こんな調子で暫く談笑しあっていた最中だった



――――カタカタカタ…



リズミカルな音が二つ、小さく揺れた








「なんだい?」

「ん?」

「誰かのボールが揺れてんぞ」

「あぁ――私のルカリオのボールだ」

「あら、私のルカリオもだわ」






カチャリと二人は腰に装着していたボールを取り出した。ボールはカタカタカタと忙しなく動いている。まるでボールから出せと言わんばかりだ

珍しい、と二人は互いの顔を合わせる。自分達のルカリオは大人しい部類に入り、自分から主張して出る事はない。出るなら自分が開閉ボタンを押すか、名前を言ってルカリオ自身が出てもらうかのどちらか。しかもルカリオの二匹が同時にボールを揺らし、出たがっている。波動で声を感じずとも、二匹が何が言いたいのかは汲み取れた




興味津々と他の四人が見守る中、シロナとゲンは再度顔を合わせた。互いに頷き、それから開閉ボタンを押した

ポン!とボールが開かれ、光が地面に伸びた。二つの光はルカリオの形に変化をし、パァアッと存在を主張させた









「どうした、ルカリオ」

「ばう」

「珍しいわね、バトル以外自分から出たいって主張するなんて」

「ばうばう、ばうー」

「話?」





「ルカリオ…シンオウ地方に多く見掛けるポケモンか。いいね、鋼タイプで格闘も使えるなら僕も是非仲間にしたいよ」

「そう言えばダイゴさんアンタ確か鋼タイプ専門だったな」

「ルカリオは波動で会話を成すポケモンだ。二匹が出てくるならルカリオしか分からない何かに気付いたのでは?」

「あぁなるほど。なぁ二人共、ルカリオ何言ってんだ?」







トムの言う通り、ルカリオは波動を使って会話を成すポケモン。波動があればパートナーと会話が可能になれる。実際にダイゴ達の目の前では波動で会話している彼等の姿があった。だが残念な事にこちらに波動というものが分からない、もしくはこちらに波動が向けられていないから彼等が何の会話をしているかは分からない



だが、それもすぐに明らかとなる






ガタッ!とゲンが立ち上がった。突然立ち上がったゲンにびっくりする三人。ゲンは固まったままだ。視線を動かしシロナを見れば―――彼女も驚愕していた。目を張って、でも何処か嬉しそうな表情を浮かべていた

一体どうしたんだ、何があったのかと答えに迫る彼等に、構わずゲンは喫茶店から出て行く。バタン!と扉が開き、チリンと扉の鈴かなった。後をゲンのルカリオが追い、固まっていたシロナも後を追いシロナのルカリオも後に続いた。チリンとまた扉の鈴がなり―――暫く沈黙が広がった






「な、なんだよ一体…」

「とりあえず追うぞ!」

「お、おうよ!トムさんごっそさん!」

「お金はこれで。お釣は要りません。美味しいココアご馳走さまでした」






突拍子に、突然に、いきなり何も言わず出て行った彼等を残されは三人は後を追った。勿論、お代はしっかりとダイゴが全員分払いました。流石御曹司、お釣が要らないなんてどれだけ太っ腹なんだ

思いの収穫にトムは笑い、「ありがとうございました」と言い、彼等を見送ったのだった




















喫茶店から出た二人は港近くの海岸に来ていた。全速力だったのか少々息切れをしている。彼等二人の後ろにはルカリオがいて、二匹は黙って主の後ろに鎮座していた

海風がゲンの髪、隣りに立つシロナの金髪とコートを靡かせる。ゲンは煩い動悸を押さえながら、広い海を見つめた。そしてゆっくりと瞳を閉じて、集中した。バクバクと心臓が煩い。構わずゲンは集中し――――そして、感じたのだ

一番求めて探した、波動の流れを






「―――…間違ない。彼女の波動だ」

「ゲン、」

「間違える筈がない。彼女の波動は今までにない波動だからこそ、分かりやすいんだ。だから、間違ない。ルカリオ、よく言ってくれた。感謝するよ」

「ばうばう」

「波動があっていればあの子はミリなのは確定よ!ルカリオありがとう、ゆっくり休んで頂戴」

「ばうー」



「おーい!二人ともー!」







ルカリオをボールに戻した丁度その時、こちらに向かって走ってくる三人の姿が目に入った






「ダイゴ、オーバ、デンジ」

「一体何があったんだい?」

「そうだぜ二人共!いきなり出て行くもんだからびっくりしたぜ!あー、疲れた」

「ルカリオが何か言ったのか?」

「波動よ!ルカリオ達があの子の波動を感じ取ってくれたのよ!」

「「!!!」」

「ゲン、それは本当か!?」

「波動は指紋と同じだ。同じ波動なんて有り得ない。それに彼女の波動は本当に分かりやすいんだ。…感じる、彼女の波動がこちらに向かってやってくるのを」

「や…やったな!おいデンジ聞いたか!?アイツが、こっちにやってくる!…いや、違うな。喜ぶ所はソコじゃねぇ!」

「あぁ!聖燐の舞姫は、ミリは、盲目の聖蝶姫で間違いない!」






ゲンとシロナは自分の手持ちのルカリオから告げられた

《ミリ様の波動がこちらに向かってきてます》、と

びっくりしたのは元より、ゲンやルカリオ達にとって一番嬉しかったのが波動だ。こちらにやってくる波動は七年前に出会った彼女の波動と同じだった。そう、この波動はまさしく盲目の聖蝶姫の波動そのものだ

つまりこの時点で聖燐の舞姫は盲目の聖蝶姫だと証明していた。だからこそ彼等は喜んだ。やってくる、彼女は帰ってくるんだ―――と









「アレは…、皆!アレを見てくれ!」

「!…アレは……」

「船…船よ!船が見えるわ!」

「「!」」









地平線の上に小さく見えるのは、船

カントーから出航され二日掛けて海を渡ってきた、大切な存在を乗せた船がとうとうやってきた

彼等は嬉しそうに、まるで小さな子供がはしゃぐ様に喜んだ。船はゆっくりと、確実にシンオウに着こうとしていた。シロナとダイゴとゲン、デンジとオーバは互いに顔を合わせ、笑った。それから踵を返して軽い足取りでその場から走り出すのだった



勿論、行き先は船の港









(船が着くまで、後一時間)



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