「改めまして初めまして。私はホウエンリーグチャンピオンを務めている"  "と申します。この度はお手数をお掛けしまして申し訳ありません」

「存じております。改めて私達の方からも挨拶をさせて下さい。ホウエン警察庁刑事部一課の者です。チャンピオンが無事でなによりです。私達の事は気にせずにリラックスして下さい」

「はい」







聖蝶姫の意向の下、警察がリーグに通っていると世間にバレない様にリーグに向かい、副幹部長と合流してから彼女が住む住居へ向かった

俺達の来訪を彼女は椅子に座って迎えてくれた。改めて見た彼女はいつもテレビで見ていた彼女と雰囲気が同じで一見大丈夫そうに見えたけど、彼女の身体がとても痛々しかった。顔にはたくさんの湿布や包帯、綺麗だった髪は切られていて腰まであったそれは肩までの長さになっていた。絞められた首にも包帯が巻かれていて、バレない様にスカーフが巻かれていた

被害者だと疑ってしまう彼女の言葉同様、聖蝶姫は改めて凄いと思った。こんな状況でも、全治二週間って言われても、こんなに冷静でいて、しかもこちらに気遣ってくれるその態度。俺はまだ成り立てだから他の被害者の様子は分からないけど、この俺でも彼女の冷静さに感服してしまった

………が、






「……」
「…」
「キュッ…」

「あ、あのー…チャンピオーン……そちらのポケモンさんの、鋭い視線と鋭い武器と鋭い雰囲気が正直キツいんですけどぉー、みたいなぁ…あはは〜」

「…すみません。事件にあってからずっとこんな調子で…」

「無理も無いです。私達の方は大丈夫ですので、どうかお気になさらないで下さい」







彼女を守る強大な壁、と言われている水色のスイクンと紅色のセレビィと緑色のミュウツー

近くで見れば見るほど超カッコいいマジで惚れる←


俺達が来るなりミュウツーは武器(ナイフ的な何か)をこちらに向けてきたり紅色のセレビィは可愛い目をキッと睨み付けてきたり(それがまた鋭いのなんのって)水色のスイクンは静かに聖蝶姫のそばに座っていたけど纏う雰囲気がピリッピリしていて痛いっていうかなんて言うか(俺的にこっちが超こえぇぇぇ


そうなってしまうのも、確かに無理はない。三匹からしてみれば…ずっと近くにいてずっと守ってきた主がまさか自分が回復中に襲われてしまっただなんて、…かなりショックだったに違いない。しかも聖蝶姫の姿を見たもんなら……あぁ、ショックだけで収まらなかっただろうに






とりあえずすんませんミュウツーさんその武器俺に向けるの止めて下さい














聖蝶姫はホウエンリーグ幹部長と一緒に暮らしていた。幹部長アスランは所謂お金持ちらしく、彼女がチャンピオンになって住居をホウエンに移した際、彼女を引き取ったらしい。養子に入れようとかなんとか話はちらほら聞いたけど…まぁこれは関係ない話ッスね

彼女が幹部長アスランの元に暮らしている事は誰も知らない。リーグの人間も、全員。お蔭様で彼女が療養しているとバレずに済んでくれた。聞けばリーグ内は何事も無く普通に過ごしていて、有休で休む事になったチャンピオンを笑顔で見送ったらしい。…今思えばなんつー呑気な…

聖蝶姫の迅速な対応のお蔭でリーグ内もリーグ外も至って普通の生活を送っていた。彼女の容態も、知らないままに






「―――――…話を纏めますと、公開試合を終わらせて傷付いたポケモンを預けて一人休憩室に戻った所、来訪者を知らせる呼び鈴が鳴った。誰かが来たかと出迎えたら…見知らぬ集団に襲われた、と」

「はい」

「後頭部強打、顔面を殴られて、首を絞められて…服を乱された。……では、どうやって容疑者達を倒せたかまでは…」

「それはアレです。火事場の馬鹿力ってやつですy「…」(ペシッ!)あたっ」

「…………、あなたが無事ならそれで十分です。深くは聞きません」

「ありがとう御座います。そうして下さるとこちらも有り難いです」







小さく息を漏らし安堵の表情を浮かべる聖蝶姫に、隣りで静かに話を聞いていた副幹部長は「もう大丈夫だからね」と言い彼女の肩に触れる






「っ…!」






けれど、ただ肩に手を置いただけで彼女は過敏に反応した。ビクリと、そうまさにビクリっていう擬音の文字がぴったりな反応を返した。俺はまさかそんな反応をするとは思わずに、びっくりして彼女の姿を見た。対する彼女は――申し訳なさそうに、副幹部長に頭を下げていた

副幹部長は「大丈夫よ、気にしないで」と彼女を宥め、セレビィは庇う様に彼女の頬に擦り寄った。聖蝶姫は苦笑をするも―――セレビィを腕の中に抱いて、ギュッと抱き締めていた



それだけ彼女の心には深い傷を負った。いくら平然としていようとも、身体は正直だった。それが一番よく分かる姿だった









あれからまた何度か事情聴取を執り行ない、話を無事に終わらせ彼女に今の状況を説明した

既に犯人の身柄は確保してあるし、犯人も自白している。この時点で事件は解決していると言ってもいい。もう容疑者の罪名は「暴行猥褻及び殺人未遂事件」で起訴は決まっていた。聖蝶姫の聴取はあくまで被害者の証言として受け取って、もし事件性が見つかれば調査が進められていくのが基本らしい。しかし聖蝶姫の証言から全くそんな事件性の匂いすら無かったから、一件落着も目に見えていた


しかし、それは俺だけが思っていただけであって、上司や彼女はそうは思っていなかった









「不可解ですね」

「やはり貴女もそう思いますか」

「えぇ。―――…人間、爆発してしまえば何をしでかすか分かりません。ですが…ただの偶然とはいえ、これは不自然過ぎます。…これ以上何も起こらなければいいんですが…」

「ミリさん、私警察の方々に護衛を要請した方がいいと思うわ。…もしまたあんな事があったりなんてしたら…」

「いえ、その事なら大丈夫です。私は護衛は必要としません。そんな、お手を煩わせる訳にはいきません」

「ミリさん…もしあなたがチャンピオンとして騒ぎを拡大しない為にって思っているなら、それは違うわ。これはもしかしたらあなたの命に関わる事かも知れないのよ」

「私達からも暫く貴女に護衛を付けた方が宜しいと思います。貴女は有名人だ…本来なら護衛を付けてもいい人間です」

「大丈夫です、私達にはこの子達が居ます。……あの時は油断してしまいましたが、もう次はあんな目にあう事はありませんよ。――――そう、もう二度とあんな目にあう事はありませんよ」







警察の護衛を彼女は拒んだ。いくら上司や副幹部長が言っても、彼女は首を縦に振る事は無かった

凄い自信だった。それほど三匹の実力を認めていて、彼女自身の力も自負していた。今回は彼女曰く不意打ちだった事件だったけど、本当ならあんな奴等なんて動作もない事は彼女達の実力で分かっていた

必要ないって彼女は言って、俺達に申し訳ないからと遠ざけようとしてきたけど、遠回しに俺達を拒絶しているんだと気付くのには時間は掛からなかった







「…本当に要らないんだね?」

「はい。逆にいると緊張しますし、気になっちゃいますから。それにせっかく休みを貰えたので…皆と一緒にゆっくりしたいです」

「…」
「キュー」
「……」

「…一人だけでも、駄目か?ずっといるわけじゃない。話し相手になるだけでもいいんだ。…その方が、私も安心出来る」

「……………分かりました。アスランさんが言うなら、アスランさんの言葉に従います」

「…」
「…キュー…」
「……」

「…そうか、良かった…」







いくら勧めても、彼女は一向に首を縦に振る事は無かった。最終的に最後の砦でもある幹部長のアスランさんに頼んで、説得をしてもらった

やはりアスランさんには頭が上がらないらしく、最後まで渋って渋って渋っていた彼女も遂に頭を縦に振ってくれた。ポケモン達も渋々って言った様子で納得してくれた。…けどミュウツーの無表情とスイクンの無言の二つの圧力っつーかプレッシャーがひっしひしのピリッピリって感じで胃が痛いのなんなのって←


護衛に関しては護衛と言うより話し相手として、様子を見に行くという事で話は纏まった。時間は午後の二時から午後の三時半。おやつの時間帯には持って来いな時間帯だった。勿論この時間帯は彼女が決めた時間で、彼女曰く「お仕事で疲れた時の一服と考えて下さい」らしい。なんていい子!









「ゆっくりしようね、皆」

「…」
「キュー」
「……」

「よしよし」





「それでは誰かそちらから一人を決めて下さい。居場所はなるべく口外したくないので…」

「分かってます。では……おい、セキ」

「はい?」

「お前が彼女の話し相手になれ」

「………はいいいいい!?」










俺の叫びが響いた





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