『久しいな、カツラさん』

『先日振りだな』

『よぉ、お前ら。カツラはともかくまさかマツバとミナキの二人が居るとは思わなかったぜ』

「ナズナ!ゴウキ君!レン!」





パソコンが電話画面に替わり、映った相手は今シンオウに居る三人が映っていた。中央にはナズナ、左右にレンとゴウキがこちらの画面を覗いていた。ゴウキとカツラとマツバ、ナズナとミナキは既に顔を合わせているが、久し振りに見る変わらないレンに互いに再会を喜んだ

マツバとナズナは此所で初対面となり、『いつの日かの時は感謝する』とナズナが言い「力になれて良かった」とマツバは言った。互いに相手が誰かは既に認知済みらしく、自己紹介をする事は無かった

しかし手間が省けたぜ、とレンは言う。カツラに連絡した後、続いてマツバかミナキに連絡するつもりでいたらしい。連絡する、とはつまり向こうは何か手を掴んだという事になる。もしそうであれば嬉しい話だ。何せこちらはたった今路頭に迷っていたのだから






「まず話を振る前に…ゴウキ君、捜査はどうだ?手掛かりは掴めたか?」

『…残念だがそれは難しい。今調査をしている最中だが…この調子でいくと上の奴等を洗いざらいに調べなければならなくなりそうだ』

「そうか…これは本格的に事件になっていくね。そこに居ると言う事は…仕事を抜け出してきたのか?」

『そうだ』





ゴウキは警察と親しい間柄の仲だ。と言うのも警察に働く殆どの人がゴウキの門下生と言ってもいい。事件という悪事は全て己の拳でギッタギタにしてやった事もあり、表彰された関係上層部にも顔を覚えられたりと。一言で言えばシンオウ協会支部とシンオウ警察の架け橋役でもある

その為、今回の事件は必然的にゴウキが駆り出される事になる。この事件、マスコミや民間には公にされる事は無いが重大な事件になっていく事は確かだ





『ゴウキから話は聞いている。お前らミリの…いや、盲目の聖蝶姫と聖燐の舞姫の個人情報を見つけ出してソレを照らし合わせるらしいな。…で?どうだったんだ?』

「……残念だけど、二人とも個人情報を見つけ出す事が出来なかった。エリカ君とマチスが名乗りをあげてくれたけど、結局何も掴めなかったってね…それがついさっきだ」

『…つくづくタイミングが良かったぜ。そりゃそうだ、お前らがいつもする調べる方法だとかすりもしねぇぜ』

「…まさか、」

「ナズナさん、もしや…!」

『あぁ。二人が思った通りだ






―――…ハッキング成功だ』









ハッキング成功


それは即ち、情報を取得出来たという事








「…まさか本当にやってしまうなんて…」

『…俺も聞いた時はかなりびっくりしたぜ。マジでしでかしやがったからなナズナの奴』

「…でもいいのか?ゴウキさんは警察と繋がっているんだろ?大丈夫なのか?」

『道場の師範、数多くの門下生が居ても俺は警察じゃなくただの四天王だ。…今回が今回だ、俺は何も知らん』

『……今回じゃなきゃアッパーむしろキャメルクラッチ食らわせていたんだろーが』

『俺は何も知らん』

『シラ切りやがったぞコイツ』

「けどナズナ、君は絶対にやってくれると信じていたよ。ミナキ君からナズナに託したって話を聞いていたからもしやと思っていたけど…今でもその腕は健在だったんだね」

『あぁ。久々で少々時間が掛かってしまったがな』

『……そのわりにはすげぇ速さで文字を打ちまくっていたじゃねーか。初めてみるぜあんなスピードでキーボード打つ奴なんて』







沢山あるパソコン画面に窓がいっぱい表示され細かい意味不明な文字を打ちまくるナズナに、初めて見た光景に驚愕通り越して戦慄したとレンは言う






「………えっと、もしかしてもしかすると…ナズナさん、貴方まさかハッカーなのか?」

『あぁ』

「な ん だ と」





初めて対面するナズナがどの専門を扱っているかまでは知らない若干蚊帳の外だったマツバが恐る恐る質問すれば、相手はシレッと言いのけた






「ナズナのパソコン技術は私も目を張っている。何せナズナはハッカーの中でも"隻眼の鴉"として有名だからね」

「せ、"隻眼の鴉"!?あの"隻眼の鴉"か!?」

「隻眼の鴉?」

『聞いた事ないのか?"隻眼の鴉"…奴の前に侵入出来ないモノはないと恐れられている、数十年前に活躍した今ではもう伝説と謳われている奴だ』

「"隻眼の鴉"はかなり有名だぞマツバ!確か数十年前に犯罪集団のサーバーに侵入して内部をいじくって混乱させたって聞いている。それが犯罪逮捕に繋がったってメディアは話題持ち切りだ!人は奴の事を正義のハッカーだと言うくらいだからな。…その"隻眼の鴉"がナズナさん…確かにナズナさんしか出来ない事だ」

『ある時からパタリと消息を眩ましたからてっきり蒸発したかと思っていたが…まさかソイツが身近にいて、しかも帰ってきたらハッカーの最中だ。度肝抜いたぜ』

「え、ええぇええー…」






約数十年前、"隻眼の鴉"が生まれた

何故そう呼ばれ始めたかは、今ではもう分からない。鴉はパソコンが繋がる場所さえあれば色んなサーバーに出没してきた

だが特別何をするわけでも無く、ただ現れ傍観して去って行く。そう、まるで鴉が獲物を見つける鋭いまなざしの様に。本格的に名が知れたのはシンオウでギンガ団とは違う別の集団が騒動を起こそうとした時だった。奴の活躍のお蔭で事前に防ぐ事が出来、犯罪逮捕が出来たのだが結局"隻眼の鴉"が何者かは分からず終い

他にも事件が起きた時、奴は現われては事件解決のキッカケを作ってきた。世間は奴を正義のハッカーと称え、彼はいつしか伝説のハッカーになっていた







『何言われようが俺には興味が無い。俺はただ欲しい情報が手に入れさえすればいい』

「お、出た出たナズナの名台詞。久々に聞くよ」

「だがこれでまた"隻眼の鴉"が復活したな。きっとリーグは混乱しているんじゃないか?」

『安心しろ。流石に今回は慎重に事を進めた。バレてはいない筈だ』

「だといいが…」

「……けど二人とも本当に兄弟?」

『『異母兄弟だ』』

「いやいや、異母でもここまで違う兄弟は初めて見たよ」

『俺は親父に似たんだ。親父はひたすらパソコンに向かっている人だったからな』

『お袋似だ。お袋はひたすら武道一筋だったからな。今俺があるのはお袋のお蔭と言ってもいい』

『…正反対の二人がよくもまぁくっついたな…(俺の両親見てるみてぇだ』






その伝説のハッカーもいつしか消息を断ち、一向に世間に顔を出す事が無くなり、本当に伝説になってしまったが


もしまだ"隻眼の鴉"がいたらギンガ団はどうなっていたんだろう、と淡い期待を寄せるシンオウ住人だったが、当の本人はカントーでロケット団に入団して活躍していただなんて口が裂けても言えない(しかも脱走して生死の境に立っていたとなれば尚更だ

ちなみにナズナが"隻眼の鴉"だと知る人物は極僅か。カツラとゴウキは勿論、自分の両親にロケット団幹部と首領の僅かの数名だけ









『そろそろ本題に入ろう』






ナズナが言った






『もう分かっていると思うが、俺はミナキと連絡を交わしてすぐサーバーにハッキングをした。まずは一般に公開されている個人情報を見させてもらったが、確かにミナキの言う通りだ。盲目の聖蝶姫の情報は愚か、聖燐の舞姫さえ情報が無かった』







ミナキから情報を受け取った

だがその情報は―――"ゼロ"


ミナキは何も見つけ出す事が出来なかった







『―――聖燐の舞姫が所持するトレーナーカードがあるのにデータに表示されないのはおかしな話だ。普通なら使えない筈。なのにカードは存在している。だから俺はある仮説を立てた。「ミリさんの情報を隠される程何かの事件に関与している」と』

「…隠されてる?」

『トレーナーカードの情報を消してしまえばミリさんのカードが使えない。だが現にミリさんのカードは使えている。消去よりも隠蔽、だろうか。何処か隠されているなら何故カードが使えるのかが説明出来る』

「隠蔽…。…ミリ姫が記憶喪失になっている原因でもあるのか?」

『そうかも知れないし、違うかも知れない。断言は出来ないが、はっきり言おう―――俺達三人は盲目の聖蝶姫と聖燐の舞姫は同一人物だと思っている』

「「!!!!!!」」

「―――…根拠は?」

『俺が…いや、俺達がミリを見間違えるわけがねぇ。お前らもそうだろ?』

「「「………」」」

『カツラが何故集会の時に乗り出した理由はただ一つ。舞姫の過去を調べ、消えた記憶を探す為。お前の考えはとうに汲み取っている。話を切り出した事については感謝している』

『―――…だが、ミリさんと断定付ける前に少々話が噛み合わない所があってな…』

「噛み合わない所?」

『あぁ。今からそっちの端末にデータを送る。まずは二人が同一人物である事を証明しよう―――――…』

































『本当に、人間って面白いわね』




クスリと誰かが笑った




(迷いに迷え)(可愛い子猫達)



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