リーグ協会シンオウ支部にある資料室

その中に、彼等はいた








「―――……未だ犯人の手掛かりが見つからない、となりますと…これは厄介な事になっていきますね」






資料棚の騒然たる姿にシンオウリーグ副幹部長のジンは、苦々しく呟く








「…この場所だけ忽然と消えるのはおかしな話だ。此所は他にも重要な資料が並んであるというものを、他には手を付かずとなれば……目的は、彼女か」

「…………」

「此所に盲目の聖蝶姫の個人情報が置かれていて、それが盗まれている。…狙いは彼女に間違いはないでしょう」






眉間に皺を寄せ、堅い表情を浮かばせながら声を落としたのは幹部長のコウダイ

沈黙を守り腕を組んで壁に背を預けているのはゴウキ







「いつ、誰が、どうやって資料を盗み出せたのか…防犯システムを駆使しても見つからない、防犯カメラを使っても映らないとなれば…相手は相当なやり手。盗まれたのはかなり前になるかもしれません」






そう言うのはシンオウリーグ情報管理課の部長、シュン

シュンは主に情報の伝達や管理、又は監視など様々な情報を駆使する課に所属して、本部から来る情報や支部からの連絡なども任されているリーグ協会の窓でもある。勿論、シュンは此所の資料室の管理者でもある為、窃盗事件が発生した今、こうしてこの場に立ちあっている





「しかしどうやって盗み出せたのか…資料棚の硝子窓の鍵を無理矢理開けた訳じゃない。ポケモンを使ってしまえばそれは無意味なんですが…」

「ポケモンでやってしまえば証拠湮滅も出来ましょう。…やられましたね」






閲覧場所は二ヵ所に区切られている

一ヵ所は仕事の関係で一般的に使われている場所だ。これらはリーグ関係者なら誰でも閲覧する事が出来る。種類は様々あり、今まで数々使ってきた資料又はトレーナーの情報など、使われてきた内容様々に重要資料と言ってもいい資料が陳列している

もう一つは本部の者、又は幹部レベル以上の者でしか閲覧する事が出来ない場所がある。資料を拝見したい場合、リーグ協会幹部に申請しないと手に取る事も出来ない。つまりこの資料棚には世間に知られる事のないリーグの裏事情が隠されている。本来なら棚に硝子窓があり、厳重に鍵も閉められている。一般閲覧場所も個人情報含まれる場所には鍵が掛けられているも、そう簡単には開けられない仕組みなはず

シュンの言う通り、ポケモンを使われてしまったら鍵の意味も無い。ほの暗い電球の下、重い空気が立ち込めた












「……外部の者、もしくは内部の者の犯行とみて考えた方がいい、と俺は思うが」

「!ゴウキ…」

「っ私達を…疑うんですか!?」

「……外部の者なら他の支部の人間か本部の人間、それか本当に余所者。内部となれば必然的に此所にいる三人に疑がいの目が向けられる。それを分かってこの資料の管理を任されたのなら、それ相応の覚悟は必要になっていくはずだ」







あちらもそう考えている、とゴウキは言う。あちらとは、つまりこの事件を担当する警察の者達なのだろう。けれどこの事件は秘密裏に行われていて人数は少ない。規制もある為、この場に警察の姿は無い

本来ならば此所には居る筈がない人間でもあるゴウキが居るのは、四天王としてではなく、警察の代表として。ゴウキはあくまで中立な立場としてこの場にいた


ぐうの字も出ないと押し黙るシュンに、コウダイは静かに口を開いた









「……確かにゴウキの言う通りだ。犯人は誰であろうと事件が発生してしまった以上、責任は私にある」

「幹部長…」

「重要資料を盗まれたとなれば…ゴウキの言う通り、それ相応の覚悟が必要となっていく。近い内に私の首が跳ぶのだろう」

「っそんな!」

「処罰は受けるつもりだ。ケジメとしてな。…シロナ達が慌てて本部に連絡したのを阻止したとしても、きっと気付いているのだろう。私が処分されるのは時間の問題だ」








本部の人間が誰かは分からない

それは本部が支部の働きをしっかり定める為に、敢えて本部出身だと明かさないからだ。規定を守れば後は自由にしてもいい、と言われるだけあって監視の目は厳しい。密かに潜り込み、支部の動きを報告しているらしいが、未だにその者が誰であるかは分からない

ざっくり纏めて簡単に言えば監視員、悪く言えばスパイだろうか。何故、本部がその様な形を取っているかは謎に包まれている。信用していないのか、信用しているからこそ敢えてする事なのか…

そもそも、自分達に非が無いと分かっていれば堂々としていれば良いだけの話だ。だが今回はそうはいかない。盗まれた資料が資料だ―――隠してしまったら、それこそ責任が重くなっていく








「……仮にその様な話になってしまったのなら、私も一緒に責任を取ります」

「なあに、君はまだまだ此所に居ればいい。私は此所に長く務めた。本来ならもう退職してもおかしくない年齢だ。…それまで私は最後まで責務を果たそう」

「…………」

「……一つ、聞いても良いか?」

「何だね?」

「……何故、盲目の聖蝶姫の一連の資料をこの棚に置いていたのかを、知りたい」

「…何故?」

「盲目の聖蝶姫はポケモンマスターとはいえ、俺達と同じトレーナーだ。普通、そういった資料は一般閲覧場所に保管しておくものだと聞いているが…アイツのだけ此所にあったのかが不思議に思ったんだが…―――」

「「………」」

「……どうやら何か理由があるらしいな」

「………?」







押し黙った二人を見て、ゴウキの眉間に皺が寄る

対するシュンは二人と打って変わって逆にゴウキと同様疑問符を浮かばせている。それもその筈、何故ならシンは盲目の聖蝶姫が行方不明になって世間から忘れ去られた後に就任した身だ。当時なんて盲目の聖蝶姫を知らなければ、あまり資料棚に手を付けていなかったのもあった。それが当たり前だと認識し、あくまで自分は管理する身だからと、真相を追及する所か疑問までも浮上させなかった




また沈黙が広がった。ジンは小さく息を吐いた事で沈黙は解かれる事になる









「…君は、その事も聞くのか…」

「事件になってしまった以上、隠し事は無用だ」

「……全く、君は警察の仕事に関与していると本当に容赦が無いな…」








そう、ゴウキの言う通り

何故、盲目の聖蝶姫の一連の資料が此所に並んでいるのか



この資料棚は様々に分類されているが、主に置かれているのはシンオウ類の者ばかり。個人情報など、それら殆どはシンオウに住むトレーナーのもので、多くがリーグに挑戦する際に登録された情報だと言っても良い。他の情報の殆どは本部が管理している

盲目の聖蝶姫の発祥の土地はシンオウで間違ない。登録も此所だ。けれどホウエンチャンピオンになった。チャンピオンになってから増えた資料は普通ホウエンの方にも保管されていくはず、なのに



それに加え、何故こんな場所に全ての資料を保管してあったのか。目敏く、上司でも言いたい事を言えるゴウキならではの言葉にジンは参ったとばかりに頭を振った







「……ジン、私は席を外す。シュン、お前もだ」

「え!?わ、私もですか!?」

「そうだ、お前もだ。今日も明日も私の首が跳ぶまで頑張ってもらわないといかんからな。こき使わせてもらう」

「えぇえええぇええ!!??そりゃ無いですよ幹部長ぉおおおッッ!!!!」







まるで空気を察しての行動。コウダイはシュンの首根っこを掴み、ズルズルと引き摺りながら資料室から出て行った。真相を知りたいシュンにとっては傍迷惑この上ないが相手は上司。情けない声を上げながら部屋を出て行ったのだった

やれやれ、幹部長には手を焼かせてしまいましたね、とジンは苦笑を零しながら消え去った入口を見つめた。これは他言無用な話なのでシュンには退場してもらいました、とジンはゴウキに視線を向けた






「…君に嘘を吐いても無意味な事は知っています。あまりこの事には触れたくなかったんですが、ね」

「…………………」

「話は聞いてます。今の彼女…聖燐の舞姫のミリさんと君は知り合いだそうですね。知り合いだからこそ、あまり言いたくないのですが……君だけには言っておこう。理由は二つあります」

「その一つは?」

「個人情報保護の為」

「何故、」

「彼女は確かに我々と同じトレーナー。本来なら一般閲覧場所に保管されるべきでしょう。ですが彼女は違う。彼女はポケモンマスターです。ポケモンマスターとなれば情報はより厳密になっていきます。特に彼女は最年少で注目があった。…そう、注目が」

「……………」

「……彼女を喉から手が出る程欲しがる低俗な輩などそれはそれはもう……後を絶ちませんでした。民間に知られていないだけでね。彼女自身もそうですし、手持ちポケモンなんてマニアやコレクターの恰好の的。彼女すらも奴等にしてみれば大切な人形の一つなんでしょうね。………私が言いたい事、お分かりですね?」

「…有名だから故の、現実か」

「えぇ。皆が皆、彼女を慕っている訳ではありません。慕い、尊敬する者もいれば嫉妬と憎悪に燃える者に…卑下た思考を持つ者など、様々に」









そして、とジンは言葉を切った











「そして彼女はそれらの思考を持つ者に―――襲われたのです」

「――――ッッ!!!???」












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