カタカタカタカタカタ…


カタカタカタカタカタカタカタ…





静寂の空間の中、

キーボードを打つ音だけが木霊する






カタカタカタカタカタカタカタ…


カタカタカタカタカタカタカタ…






ピピッ、ブゥウンーーー









「――――此処も、違う」







キーボードを打っていた手が止まる








「……クソッ」






これで何度目だろう。先程から口から出るのは悪態ばかり

キーボードを打ち込んでいた張本人―――ナズナは、一向に見つからない『彼岸花』の在処に随分疲弊している様子だった







「お前は気付いているかは分からねぇが、リーグ本部に情報が無い事を知ったお前は別の場所へ飛んだ。飛んだ先に―――ミリ様という聖蝶姫の情報を見つけた。違うか?」

「……だから、なんだというんだ」

「…本当に気付けていないのか。意外だな。まぁいい―――聖蝶姫の情報の先にある場所こそ、奴等『彼岸花』の本拠地だ」

「――――!!?」








一週間前―――ゼルの衝撃的な進言を受けたナズナは、その得意とするハッキングの技術を使って、以前ミリの情報を入手したルートを辿り、奴等の居所を見つけ出そうとした

本部のセキュリティーに侵入するのは容易かった。且つ、既にゼルには侵入の承諾を受けていた為(当然他の情報には一切手を出さないのを前提で)、ナズナはやりたい放題飛び放題とハッキングの力を大いに使った

本来ならナズナの実力も踏まえれば、此処で簡単に奴等の居所が見つかるはずだったのだが―――見つからなかったのだ。嘘の様に、サッパリと。前と同じルートを辿ったというのに、見つからなかった。奴等が残した、痕跡が

これにはナズナも驚き、レンもゴウキも驚き―――話を聞いたゼルも驚きを隠せなかった。確かにミリの情報を盗んだのは『彼岸花』で間違いないのに、まさか痕跡が無くなっていただなんて

ゼルの命令でナズナはありとあらゆる手段を使って『彼岸花』の痕跡を見つけ出す事に言われた。勿論『彼岸花』とミリの情報以外のモノには一切手を付けない事を前提に

ナズナに当然拒否権は無かった、が、あっても無くてもナズナのやる事はただ一つ。奴等の居所を見つけ出し、ミリを救出する。自分の命を救ってくれたミリの為、恩返しの為にもナズナはゼルの命令を受け入れ、自分の研究所で一人パソコンの中の世界で奴等と戦っていた







「フー」
「ヤード」

「…あぁ、すまないな。大丈夫だ、必ず見つけ出してやる」

「ヤドー…」

「俺に休む時間などは無い。奴等の居所を見つけ出すまで、ミリさんの無事が確認出来るまで、休む訳にはいかない」

「フー…」
「ヤドー…」

「…安心しろ、必要最低限の睡眠は取っている。栄養も母さんの料理を(※強制的に)食べている(※食べさせられている)。…野たれ死ぬのはまだまだ先さ」






一週間、寝る間も惜しんでパソコンの前に格闘し続けるナズナの姿は、一言で言ったらやつれていた。眼の下にはうっすらと隈が見え隠れしている。隻眼には長時間のパソコンの使用は酷だというのに、自分の体調を省みずナズナはひたすらにハッキングを続けていた

ゴウキやレンが訪れ体調を心配され、一向に部屋から出て来ないナズナに痺れを切らして乱入してきたアンナに強制的に食事をとらされたりと、一様人並みに取ってはいたが。回りに人がいなかったらそれこそ没頭し続けていただろう

心配そうに表情を曇らすフーディンとヤドキング。彼等は一週間ずっとナズナの右腕として、身の回りだったり指示を受けていたりと傍でナズナを支え続けていた。支え続けていたからこそ、ナズナの体調を心配していた。この主は没頭すると自分の事をないがしろにする悪いところがある。親に似て困ったものだ

心配そうに見つめる二匹に苦笑を零すナズナだったが、すぐさま視線をパソコンへ向けた

よく分からない記号の羅列が並んでいる画面を相手に、自然とナズナの眉間に皺が寄る






「―――しかし、奴等は一体…何を造り上げたというんだ」






かつてハッキングして得た設計図では、ポケモンを自由自在に操れる様な代物ではなかった。設計図はあくまでも素晴らしい出来だったが、自分がちょっとした細工を仕掛けただけで簡単に壊れた。完成とはいえなかった装置が、どういう経緯で完全なる完成を遂げたのだろうか

元科学者として、あの装置がどこまで進化をしたか凄く興味をそそるのが本音だが―――呑気に関心している場合ではない。奴等は自分達の敵だ、元科学者でもあり隻眼の烏として、奴等の思惑を握り潰す


そして、見つけ出すのだ

自分にとって、大切な妹の存在を―――








「――――ナズナさん!」









オレンジ色を纏った彼女

不思議な魅力を持つ、儚い存在











「絶対に…見つけ出してやる」











奴等も、彼女も、









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -