時刻は正午に回り、お昼の時間になった


此所はリーグ協会シンオウ支部



―――俺は今、硬直中







「…………」

「…………」

「………よ、ようゴウキさん」

「あぁ」

「………………」

「………………」

「……き、今日は盗難事件の調査はないのか?」

「午前に顔を出し、後は部下や仲間に託してきた。今やるべき事は四天王の仕事だ」

「そ、そうか」

「あぁ」

「………………」

「………………」






誰 か 助 け て く れ







今日のノルマの半分を一通り終わらせ、待ちに待ったお昼の時間だぜよっしゃあ!とルンルンとステップを踏みながら、ミリから渡された弁当(の重箱)を片手に休憩室にやってきた俺。通り過ぎる従業員に変な目で見られたがそんなの関係ないぜ!←

休憩室には誰もいなかった。自動販売機で飲み物を買って俺は早速重箱を机に置いて、ワクワクと心を踊らせながらパカッと蓋を開けた、ら


カツン、と誰かがこちらにやって来る足音が耳を過ぎった。しかも気配はこの休憩室に入って来た。俺は何気なく、蓋を開けた体制そのままに振り返ってみたら―――




…一番会いたくなかった張本人が、そこにいたのだから











軽く空気が固まったな(遠い目







「ゴ、ゴウキさんは今から飯か?」

「いや。飯なら此処に来る前に食べてきた」

「へ、へぇー…」

「お前は今から飯か」

「お、おうよ」

「重箱とはお前にしては珍しいな」

「ま、まぁな!たまにはこういうのもいいよな!」

「さぞ、その重箱の中身は美味いんだろうな?」

「はは、ハハハ!」







意味深な問い掛けをしてくるゴウキさんに俺は笑いながら、だけど心中汗だらっだら

ゴウキさんは気付いてやがる

この弁当を、誰が作ったかを

しかもタチが悪いのが敢えて追及してこない所だ。昨日の事もあるから尚恐ろしい事この上ない







「少々気に食わないが、わざわざ作ってもらったのなら残すような真似はしない事だ。作ってもらっただけでも光栄だと思った方がいい」






今、ゴウキさんは自動販売機で飲み物を選別している最中だから視線はこっちに向いてないけど、何故かあの灰色の鋭い瞳がこちらを突き刺している気がした(今気に食わないって言った?


…正直な話、俺はこの人を尊敬していると同時に恐ろしいと思っている


【鉄壁の剛腕】、まさに名を表わす如くゴウキさんはそんな人間だ。真面目で堅実で、自分に厳しく他人にも厳しい厳格な人。同じ世代の人間なのに風格あって、威厳があって、俺達にとって少し絡みズラい相手でもある。ポケモンさえ絡んでなかったら俺はきっとゴウキさんとこうして会話なんてしていなかったに違いない。絡んだとしても、たとえ仕事が一緒でも、つるむ事はなかったはず

俺が最も苦手意識を感じているのはゴウキさんの眼だ。鋭い眼、まるでその眼は俺達の全てを見透かしている様な気でならない。噂でゴウキさんは相手の"気"を読めるとか聞くが、武道の道にはいない俺にとってさっぱり理解不能だ。だけど、唯一分かるのはその気で相手の感情を読み取れる事だ。…つまり筒抜けなのだ。俺が今どんな気持ちでいるのかも、皆がどんな気持ちでいるのかも、全部


俺は蓋を閉じてゴウキさんを見上げた







「………なぁ、ゴウキさん」

「何だ」

「アンタは何も言わないんだな」






ガチャン、自動販売機の中で無機質な音が響き渡る

次にカタンと音がしたのは中でペットボトルが落ちた音だ。俺の質問にゴウキさんは視線を向ける事はせず、黙って自動販売機からペットボトルを取り出した

ちなみに爽〇美茶だった←






「言って何になる。…たとえ俺がお前に舞姫の居場所を吐かせようとしても、お前は絶対に吐かないだろう?」

「(…吐かせる気だったのか…!?)」

「そもそもあの日舞姫が自分の意思で決めた事だ。白皇はともかく、俺は舞姫の意思を尊重する。居場所は自分達で見つけ出せばいいだけの話だ」

「…………」

「それに元々舞姫がこの地に訪れた第一の理由は白皇捜しだ。あちらがこちらに来てくれるのを待つしかない」

「…………!!??」






そういえばまだミリがどうしてシンオウにやって来てくれた理由を聞いていない

スズラン大会出場かと聞いたら頭を振ったから、リーグ大会は違うのは分かっている。観光、リーグ大会の観戦だろうと思っていたが、そうか、そういう理由だったのか。だからあまり口に出さなかったんだな







「…レンは、本当にミリと恋人同士なのか?」

「嘘を言う必要がないな」

「…………」

「お前達の気持ちは分からなくもないが…お前の場合、舞姫に対する気持ちはマツバとミナキと同じモノだろうな。ショックは大きくとも奴等程傷付いてはいないと見た」







そうだ、ゴウキさんの言う通りだ

俺は確かにミリが好きで、昨日のレンが言った重大問題発言に少なからずショックを受けた。だけど俺はミリが好きでもそういった恋愛対象とまでは見ていない。特に今の、記憶を無くしたミリを見れば、尚更

ショックを受けても、デンジみたいにかなりショックを受けたわけでもない。六年の歳月があれば何かあってもおかしくない。それにミリの相手がレンで良かったと、あの時何故かそう思ってしまっていた

でも、手放したくない気持ちは変わらない。そんな矛盾が、今の俺の中にある。矛盾でいるからこそ、何処か冷静に見る事が出来ている………気がする←






「………ゴウキさん、アンタはどうなんだよ」

「どう、とは何だ」

「いや、質問を変える。…アンタはミリを、どう思っている?」

「…答える必要はない」

「俺はアンタの本当の気持ちが知りたい。ゴウキさん、遠慮しているならお門違いだ。レンに遠慮しているなら尚更な」






そう、遠慮しているならお門違い

ゴウキさんの本心は、一体どう思っている?






「………遠慮しているもなにも、俺は舞姫をどうとは思っていない」

「…………」

「敢えて言うならオーバ、お前が舞姫に対する気持ちと同じだ。…紙一重、だがな」

「………!!!!!!」

「話は済んだ。俺は自室に戻らせてもらう」

「ゴウキさん!」





休憩室から出て行こうとするゴウキさんに慌てて俺は席を立ってゴウキさんを引き止めた





「紙一重って、アンタそれ…!」

「……蝶は人の心を奪い、魅了していき、奪うだけ奪って手が届かない所まで去っていく」

「!!」

「蝶に魅了された者の末路は今の奴等だ。蝶を手放したくないが故に、自分が籠になって押し止どめる。それが歪んだ感情だと気付かないまま、な」

「…俺やデンジの事を言ってんのか…?」

「それは自分で考えろ」

「…………レンは、どうなんだよ」

「先程の言葉通りでいけば白皇も既に蝶に堕ちている」

「……」

「だが、奴は止まり木だ。蝶が最も安心出来る居場所でもあり、蝶の帰る場所。…白皇自身、そう思っているしそうであろうと必死だ」

「なら、ゴウキさんは…」

「……堕ちていない、と言えば嘘になる。だが俺は今の関係で十分満足している。この気持ちに嘘はない」

「……………」

「あー!二人とも発見!」






ひょっこり、とドアから顔を出して来たリョウに俺はびっくりしてリョウを見た

まさか今の会話を聞かれたのか?と思うも違った。コンビニで買っただろう袋を下げていた。タイミングがいいんだかなんだか。ゴウキさんはこれみよがしにスルリと俺の横を通って行った






「オーバさんとゴウキさん!捜しましたよ部屋に行っても誰もいないんだから!これから昼ご飯ですか?僕もご一緒させて下さい!」

「俺は既に昼を澄ませてある。オーバと一緒に食べるがいい。今日奴は珍しく重箱の弁当を持って来ている。足りなかったら分けてもらえ」

「え、重箱!?オーバさん重箱持って来てるんですか!?やったねオーバさん分けてくださーい!(パカッ)うっわ凄い豪勢なおかずばかり!(ヒョイッ)(パクッ)…!?これすっごく美味しいじゃないですか!この玉子焼きが分厚くて絶妙な甘さを出してトロッとしていて…!何個でもイケますねこれ!」

「Σは!?ば、お前勝手に蓋開けんな!あああああ俺の愛妻弁当ぉおおお!」

「…………」













クソッ。今度は一人で食ってやる





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