オーバがゴウキとご対面をしている同時刻


こちらもまた、似たような状況に陥っていた







「すまない。俺のデンリュウとクロバットが迷惑をかけた。…お前達、人の弁当食べるな彼が迷惑しているだろ。気持ちは分かるが早くそこから退け」

「リュー!」
「バット!」

「…全く、お前達にはいつもてこずってしょうがない。仕方ない、ヤドキング」

「ヤドー」

「!?リュー!?リューリュー!」
「クーロバァッットォォォッ!」




ズルズルズルズルズルズル…




「すまなかったな、ゲン。あの二匹が迷惑をかけた」

「…その事なら全然構わないが…」

「前、座ってもいいか?」

「あ、あぁ。どうぞ」






カンナギ博物館の休憩所に、私達はいた



今日は健やかな朝と美味しいご飯をもらって、しかもミリからのお手製弁当(重箱)を受け取って高揚とした気持ちで職場に着いたのが数時間前

私の仕事は主に館内警備を任されている。他には調査の護衛だったり様々だ。こうてつじま怪電波事件以来、実力を買われて調査を手伝い、有り難い事にそのまま此処で雇ってくれた。シロナの祖母カラシナ博士には感謝の言葉も出てこない。今日も館内の警備を滞りなく行い、待ちに待ったお昼休みとなった


ロッカーに置いておいたお手製の重箱を抱えて休憩所に行き、まだ誰もいない長机に腰を落ち着かせ、早速重箱の蓋をパカリと開いた瞬間だった。私が入って来たドアから何かが飛び出してきた


二匹のポケモンが、クロバットと此処では珍しいデンリュウが我先と―――私の重箱に一直線にやってきた。いきなり過ぎて流石に私も対処に遅れてしまった。そのまま二匹は私の弁当を食べ始めたじゃないか。しかも美味しそうに。私の弁当が、いやそもそもこのポケモンは一体誰のポケモンなんだと目の前の二匹に声を掛けようとした。その時、また別の来訪客が現われた



それが、ナズナさんだった






「………にしてもまさかナズナさんが来るとは思わなかった。今日はどんな予定で?」

「資料提供の為にな。カラシナ博士に用で来たんだが、どうやら不在だったらしい。また別の日にでも出直そうと思う」

「なら私がナズナさんが来た事を伝えておこう。資料も私が渡しておこうかい?」

「いや、資料は手渡しで渡したい。俺が来た事をカラシナ博士に伝えといてくれ」

「あぁ、任せてくれ」






ナズナさん。本名はサラツキ・ナズナ

またの名をサラツキ博士


彼は最短で考古学者になった異例のトレーナーでもあり、同時に"博士"の称号を我が物にしたまさに天才と謳ってもいい人物でもある

今は亡き父であり、かの有名な考古学者だったサラツキ博士(本名サラツキ・ツバキ)の息子。あの博士に息子がいた事は知っていたが、あのゴウキと異母兄弟だった事には驚かされた。厳格なゴウキに物静かなナズナさん。体格髪色は違えど二人の瞳を見れば兄弟だと一目瞭然

彼はサラツキ博士の血を濃く受け継いでいた。あまりこの件に関しては詳しくないが、どうやらナズナさんはどの専門分野でも対応出来る稀少な逸材らしい。科学だったり医学だったり分野様々で、彼こそ本当の天才だと此処で働いていてよく耳にしていた。私は学者でもないし博士でもないしそういう道にいるわけでもないから事の重大さはよく分からない。けれど眼前の彼はそれだけ秀才なんだと雰囲気や波動でも見て取れる






「えらい立派な重箱だな」

「え?あぁ…作って貰ったんだ。ナズナさん、貴方もいるかい?他の人と食べて貰える様にわざわざ余分に作ってくれたらしいけど、生憎人がいないし食べ切れないからさ」

「そうか、なら頂こう。ミリさんが作る料理はどれも絶品だからな、今回もさぞ美味そうだ。…少々食べられかけているが」

「ははは…(作った人が誰なのかもうバレている…)」






三段重ねの重箱を下ろして机に並べれば、色とりどりの豪華な食べ物がキラキラと輝いていた。見栄えもいいし、量も量だからせっせと作ってくれたミリには本当に感謝をしたい。家に帰ったらお礼を言わないと。あぁ、今彼女は何をしているんだろう。きっとダイゴの石トークに耐えているに違いない←





私は紙の取り皿と割り箸をナズナさんに渡してから、改めてナズナさんを盗み見た

彼は何故この場所に来たのだろう。こんな、従業員の休憩所へ、わざわざ。………昨日の件について来た、にしては全然それを口に出してこない。ゴウキもそうだけど、二人は自分から言い出す事をしない。ゴウキの場合、"気"で相手を見抜いているから説明は不必要なのだけど(波動と気で話が合う)、ナズナさんの場合はよく分からない。そもそもナズナさんは私が此処で働いてない限り出会う事はなかった雲の存在だ。その人が何故此処で一緒に弁当食べているのかとか色々疑問が浮かぶところ

彼も鋭い人間だ。きっと何か手掛かりを見つけたのだろうか。…まさか、昨日の電話で逆探知してミリの居場所が分かってしまったのか?






「安心しろ。逆探知出来たとしても、そうすぐにそちらに行く事はしない」






隻眼の鋭い眼を不敵に細めながらナズナさんは言う

どうやら顔に出てしまっていたらしい。しかも予想通り彼は逆探知を成功していた。ミリの個人情報を見つけ出せたくらいだ、きっと逆探知なんて動作もないんだろう







「が、それは俺とゴウキがそうするつもりでいるだけであって、麗皇はどうかは知らないがな」

「……レン、か」

「俺とゴウキはあくまでミリさんの意思を尊重するつもりでいる。危害を加えるわけでもないのだろ?それにスズラン大会が終わるまでの期間だ、そう躍起になる必要はない。…ま、ミリさんがこちらに来てくれたら話は違うが」

「……………」

「全ての全貌が明かされた時、ミリさんの身元をどうするかを決めればいい。その日が来るまで俺は何も干渉はしない」






俺は麗皇の暴走をなんとかしておこう、とナズナさんは取り皿におにぎりや鶏肉を乗せながらやれやれとした表情で言った。どうやらあちらはあちらで苦労しているらしい

レン、彼の名を聞けば昨日の発言が頭を響かせる。レンとミリが、恋人同士。一匹狼で女の介入も許さなかったあのレンが、人を、男も女も全て信じられなかったあのミリが。あの二人が。一体どういう経緯で出会って、結ばれたかなんて想像出来ないし想像したくない。相思相愛、テレビ電話で中継された互いの顔を見て緩めた表情とミリの波動で一番によく分かっていた






「……レンは、どんな様子だった?」

「…あれだけの事を堂々宣言しておいて今更それを聞くのか?」

「ははは、ごもっとも」

「…キレていたな。静かに怒りを燃やしていた。一言一言に黒い何かを含ませて」

「(…簡単に想像できる)」

「全員にキレていたが、特に怒りの矛先を向けていたのがナギサジムリーダーだ。同年代、それから…勘の鋭い麗皇の事だ、ナギサジムリーダーのミリさんに対する気持ちに気付いてしまったんだろう」

「……………」

「ゲン、お前はどうなんだ?」

「……私はそういった感情でミリを見てはいないよ。今のミリを見れば、尚更」






私はミリの事は好きだけど、それは恋愛対象ではない。言うなれば妹に向ける様な兄弟愛に近い

彼女は魅力的な子だ。けど私には到底手の届かない存在で、彼女と結ばれたとしても逆に恐れ多くて恐縮してしまうくらいだ。彼女の旅仲間で親友のポジションが、私には性に合っている。そうであって欲しいと願っている






「ナズナさんはどうなんだい?ナズナさんも、ミリの事を……」

「………彼女は素敵な人だ。彼女ほど良い人を俺は知らない」

「…………」

「だが俺が彼女に向ける気持ちにその様なものは含まれていない。第一俺がミリさんと出会った時は既に二人は結ばれていた。入る隙間など無ければ入ろうとするつもりもない。…俺は二人の幸せを切に願っている」

「…………なら何故ナズナさんはミリの為、いや…聖燐の舞姫の為に動く?」

「彼女には多大な恩がある。それに何かの為じゃない、これは俺自身で俺の意思で動いている。…なら逆に問おう。お前は何故盲目の聖蝶姫の為に動いている?」

「……気持ちは同じか」

「そういう事だ」






まるで目の前にゴウキがいる様な錯覚を覚えて、私は小さく笑う。言いたい事をズバッと言う辺り本当に兄弟そのものだ。どちらかといえばナズナさんの方が多く流暢に話すけど、やはり似ているものは似ている

ミリは凄い。ミリは気付いていないかもしれないけど、ミリの為を思ってこうして動いてくれる人がいてくれている。普通なら有り得ない話だ。それだけ彼女は人を寄せ付ける天性の何かがあるんだと思えてならない





とにかく今はミリの作ってもらった弁当を食べよう。私は箸を使って目の前にある美味しそうな卵焼きを掴んで口の中に入れた















「…………そもそも仮に俺とミリさんにそういう話が浮上したとしても…犯罪だろ、色んな意味で」

「Σうぐっ…」







喉に詰まらせた





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