時刻は午後の四時を回った


此処はスズラン大会開催予定地とされている、リーグ協会から少し離れた島






「―――では近い内、そちらに顔を出そう。彼女にそう伝えといてくれ」

「彼女に記憶が無いのは残念でならないけど、生きてくれていただけでも十分。会えるのを楽しみにしている、とも伝えといて下さい」

「はい。確かに伝えておきます」

「あの子もきっと楽しみに待っています」

「そうであって欲しいものだ。―――では、私達はこれで失礼する」

「また明日の定例朝会で」

「はい、お疲れ様でした。―――幹部長、副幹部長」







リーグ協会で一旦仕事を一通りこなし、午後からリーグ大会開催地でゴヨウ達と一緒に建設の過程を確認していくなど、リーグ役員総出で仕事に乗り出していた私達


今、私達と会話をしていたのがシンオウ支部の幹部長のコウダイさんと副幹部長のジンさん。厳格で渋めが入った雰囲気が少しゴウキに似ているのがコウダイさんで、対して物腰が優しくて言葉も丁寧なのがジンさんだ

私がチャンピオンになって一番お世話になっている人でもある。あまり公の立場には出てこない人達だけど、こういった仕事関係では一番頼り甲斐のある人達だ。前までは本当に厳しくて大っ嫌いな人達だったけど(昔の自分って本当若かったわ)、それは私が此処でやっていける為を思ってくれての行いで、今じゃこうして立派にチャンピオンをしていられている。お陰様で色々と融通を利かせてくれるから嬉しいわ←

きっとこのままリーグに戻ったら帰宅して、コウダイ幹部長はお孫さんの相手でもするんでしょう。ジンさんはそのままに副職の喫茶店へ行って一服。簡単に想像が出来る。私は二人の背中を見送りながらそう思った









「―――…嬉しそうでしたね、あのお二方」

「えぇ。顔を出さなくてもあの人達もあの子達を心配していたし、責任を感じていたからね。…これでやっと、安心出来たんでしょうね」







盲目の聖蝶姫が行方不明になった原因は未だ謎に包まれたまま

人は自分にもし失態が生じた場合、自己嫌悪に陥る。勿論私もミリが行方不明になって、あの子をホウエンに勧めさせなければ、約束を無理強いさせなければと後悔した。それはあの二人も同じだった

ミリ自身が進んでチャンピオンになったとはいえ、元々そうさせたのは幹部長達本人。冷戦を繰り広げていた当時の北南のリーグ支部、架け橋になってくれたミリを使わない手はない。使えるものは使う、それが世間の暗黙の掟。使うだけ使い、行方不明になって、ミリの存在を忘れてしまった―――あの子の存在を思い出してから、ずっと後悔し続けていたのでしょう


でも今はあの子がいる


再会したらあの二人の事だからきっとミリに謝罪をするんだろう。でも記憶を無くしているミリに謝罪してもしょうがない。けど記憶があったミリに謝罪しても、あの子の事だから二人を許してあげるんでしょうね


あの子は優しい子だから












「ミリさんに伝えといて下さい。お弁当、とても美味しく頂きましたと」

「伝えておくわ。今日のお弁当も美味しかったわ〜。明日も作ってくれないかしら?」

「私もまたミリさんの手料理を食べてみたいものです」







今日の出勤前にミリから預かった愛情が篭った(←)お手製重箱弁当

アレはもう、凄かったわ

同じ女として自信を無くしちゃいそうなくらい出来栄えが凄くてとっても美味しくてもう本当にびっくりよ!…絶対ミリったら良いお嫁さんになれるわ…!

…この際私のお嫁さんになってくれないかしら←






「さて、シロナさん。私も近々、そちらに伺わせて頂きます。仕事の合間を縫って、ジムリーダーの皆さんと一緒に」

「大歓迎よ!きっとミリも喜ぶわ!………でもレンガルスには気をつけなさいよ。ゴウキにもね」

「あぁ…話は聞いていますよ。まさか彼とミリさんが…。………ですがよろしいのですか?記憶がないミリさんにとって一番会いたいのは彼なのでは?」

「そうね。本当だったらその方がいいに決まっているわ。………でも、頭では分かっているけど手放したくないのよ。…頭では分かっているけど、ね」

「……………」






記憶を無くしてしまったミリは、以前のミリと全然変わっていない、私の知っているミリそのもの。ただ変わっているとすれば、盲目じゃなくて、盲目じゃない故の、活発で元気なところ

嬉しかったわ。あの子が生きてくれた事もそうだけど、盲目だった眼が、今は光を見てくれている。光ある眼が、私達を映してくれている。見えているからこそ、あの子は元気になってくれた。これが、本当の、本来在るべきミリの本当の姿






…でも、元が変わっていないからこそ、私は恐い

ミリは自分の手の届かない場所に行って、また行方不明なんかになっちゃう様な、そんな恐怖がグルグルと私の中を駆け回ってしまうのよ












「事情はもうミリに話してあるわ。ミリも快く了承してくれた。あの子には申し訳ないけど、これも全てあの子の為よ」








皆がそれぞれ仕事の準備の最中に追われている時、私は言ってやったわ。「暫くレンガルスには会わないでほしい」って、私の本音そのままに

最初はびっくりして私を見たわ。でも、ミリは「分かりました」と言ってくれた。「私も昨日の事があったから、気持ち的にまだ会いたくないのが本音です」と、あの子もあの子で本音を教えてくれた





……昨日ミリがレンガルス達に言った言葉には、本当にびっくりしたわ。あんなミリは、初めて見た

彼等が、レンガルスがした事はいくらミリの為を想っても、現実ミリを傷つけた事には変わりはない。皮肉な事に、そのお蔭で真相に近付けれた。…きっとまたこの件でミリが悲しむのは、確実



だから私は、ミリを悲しませない為にも―――












「…さて、と。私も早く仕事を終わらせて早くミリの元へ帰らないとね!ミリが私の帰りを待っているわ!今日の晩御飯はなんでしょうね〜うふふ!」

「今日はちゃんと仕事を終わらせて下さいよ、シロナさん。昨日みたいに無理矢理押しつけて帰らないで下さい。昨日は大変だったんですからね」

「分かっているわよ〜」











ミリを悲しませない為にも

私は彼等を阻む壁となってみせる






(それぞれの、気持ち)



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