「いやー、まさかあの時バンギラスが襲ってくるなんてびっくりしたなー」 「…心臓が止まるかと思いましたよ…」 「死ぬかと思った…!!」 「けど今じゃ仲良くなっちゃってんのよねー。サファイアとあのヨーギラス。流石【通じる者】ってところかしら?」 「流石野生児ギャルってところだな」 「ミリ姉ちゃん今何しとんのかな〜」 「ガルル〜」 「いや、それよりもサファイアその子から早くポケギア返してもらおうよ」 実はまだポケギアはヨ―ギラスが持っていた ―――――――――― ―――――― ――― ― 「でも私、約束した以上此処に暫く住む事にするよ」 苦笑を漏らし、暗い表情で言った言葉は 静かにレンを突き刺した 「――…理由を、聞かせてもらおうか」 沈黙が広がる中、ナズナは静かにミリに問う ミリは苦笑からふわりと笑った。一ヵ月振りに見た、ミリの微笑。今日初めて見た、ミリの微笑だ けどその微笑は―――無理して作った、微笑だった 『ダイゴさんが言った通りです。全ては騒動回避の為。その事について私は何も異論を問う事はしません』 「何故、」 『盲目の聖蝶姫、彼女は確かに私と酷似しています。こちらに来る時週刊誌に載せられていたのを拝見しました。…本当によく似ています。彼女は私なのかもしれない、そう思えてもおかしくありません』 「「「―――――…」」」 『実際にこの人達から話は伺っています。…彼女は、皆さんにとても愛されていた。聞いていて一番に思いましたよ。そんな彼女がどうして行方不明になってしまったのか、何故私に似ているのか、何故"あの子達"が盲目の聖蝶姫といるのか、など…彼女の謎はそう簡単に解き明かせるものじゃない』 「――…自分で調べる気か、舞姫」 『はい。私なりに探してみたいと思います。どうも人事じゃないし、それにこの人達も事件の真相を一番に知りたいはず』 「「…………」」 ミリは自分と聖蝶姫を別の人間と区別している あくまで聖蝶姫は別の人間 他の人間がミリを聖蝶姫だと主張しても、きっと彼女はかたくなに否定するのだろう 『それに三人の事ですから…私と彼女の関係性を突き止めているんでしょ?』 「「「……………」」」 沈黙は、肯定 言葉を返さず、黙ってしまった三人をそれこそミリは苦笑を漏らした 『…………もし、私の為に関係性を調べてくれたなら、どう謝ればいいか…わざわざ私ごときの為に手を煩わせてしまって、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです ……―――けど、私が記憶喪失だからと分かっていて調べてくれたとなら話は違います。はっきり言わせて下さい―――迷惑です』 「「「!?」」」 『き、記憶喪失…!?』 『あなた、やっぱり…!』 『どうせ知られてしまうんです。きっと他の人…レンやゴウキさんとナズナさんとカツラさんの四人以外にも知れ渡ってしまっているんでしょうね………別に知られても構いませんよ。知られてしまったとしても…もうどうにも出来ませんから』 ミリの読みは当たっていた 今となればレンとゴウキとナズナとカツラの四人以外にも、マツバとミナキ、そしてリーグ集会に集っていたカントー及びジョウトジムリーダーの全員がミリが記憶喪失だという事を、知ってしまっている 何も言い返さない三人に、勘が良いミリは理解してしまったのだろう。表情を無くした。無表情だった が、その無表情もくしゃりと顔を歪め、見られたくなかったのか顔を伏せ、唇を噛み締めた。きっと心中は様々な葛藤が動いているんだろう そしてミリはゆっくりと顔を上げ、喉の奥から絞り出す様に言葉を繋げた 『迷惑よりも、止めて。止めてほしい。本当に本当に、私の知らない所で勝手に……私の心を抉らないで』 「っ……」 『私にとって!私にとって……記憶が無い事は虚無と恐怖と孤独でしかない。自分が自分じゃない不確定な中で生きる苦しみは、もう享受するしかない。……諦めているんです。失った記憶は――蘇る事は出来ない。簡単に蘇ってくれていたら最初っから苦労もしていません』 「ミリ…」 『それに過去を知る事は、もう一人の自分を受け入れる事は―――とても恐ろしい事なんです』 「「………」」 『……もし、この件で私が大きく絡んで、しかも記憶がそれこそ絡んでいたら、何も手出ししないで下さい。そんな優しさ、私にとって残酷な優しさでしかないんです』 漆黒の瞳を青色へ 吐き捨てる様に、今にも泣き出したいと言わんばかりに、それでも感情を抑えながらミリは言った 残酷な優しさ――― レン達がやった行いは、ミリにとって一番してほしくなかった事だった 『…………ごめん。本当はこんな事…言いたくなかった。本当だったらありがとうって言わなくちゃいけないんだもんね…』 「…………やっと本音、言ってくれたな」 『…?』 「『大丈夫』、お前の口癖だな。大丈夫じゃないくせにそうやって誤魔化そうとする。…お前の悪い癖だ。そうやってお前は自分自身を誤魔化して、気付かない内に自分を追いつめていく。しかもそれが自然に見えるから尚更厄介で、危ねぇ」 『…………』 図星なんだろう。レンの言葉にミリは画面から視線を逸らした 「…確かにお前の言う通りだ。はっきり言う。お前の了承も取らずに色々と調べさせてもらった。今更謝れるモノじゃねぇのは分かっている。…けど、」 『け、ど?』 「……マツバとミナキに、お前の事を話させてもらった。昨日、カツラがカントーとジョウトのジムリーダーの奴等にお前の事を伝えたと言っていた」 『…………そう』 「…それから、二人に伝えた後…マツバの千里眼でお前の両親を見つけてもらう様に、ミナキにはお前のゴールドカードについて調べてもらう様に頼んだ。…マツバはともかく、ミナキの件で色々と分かってくれたんだがな…」 『………ッ!!!!』 「それで、………ミリ?」 『………もう、いい。聞きたくない』 「ミリ、」 『聞きたくない!!!!』 声を上げた 初めて、声を上げた 「「「……………」」」 『……だから、嫌なのに…無意味な事を』 「………ミリ?」 『……疲れた。……皆さん、すみません一足先に休ませてもらいます。部屋はどの場所を使ってもいいですか?』 『あ、あぁ…二階の部屋を使ってくれ』 『ありがとうございます』 「ミリ!」 席を立ち、そのまま振り返らず立ち去ろうとするミリに、慌てて声を上げるレン ミリの足が止まった 止まってくれたが、こちらを振り向いてくれる事はなかった。何故かその後ろ姿が小さく見えた 「――――……ミリ、お前が此処に居たいんだったらそうすればいい。どうせまた何か抱え込んでいるんだろ?……何度も言わせんな。お前はもう、独りじゃない。……辛くなったら、連絡してくれ。すぐにでも飛んで行ってやるよ」 『――――…無理に優しくしないでよ。…その優しさ、今は辛い』 「………っ」 「………」 「…ミリさん、今日はゆっくり休んでくれ。…またこちらから連絡させてもらう」 『……………それじゃ皆さん、お先に失礼します』 振り返らず、立ち去った → |