また歩き出して、約30分 もう疲れました、という本音はともかくとして 私の考えは当たっていた 「こ、これは…!」 私は驚いた 目の前に見えるのは、一面に広がる湖 透き通る水が、キラキラと光を浴びて輝いていた そう、これはまさに 「聖地の湖―――」 その壮大で美しい光景に見惚れながら呟く 名前の由来は無い。ただ単に私がつけた名前で主な通称名は無い 聖地を訪れたのはこれで何度目になるのだろう。聖地は色々な形として存在していたが、湖として存在していたのはこれが初めてだ。どれもこれも神聖さは強かったけど、この場所も引けを取らないくらいに澄み渡っていた 「此処は…昔の【私】の、故郷だったのかな…」 この聖地は【異界の万人】が何かのキッカケか、あるいは自分の意思で造ったモノ。他にはその【異界の万人】の故郷を示している事が多い。勿論、私の知る限り聖地の出来る理由は後者の方だ きっと昔の【私】は、私と同じで色んな世界を渡っていたのかな。聖地は自分の住む世界を、故郷を示す大切な場所。自分のひとときの為に、故郷であり、馴染みのあるこの世界の何処かに聖地という空間を造って、ひっそりと暮らしていたのかもしれない 「……ん…?」 聖地の湖を見渡していたら、ある事に気付く 湖の周り、東西南北に小さな祠が建っていた。小さいといっても、距離が遠いからそう見えるだけあって、きっと立派な祠に違いない。湖の中心にも紅い祠が建ってあった。東西南北に建つ祠より格段に大きく、そして立派なものだった 特に中心に聳え建つ祠からは、とてつもない力と清らかさがこっちまでよく感じ取れた 「あそこから…」 目を拵えて目の前をよく見てみると、あの祠に向かう橋があった。橋といっても物凄く曖昧で、錯覚を覚えそうなくらい朧気なモノだった どうやらこの橋は私という【異界の万人】が足を踏み入れたらちゃんと橋になる仕組みになっていたのか―――足を一歩踏み出したら、曖昧だった橋が立派な、紅い橋になっていたのだから そしてまた私が歩を進めようと足を踏み出した途端、 中央の祠からいきなり大きな光が輝き出した 「ッ―――!」 私はあまりの眩しさに目を閉じた 光は数秒程度強い光と共に輝いていたが、徐々に光が消えていく 光が完全に消えた事を確信すると、私は吸い込まれる様にあの紅い祠に向かって歩き出した 「―――――着いた…」 まぁ、分かっていたよ。意外に距離があったって 中央の紅い祠に着くのもちょっと時間が掛かってしまったよ 「…?……あ、これって…」 祠の祭壇に祭られていた、二つの存在 それは光輝くネックレスに、美しく煌めく綺麗な指輪 「わーお。指輪の方はプラチナじゃない?」 実際に手にしてないから本物かどうかは分からないけど、でも私の見立ては間違いないはず 伊達に宝石会社の副社長で日夜宝石を触っていない。これでも本物と偽者の区別は出来るってもんよ。ふふん← 対するネックレスの方は――― 「…へー、これ…まさかのパパラチャじゃん」 キラリと輝く、ピンク色に近いオレンジの光 パパラチャというのはパパラチャ・サファイアと言う名称で、ルビーとサファイアと同じ宝石の仲間だ 専門的な話になるけど元はコランダム、という種の宝石から出来ていて、コランダムはダイヤモンドの次に硬いと言われている。そのコランダムが真っ赤だったらルビー、後の色の全てがサファイアと区別される。この二つでどっちが稀少価値が高いかと言われたら、勿論ルビーの方だ ただし、ここでパパラチャ・サファイアが入ると違ってくる。パパラチャの場合、パパラチャの色自体はピンク色に近いオレンジ色をしているけど、このパパラチャというものこそルビーと違って中々見つからない貴重なモノで、市場では中々お目にかかれない。 故にルビー、サファイア、パパラチャの三つの内どちらが高値で貴重かと言われたら、断然パパラチャといってもいい 綺麗な色だ。本当に 美しい宝石だよ、パパラチャ・サファイア しかもこのパパラチャ、かなり大きい。こんなに大きくも純度が高いモノは、初めてだ。こんなモノが、なんでこんなところに置き去りになっているのか……… 盗まれたら大変じゃないか← → |