彼は私が血を流す事をすっごく嫌がる。そりゃ、まぁ血なんて流して良い物じゃないし、私もレンが血を流して貰いたくはない。それはレンに限らず、色んな人にも言える訳でありまして。血を流して貰いたくないから今まで自分の身を削って戦っていたのも事実。あぁ、なんだか懐かしいなぁーと、場違いにも程がある


ツゥー……


でも今回は自分自身でも相手からでもない。自分の人指し指からプックリと血が溢れ、それが流れて線を描く。原因は至ってシンプル、今読んでいた書籍のページを捲った際に切ってしまったからだ。なんだか一瞬鈍くて熱いものが走ったなぁーと思ったらこうなっていたから少しびっくりする

でもこんなの、些細な傷だからすぐに治っちゃうから大丈夫。ほら、今も力のお蔭で傷の修復は終わっていて、痛みなんてとっくに無くなった。残っているのは傷から溢れた血だけだ。つくづく自分の身体って…おっと、本を避けないと血が落ちちゃって汚れちゃうじゃないか





「洗面所に行くか…」





腰を上げ、書籍を机の上に置き、床に血が落ちない様に気遣いながら洗面所に向かう。こんなの血を流せば済む事だから、さっさと流して書籍の続きを見よう。今一番良い所だったからね、早く続きが見たいんだぜ

とゆーか少しの血でも血相変えちゃう人がいるからね、なるべくその人が気付く前にはこの血をなんとかしたい……―――そんな考えが過ぎれば丁度良いタイミングでこっちに近付いて来る気配がやってきた訳で。本当にタイミング良いなぁ、と苦笑をしながら気配の方に顔を向ける。勿論、血が流れた手は背中に隠して





「ミリ」

「レン、どうしたの?」

「今日良い天気だろ?アイツらの身体洗ってやろうかと思ってんだが、石鹸何処にあるか分からなくてな」

「あぁ…石鹸なら洗面台の下にあるよ。予備として買っといたのが何個かあったはずだと思うけど…」

「そうか」





白銀色の長い髪を揺らめかせ、こちらに歩み寄ってきたレン。アイツらとはきっと手持ち達の事だろう。そういえば前回私が洗った時に石鹸終わっちゃっていたんだっけ、とボンヤリと記憶を探ってみる。新しい石鹸。出して置けば良かったかな、と申し訳ない気持ちに駆られた

洗面台の下にあると分かったレンは、サンキューな、と目尻を緩めて言い、私に背中を向けた。向かう先は同じ場所、けれど私には彼だけには見せたくない血が指にある訳だから、着いて行くことは出来ない。洗面所が駄目なら、台所かな。そう思い私も足を動かそうとした

その時だった。パシッと何かが腕を掴んで、グイッと上に上げられた





「っ、」

「…背中に何隠しているかと思ったら、血が流れてるじゃねーか」

「レン、」

「……切ったのか、ミリ」





目敏い彼にはやっぱりお見通しだったらしい。私の腕を掴んで上げたのは何を隠そうレンの手で、突然上に上げられた事で赤い液体が指を伝う

眉間に皺を寄せ、形の良い眉をしかめて私の手を見て、私を見る。本当に、ちょっとした事でもすぐにそんな顔をしてくるんだから。こっちまで胸が苦しくなってしょうがない





「………本をね、読んでいたら…切っちゃった」

「…何で、俺に見せねぇんだ」

「だって…これくらい、すぐに傷治っちゃうし。切っちゃっただけだからね、うん」

「………。他は?」

「ううん、切ってないよ」

「本当、だな?」

「うん、大丈夫」

「……なら、いい」





レンがそうやって無駄に騒ぎ立てるのは、度々私が自分の身体を傷付けるからだ。無意識でやってしまったとはいえ、深く傷を付けていないから力のお蔭ですぐに治ってくれるから支障はない。でも、私はそう思っていてもレンにとってはそうはいかないみたい

洗い流そうと思っていたんだ、と苦笑を漏らしながら私は言う。だから洗面所に一緒に行こっか、とも付け加える。――…けれど、一向に動こうとしないレンに私は頭を傾げる。どうしたの?と、そう呟こうとした時には―――血が流れている自分の指が、レンの口の中に入っていた





「キャッ!や…、レン!?」

「………」

「何を…あ!…っ」





熱い口内に指を突っ込まれ、熱い舌が私の指を舐め取って、丹念に吸われる度に粘着質な音が耳を霞む。現在されているこの行為に頭は真っ白になって、しかも指だけ熱いだなんてそれこそ真っ白になってしまう。手の甲まで流れた赤い線を辿って舌が這われれば、ゾクリと背筋に何かが走り鳥肌を立たせた

情緒的、むしろエロ過ぎるレンにただ私は顔を真っ赤にして耐えるしかない。何処か楽しんで行為を続ける彼に抵抗なんて出来なくて、口から指を解放され、最後に指にキスされた時のリップ音まで、私はただ生理的に出た涙を堪える事しか出来なくて





「―――消毒、完了だな」

「〜〜〜〜〜〜っ…!!!!」

「ごちそーさん。ついでにお前の唇も貰っておくぜ」

「っ、な…!?」





美味しくもない血を、指を舐め取って不敵に笑うレンに誰も敵う訳がない。有無を言わせずに引き寄せられ、抵抗させまいと塞がれた唇は鉄の味がした








切った指先




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