情報屋として情報を収集するに当たって、一番大切なのは人とのコミュニケーションに、人との繋がり。大幅な情報ネットワーク、そして自分と同じ職業の人間との交友に、ポケモントレーナーとして確かな実力

様々な土地を歩み、見聞きし、色んなトレーナーと交流する事で、たとえ小さな情報でも塵も積もれば山となる。些細な情報が大きな情報へと進化を遂げる。また裏側の人間との交流もしていけば、更に情報の信憑性も濃厚になっていく。彼等は表の人間より情報に強いのだから。相手の不利益にさせず深く介入さえしなければ問題ない。もし何かあったら返り討ちにしてやるだけのこと


しかし、かといって全ての情報を入手するにはまだまだ足りない。表側も裏側の人間達も何も知らず理解出来ない話がこの世界には沢山存在する。人間達が知り得ない情報を、意外にも持っている存在が確かにいた

それは―――この世界に住む、野生のポケモン達






「――――…そうか、見ていないか」

〈力になれなくてゴメンね…〉

〈でもでも!あの人を見つけたら知らせるね!僕らにやさしくしてくれたきれーなおねーちゃんだもん!〉

〈〈ぜったいに知らせるね!〉〉

「あぁ、お前らの情報を待ってるぜ」






此処はファイトエリア付近にある、野生のポケモン達が暮らす森の中

小柄なポケモン達に囲まれて、話を聞いていたレンは隣にいるパチリスの頭を撫でてやる


この一週間―――レンは人知れず、単身で様々な土地に住む野生のポケモン達の元へ足を踏み入れてきた。ミリが行方不明になったあの島を中心に、少しでもミリの姿を見たという情報を手に入れる為にレンは危険を省みず野生のポケモン達と交流を続けていた

怪電波の脅威を警戒してか野生のポケモン達も始めはレンの来訪に警戒MAXだったが、レンが自分達の言葉を理解し、またどの土地に生息するポケモン達の中にレンの事を知る子達もいた事も叶い、レンはこうして野生のポケモン相手に情報を収集する事が出来ていた

ポケモンは、意外に鋭い。特に知能に優れたポケモンなら尚更だ。野生のポケモンこそ環境や怪電波等に敏感な彼等だからこそ、人間の行動を影で見ている時もある。たとえば、自分達の住家を争う人間を監視する為にも。ポケモンが知らない事は人間が知っていて、人間が知らない事をポケモンが知っている。この双方の情報を入手出来るレンだからこそ―――レンは凄腕の情報屋として名が通っていたのだから


…―――しかし、今回ばかりはそのポケモン達でさえも情報を持っていなかった。どの土地のポケモン達も、答えはNO。誰もミリの姿を見ていなかった






〈…ねぇ、白銀のにぃちゃん〉

「なんだ?」

〈ボク達…ニンゲン達にあやつられちゃうの?〉

「…………」

〈ボク達、なにもしてないよ?なのにどうしてニンゲン達にあやつられちゃうの?みんなも、なにもしてないよ。なにもしてないのに、どうしてニンゲン達はボク達をいじめてくるの?〉





岩に座るレンの足の上に座り、恐怖に怯えるコリンク。他のポケモン達も怯えながらレンの回りに群がる

ポケモンは敏感、敏感だからこそ怖いのだ。自分達に降り懸かる脅威を、人間達の魔の手を。中には操られた仲間達の姿を目撃したという子達もいれば、恐怖はそれ以上だろう

暫く黙り込むレンだったが、フッと小さく笑みを浮かべ目の前のコリンクの身体を撫でてあげた






「…安心しろ。お前等を操らせない。今、お前等を守ろうとする人間達が必死になって敵の居所を見つけようとしてくれている。…俺達を信じろ。奴等の思い通りにはさせねぇよ」






このままいけばこのポケモン達は人間全てが悪い人間だと誤認され、敵意を向けてしまうだろう。しかし事実はけして違う。人間の大半がポケモン達の味方で、こうして敵を倒そうと寝ずに活動している。

見えざる敵は確かに存在する。奴等は今も高見の見物でもしているのだろう。絶対に許せる話ではない。だからこそ自分達は必死になって動いている。必ず見つけ出してやる

おにーちゃん、とレンの肩に乗ってきたムックルが言ってきた






〈あのおねーちゃんは…ボク達を守っていなくなっちゃったのかな?〉

〈せっかく戻ってきてくれたのに〉

〈〈帰ってくれたのに〉〉

〈おねーちゃん、大丈夫かなぁ…〉

〈心配だよ…〉

〈ねえねえ、白銀のおにーちゃん、おねーちゃんは大丈夫かな?泣いてないかなぁ?〉

〈〈〈怖がってないかな…??〉〉〉

〈またおねーちゃんの作ってくれたおやつ食べれるかな…?〉

〈〈〈食べれるかな…?〉〉〉

「………」






どの土地に住むポケモン達も、聖蝶姫に懐き、交流し、無事を信じていた。記憶が失ったとはいえミリがシンオウに帰ってきた事は噂や彼女の見えざる力によって確信していたから、また行方不明になってしまった現実は悲しいものでしかない

恐怖と悲しみに震えるレンの回りにいるポケモン達は涙を流す。涙を流し、レンに縋る。行方不明になってしまった、かつて自分達に優しくしてくれたあの輝かしく綺麗な盲目のおねーちゃんを






「…安心しろ。アイツは絶対生きている。俺達はアイツの無事を信じている。だからお前等も信じてやってくれ。……アイツの事だ、またいつもの様にひょっこり現れて、お前等にお菓子を配ってやるんだろうな。…楽しみに待ってやってくれ」






仮に死んだとしたら何処かで遺体が漂流してもおかしくないのだが、その遺体すら見つからないとなったら―――可能性はただ一つ

敵に捕らわれているか、何処か別のところに逃げているか

たとえ腕輪が割れて黒くなってしまっても、絶対に生きている。生きている事を信じて、いつでも帰って来れる様に待ってやらなければ




レンの言葉に安堵したポケモン達はわらわらと嬉しそうにはしゃぎ出す。レンは小さく笑い、空を見上げた

見上げた空は雲一つもないいい天気だった。空を見る限りあの事件がまるで嘘の様だ。きっとアイツもこの空の下にいて、一人寂しく震えているのだろう。アイツは、ミリは、淋しがり屋だから







「――――…そう、お前はこういう小さいポケモン達にお菓子を配ってやるんだろ?」





数ヶ月前、ハナダのどうぐつで凶暴な野生のポケモン達にお菓子を配っていたミリの姿。ポケモン達もニコニコ、ミリもニコニコと戯れ合う何ともシュールな姿に呆気に取られた事があったが、さておき

何かとポケモン達にお菓子を与え歩くミリの姿は簡単に想像出来た。きっと此処にミリが居たら、このポケモン達相手にも幸せそうにお菓子を配って癒されているに違いない

それから白亜や黒恋を交えて皆と遊ぶんだ。笑い溢れる空間の中、ミリは笑顔でこちらに振り向く。楽しそうに、自分にとって愛しい笑みを浮かべて、自分をその輪の中に入れてアイツは笑うのだ







「――――…レン!」














「…ミリ、俺を見つけるあの約束…………この約束でさえ、お前は自分を追い込ませちまうのか…?」










唯一気掛かりなこと

別れ際に交わしたあの約束



聖蝶姫が必死に守った"約束"が身を滅ぼしたとしたら

この約束も――――












けれど忘れて欲しくないと思うのだ






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