一方その頃、 先に部屋に戻ったミリはというと 「ふぉぉぉ………やっちまったぁぁぁぁ……!」 ヤバいよやっちまったようわぁあああいやぁああああ!!と高級感溢れるベッドの上でゴロゴロと転がっては先程の失態というか失礼極まりない自分の言動を悔やみまくっていた 「やっばいよあの空気流石にヤバいよねぇやっちまった感がありありっていうかうわぁあああやっちまったよぉぉぉ…!」 「「ブー…Zzzz」」 「別にあそこまで言うつもりなかったんだよそうだよ私あそこまで言うつもりなんてさらっさらなかったのにぃいいいうわぁあああやっちまったよぉぉぉごめんなさいぃぃぃぃそんなつもりじゃなかったのよぉぉぉぉ」 「「Zzzzz………」」 「………………………………………とりあえず落ち着こう私」 自分と一緒の広いベッドで何も知らない気持ちの良い寝息を立てて眠っている白亜と黒恋を見て脱帽だか何か拍子抜けしてしまったミリ 苦笑を漏らし、その綺麗でふんわりとした身体を撫でであげ、ふぅ、と自分の心を落ち着かせる意味も込めて小さく息を吐いた 「………そんなつもりじゃ…なかったんだよね……本当に」 本当に、あんな事を言うつもりはなかった ましてや、あんな態度をとるつもりもなかった レン達に久々に対面出来て嬉しかった。あんな態度をとって、らしくもなくぼやきながらもちょっと寂しい気持ちを打ち明けて、それでも画面越しの再会に心を踊らせた事は事実。三人は相変わらずで、しかも自分が作って贈った服を着ていてくれた等々、ミリの心を踊らせたのも事実だ。本当にらしくもなく、子供の様に喜ぶ自分の顔を押し殺すばかりだった けど、問題はその後だった レンからの、衝撃的な告白 元より、ミリが記憶喪失だと知った彼等はきっと何かしでかしているのだろうという予感はあった。三人は、レンは優しいから。勘が当たるのも嫌なものだ、ちょっとした感情の起伏でマツバとミナキが何か知ってしまったと勘づいてしまうのだから。だからこそ自分はその事ついて追及せず、何も知らない事に決め込んだのだ。案の定、レン達はしでかしていた ミリにとって、一番止めてほしい事を 「両親、か…」 彼は自分の為に、自分の為を思ってやってくれたんだろう。それは簡単に想像がつく。だってレンは優しいから。千里眼を持つマツバに頼んで両親を探して貰う様に頼んだに違いない。先程そう言っていたし、言わなくてもなんとなくそうだと思えた 両親、その言葉を再度小さく呟くミリの声色は震えている。表情も歪み、先程より大きな溜め息を吐き出した 『迷惑よりも、止めて。止めてほしい。本当に本当に、私の知らない所で勝手に……私の心を抉らないで』 『私にとって!私にとって……記憶が無い事は虚無と恐怖と孤独でしかない。自分が自分じゃない不確定な中で生きる苦しみは、もう享受するしかない。……諦めているんです。失った記憶は――蘇る事は出来ない。簡単に蘇ってくれていたら最初っから苦労もしていません』 『それに過去を知る事は、もう一人の自分を受け入れる事は―――とても恐ろしい事なんです』 『……もし、この件で私が大きく絡んで、しかも記憶がそれこそ絡んでいたら、何も手出ししないで下さい。そんな優しさ、私にとって残酷な優しさでしかないんです』 残酷な優しさ――――― 「大丈夫……まだ、大丈夫…」 悟らせてはいけない 迷惑をかけてはいけない 甘えなんて以ての外。これは自分の問題だ、これ以上記憶関連になってしまえば自分を維持出来なくなってしまう それだけは、避けたい いや、避けなければならない 「………冷静になれ、無になれ、感情を露にするな、それだけの事で自分を見失うな。我が名はミリ、ミリレイア・フィール・レイチェル。…自分を殺せ」 全ての感情を蓋をする様に これ以上自分の心を見せない為に 肺の奥に残る全ての息を吐き出しながら、自分の心の壁を厚く厚く造り出して――― 「―――――……私も随分甘くなったものだな」 スッと漆黒の瞳に影がかかる 声色も何処か低く、纏った雰囲気も変わる 感情を押し殺し、心の壁を厚くし蓋を閉めた―――その顔は、 「………ブーイ?」 「……ん、起きちゃった?」 「ブイ…」 「よしよし、おやすみね」 「ブー…Zzzz」 重い瞼を開かせ、いつもの様子が違うミリを見上げた黒恋だったが、ミリが撫でてきた手でコテリとまた夢の旅へ旅立って行く 幸か不幸か、そのお陰もあり――――今浮かぶミリの表情を見ずに済めた 「…とにかく、暫く様子見だな…」 「――――……ミリ、お前が此処に居たいんだったらそうすればいい。どうせまた何か抱え込んでいるんだろ?……何度も言わせんな。お前はもう、独りじゃない。……辛くなったら、連絡してくれ。すぐにでも飛んで行ってやるよ」 「(暫くは会えない、いや…会わない様にしよう)」 会ってしまったら、最後 本当の自分に、戻ってしまいそうだから (自分を殺すのには慣れているのにね) |