こんな事、今まであったのだろうか こんなに調べても情報が入手出来ないだなんて 「…そう、ですか」 「お役に立てず、申し訳ありません」 「いいのです。シオリ、ご苦労様でしたわ。ゆっくり休んで頂戴」 「ありがとうございます。それでは失礼しました」 広い屋敷、その屋敷の一室にある部屋にエリカはいた 木製の長机にはエリカの部下のシオリから渡された調査書が置かれている。しかし普段ならかなりある調査書も今回はたったの一枚しかない シオリが退室をしたのを横目で見つつ、パラリと調査書を手に取った 「……………」 悪党集団等の情報なら入手する事は可能だ。侵入するのは難しくても入ってしまえばこちらのもの。情報は逃げない。ゆっくりと仲間と交流を深めながら入手していくからこそ、得られるものもあるし情報も多く見つける事が出来る しかし個人情報、しかも一般トレーナーとなれば訳が違う。個人情報保護法など法律は色々定めてある為、いくら今回が今回であっても慎重に調べていかないといけない。潜入捜査の方がそういった事を考えずに好き勝手出来るのだが 団体の幹部等の個人情報ならまだしも(悪党集団絡みなら警察も認めてくれている)、忘れてはならないのは今回調べる相手はただの一般トレーナー。悪党集団となんの関係無いし、単に過去を調べるだけじゃない。重要なのは対象者の個人情報や過去を全て洗いざらいに調べあげる事なのだ 全てはそう、彼女の為に 「………お姉様……」 得られた情報は、正直言って無いに等しい 一枚だけの調査書がその事を物語っていた これ以上の捜索は不可能だ。あのシオリでさえこれしか得られなかったなら、他の人が調べても何も情報を見つけられないだろう あくまでもこれは普通に調べた情報でもある。忘れてはならないのはシオリ含めエリカも公共機関の一員だ。よほどの理由が無い限り、バレてしまえばこれ以上の調査は自分の首を切ってしまう恐れがある ――――もし自分達リーグ関係者以外の者が別の方法で情報を入手出来たとなれば、話は違うが エリカは机の上に置かれた自分のポケギアを手にして、アドレスを開いて電話を掛け始める プルルルル、と数回コールが鳴り響き、ガチャッと回線が繋がった。相手が出た事を確認してエリカは口を開いた 「マチス、御機嫌よう。今お時間宜しい?」 『―――あぁ、お前か。丁度俺もお前に連絡を入れようと思っていた所だ』 「それは良かったですわ」 電話先の相手はマチスだった クチバジムリーダー、マチス。彼もまたエリカと一緒である人物の情報を探していた 対象者は同一人物、かはまだ確証はないが共に情報を探す仲間として昨日から連絡を取り合っていたのだ。声からして相手も何等かんら情報を入手出来たに違いない 「そちらはどうですか?」 『駄目だ。ハッキリ言っちまえば俺が手に入れた情報はもう調べがついてあるヤツだ。一番欲しい個人情報が見つからなかったぜ』 「そうですか…」 『そっちはどうだ?何か見つかったか?』 「いえ、残念ながら何一つ…」 『そうかい。…やっぱな。別に部下を疑ってる訳じゃねぇんだが、どうも情報が無ぇと不自然過ぎる』 「それも私も思っていました。…何故、こんなにも情報が無いのか…検討がつきませんわ」 残念な事に向こうも情報を入手する事が出来なかったみたいだ リーグ集会で向こうから既に渡された情報が今回マチスの部下が調べあげた情報と合致していたんだろう。これ以上の捜索は無用だと分かるのも、向こうが全ての情報を纏めて寄越してくれたからだ。向こうが分からないものを、これ以上調べても尻尾なんて掴めやしない 「ひとまず私はこの事をカツラさんに報告します。マチス、あなたはどうします?」 自分のする事は無くなった 結果が出なかった以上、自分が出来る事はもう無い 後はカツラとマツバに委ねるしかない。あの二人は彼女と親しいと聞いているし、実際に彼女本人から耳にしていた。それにあの二人は彼女の為だからこそ今でも動いているに違いない 『ついさっきカツラに連絡した。もう手は無ぇからな、俺は高みの見物でもさせてもらうぜ』 「分かりましたわ」 『―――…それにアイツがいるんだ。アイツに任せときゃ早く情報も掴めるはずだぜ』 「…"アイツ"…?」 『少なくとも俺とナツメはそいつに賭けている。…お前なら知ってるはずだぜ?』 もし目の前にマチスが居たら意味深な表情を浮かべながら問い掛けて来ただろう。簡単に想像がつく 一体誰だろうか、とエリカは頭を捻る。簡単に情報が早く手に入れる方法なんて、一つしか方法はない。暫く該当する人物を思い浮かべると―――いた。該当する人物が一人だけ 「…彼は今、」 『故郷のシンオウにいるんだと。んで、今となりゃ新米だが考古学者ときたもんだ。親の職を継いだにしちゃ早すぎる出世だがな』 「…―――――」 見つかった事は聞いていた 詳しく聞かなかったから彼女がどういう経緯で発見したかは分からないが―――そうか、彼がいるのか 彼がいるなら自分達の出番はもう無い。それこそマチスの言う通り、賭けてみる価値がある ――――カツラは勿論、マチスやナツメ及びキョウやサカキが最も信頼を寄せていた、ロケット団の中で重要人物でもあり最高技術力を持つ今では伝説のハッカーと謳われていた、行方不明だった男を……――― 「…―――そうですね、なら私も賭けてみたいと思いますわ」 それしか方法は無い → |