森の中、奥の奥

小さく震える、二つの存在

身体はボロボロ、心もボロボロ

影の中に潜む存在は、ただただ静かに見守るだけ







《――――…主…》







影は祈る

大切な存在の安否を

かつて自身の主が「月が嫌いだ」と嫌がっていた姿を思い出しながら月を見上げ、影は小さく震える二つの存在を優しく撫でるのだった




――――――――
―――――
――










―――ポケモンリーグ協会シンオウ支部を始め、警察庁、各研究所等リーグ協会に通ずる者達を中心に、シンオウ地方は厳戒体制に入った



旅をしていたトレーナー達はジュンサー等の警察の規制によって街に止まる事を余儀なくされ、また住民の者達にも街の出入りを規制する事になる。各街はジムリーダーを中心にジムトレーナー、ジュンサー等が、行きゆきしている。一体何が起きたのかと住民は不安に駆られ、また行動に制限が掛けられている現状にやきもきしていた

自分達の街が規制されるならまだしも、シンオウ全土が厳戒体制になっている。一体、何があったのだろうか―――勿論住民はジムリーダーやジュンサーに問い出した。答えはどこもかしこも全員こう答えた。「野生のポケモンが予期せぬ行動をし、暴れ出している。凶暴化しているポケモンもいる為、街の外には行ってはいけない」と

テレビを付けるとたえずニュースは数日前に起きたポケモン暴走事件を取り上げ、リーグから街の規制の話を流し続けた。別名―――「ポケモン凶暴走化現象」。街の外には出ず、なるべく家にいる様にしてほしい。手持ちのポケモンに何があるか分からないので、なるべくポケモンはボールの中に入れておく様にと―――テレビキャスターやジムリーダー、ジュンサー達も同様に口を酸っぱく警告していた


当然、スズラン大会は延期。スズラン大会まで数ヶ月のところ、先に持ち越しにされ、状況が状況の為にスズラン大会開催は未定になってしまう。住民の命、シンオウの平和を最優先にするリーグや警察の姿勢は重々に理解出来るが、しかしトレーナーからしてみれば拍子抜けならぬお預け食らった状態に。彼等はポケモンセンターを拠点とし、いつ開催されるのか分からないスズラン大会の為にトレーニングをしつつ開催を待つばかり






「あー、つまらないなぁ」

「ピーカ」






フタバタウンにあるヒカリの家

サトシとピカチュウは庭先のベランダで日向ぼっこをして暇を持て余していた

たまたま偶然規制が入る前にヒカリの家に戻っていたサトシ達。さあこれからリーグ大会にエントリーするぞ!と意気込みフタバタウンを発とうとしていたが―――タイミング悪く、あの事件がフタバタウン近くに起きた。サトシ達が事件に気付いた時には既に規制が入ってしまい、街から出られなくなってしまう

ポケモン凶暴走化現象、リーグ大会延期―――立て続けに起こる予想外の出来事に驚き、そして拍子抜けしてしまったサトシ達。街から出られない以上、たとえギンガ団壊滅に貢献した少年少女だったとしても例外は認められない。ヒカリの母ハナコの勧めで暫く事態が落ち着くまで此処に滞在する事となる

見上げた空はたえずヘリコプターが飛び回っている。これで何機目だろうか。ヒカリの家以外に住む住民達の姿は何処にも見当たらない。きっと家の中に引きこもっているのだろう。フタバタウンはジムリーダーがいない小さな町…リーグ関係者が派遣されていたとしても、不安な事には変わらない

ギンガ団騒動以上に厳戒体制になっているリーグや警察の姿勢は、流石のサトシも尋常じゃない事には気付いていた



ただの、ポケモンが異常状態を起こしただけなのか

一体、自分達の知らないところで何が起こっているというんだ









「サートシくーん。そこにいたのか」

「ピッカ!」

「!おーシゲル、おかえりー。どうだった?あっちの方は」

「相変わらず忙しそうだったよ。で、相変わらず研究所に入らせてくれなかったよ。…全く、子どもだからって舐められてて困るよ」

「そっかー」

「チャァー」






ベランダで休むサトシ達の前に敷地の外から新たに現れたのはシゲルだった。表情は解せないとばかりにやれやれとため息を吐きながらやってきた

これで一体何回目になるんだろう。先程シゲルは隣町のマサゴタウンにあるナナカマド研究所に向かい、同じ研究者として手伝いをしようと思っていた。なんとか規制の目を潜り抜けたとしても、ナナカマド研究所はシゲルの助っ人を拒否し続けた。理由は勿論分からない。理由も知らされずに追い返され、今日は研究所に入る前に研究者の助手に摘みあげられ、仕方無く今日もシゲルは憤慨な気持ちを殺しながらフタバタウンに帰ってくる事に

人手不足で忙しそうなのに何をそう見栄を張り続けているのか知らないけどもう助っ人しに行かないぞ。とシゲルはブツブツ言いながらサトシの隣に腰を落ち着かせる






「…ポケモン凶暴走化現象……一体ポケモン達に、何が起きているんだろうね」

「ビーカ」

「…ポケモン達が理由もなく暴れ出すなんて信じられない。…いつまで続くんだろうなぁ、この規制。修業出来るのは嬉しいけどさ」






少なくても自分達がどうこう動いて解決出来るレベルではない事は、分かっている

だからこそ自分達は此処にいる

ひとまず大人達に任せて、自分達は事の結末が解決するのを待つしかない








「ピーカー…」

「……ミリさん、今何してんだろう……」

「さぁね…元気にしているとは思うけど」

「結局あれからどういう話になったんだろうな。レッド兄さんから何も連絡ないしさー」

「便りが無いのはなんとか、って言うからまだ暫く様子見なのかな……まぁ何かあったら向こうから連絡が来るはずだからもうちょっと待ってみよう」

「そうだな」

「ピッカ」



「二人ともおやつできたよ〜」

「ポチャポチャ〜!」














何も知らない彼等は、ただただ暇を持て余すばかり






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