返せばそういう捉え方もあるかも知れません。犠牲…そうですね、しっくりくる言葉です。ですが…私は私の為に、皆との約束の為にチャンピオンを続けなくちゃいけない。これは私の意地でもあるんです」

「約、束…ッスか。……けどいくら意地って言っても…アンタがボロボロになっちまったら元も子もないッスよ。また今回みたいな事件が起きたとしたら…確実にアンタは心に傷を負う。それでもまだチャンピオンに君臨し続けられるんスか…?」

「ボロボロになろうとも命狙われようとも私はチャンピオンの責務を果たし、誓った約束を果たす







…それが私の存在理由です」












何に縛られているかは、分からない

聖蝶姫は誰かと交わした「約束」に執着し、孤立し、約束の為なら自己犠牲を厭わない危ない一面があった。存在理由…何で「約束」が彼女の存在理由にイコールが付けるかは今でもよく分からない


むしろ「約束」が彼女を蝕んでいる様にも見えた


盲目の聖蝶姫は自分の事をあまり話そうとはしなかった。話すとすれば誰かの問い掛けに応じる際に答える程度で、彼女自身から口に出す所は滅多に無かった。それは俺と会話する時も同じで、彼女は俺に話を振って俺の話ばかりを聞いてくれていた。いざ俺が話を振ってみれば、互いの共通点や彼女にとって差し支えないモノは話してくれるも、彼女の昔話には一切語ってくれなかった。きっと何かあったんだろう。結局そんな事から「約束」がどういう内容で、誰と交わしたかは最後まで話してくれる事は無かった













「――――…命狙われるの、慣れてますから」

























そして俺は約束通り聖蝶姫の元に通い続け、職務というか約束を守り続けた

お陰様で彼女と仲良くなれて、今じゃ良き話し友達になってくれた






「チャンピオ〜ン、お土産買って来ましたよ〜。ハーゲン〇ッツのバニラ!…の、ちっちゃいヤツ」

「わ!ありがとう御座います!ハーゲン〇ッツって高いから中々食べられないっていうかなんていうか…!」

「チャンピオンだから食べれるって訳じゃないんスね…」

「しかもこの子がいつの間にか盗み食いしちゃうんです。何でも良く食べちゃうから気付いた時にはもうカラだったり…こら、セキさんのハーゲン〇ッツ食べちゃ駄目だよ?」

「……」

「はははっ、いいッスよ俺の分食べても。そもそもこれ皆で食べてもらいたくて買って来たもんッスから、全員で食って下さいッス」

「……!」

「え、なんか初めて『お前良い奴だったんだな』的な顔されたんスけど。え、何この複雑な気持ち」

「良かったね〜」








彼女の傷は癒えつつあった


傷の治りが早いのか、五日も経てば痛々しい包帯も解かれ、湿布も必要としなくなった。けれどまだ彼女の心の傷は癒えてなく、その証拠に普段着ていた服がガラリと変わってしまっていた。ホウエン地方は暖かい温暖気候で、半袖やワンピースでいてもむしろまだ暑いのに、あの事件以来彼女の服装は黒一色になってしまい、白い肌も、しなやかな肢体も、家の中でも露出する事はなかった。首に巻くスカーフも、取る事はなかった。彼女の象徴するオレンジ色は、彼女のコートだけになってしまっていた





身体の傷は治っても、やはり彼女の心は癒えないまま

あの事件から早くも二週間が経とうとしていた














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