北東西南地方リーグ集会を終えた次の日の夕方




―――トキワシティのトキワジム








「―――…お前は知っていたんだな、ミリの事を。知っていたから、俺にあんな質問をしてきたんだな?」

『うん。でもやっぱりミリさん知らなかったのか…』








ジムの部屋にある映像付パソコン通話

その画面に映っている二人の姿



一人は帽子を被り、肩にピカチュウを乗せた少年が一人と、もう一人は茶髪でツンツンヘアーをした少年が神妙な面持ちで画面に映し出されていた








「お前達はどうやってミリの事を知ったんだ?」

『今から半年前、僕らと一緒に行動しているヒカリちゃんとシンジ…は行動は別だとして。その二人に尊敬する人は誰かって聞いたら「盲目の聖蝶姫」って二人して答えたのがキッカケだった。実際に写真見て…ミリさんだって気付いたのが、つい最近の事さ』

「そうか…」







パソコン映像に映るのは、サトシとシゲル

どうやら向こうはポケモンセンターにいるらしい。センターに流れる懐かしいBGMが微かに流れている


今、彼ら二人の姿以外、誰もいない








『ヒカリちゃんとシンジ、勿論他の人にミリさんの事は言っていない。安易に言ってしまったら混乱を招いてしまうのは目に見えていたからさ』

「なはは…さっすがシゲル。俺のせいでこんな事になっちまったのがいけなかったんだよな…」

「仕方無い事だ。お前はただミリの事を奴等に伝えただけだ。それにどの道、向こうがこちら側に要求するつもりでいたから混乱は回避出来なかった」

「だけど…」

『そうだぜ兄さん。あんまり深く考える事じゃないぜ』

『兄さんの言う通り、向こうが言うつもりでいたらどの道回避なんて出来なかったでしょうし…今考えるのは、この後です。気をしっかり持って下さい、レッドさん』

『ピーカチュ』

「…サンキューな、三人共」







苦笑を浮かべながら、レッドは言う

心配そうにレッドを見る二人に、グリーンはレッドに視線を向けた後、画面に視線を戻した







「…お前らの友達はミリの事…どれだけ知っている?」

『二人共名前以外は覚えているみたいだよ。勿論、二人に限っての事じゃない。ヒカリちゃんのママさんやシンジの兄さんのレイジさんも名前以外ははっきりと覚えていた』

『シロナさんとダイゴさんと知り合いだけど、あの二人も聞いた時はミリさんの名前覚えていなかった。"あの子"、"彼女"って…楽しそうだけど、悲しそうな顔でさ。なぁ?ピカチュウ』

『チュウ…』

「…それが、今となれば名前を思い出せた」

『まだこっちの皆、名前思い出していないけど…やっぱ時間の問題だよな』

「あぁ…」







"ミリ"という名前を言っただけでシンオウ側の皆は盲目の聖蝶姫の名前…つまり聖燐の舞姫であるミリの名前を思い出せた

もし、聖燐の舞姫のミリがシンオウに来て、自分の名前を言ってしまったりシンオウ側の誰かがミリの名前を言ったとしたら…―――他の皆も、盲目の聖蝶姫の本名を思い出してしまう






―――カツラの言った事が本当なら、それこそなんとかしてでもミリの名前を公にせず事前回避させたい










『―――…でも兄さん達、隠す必要ってあるのか?だって皆してミリさんの名前知りたがっていたし、会いたがっていたんだぜ?この事…普通なら嬉しい知らせじゃないのか?』

『ピーカ』

『サトシ、それだったら何の為に僕らが黙っていたのか分からなくなるだろ?』

『でもさー、お前だって兄さん達の話聞いて「んじゃこのまま黙ってるよ」って訳にはいかないだろ?』

「「……………」」

『そりゃそうだけど…』

『それに…兄さん達、そのリーグ集会で俺達の名前言っちまって、その流れでミリさんの事言っちゃったんだろ?兄さん達がミリさんの友達なら、従兄弟の俺達も知り合いに違いない!…ってさ。もし今後会った時なんて「聖燐の舞姫を知っている?」っつー質問になっちゃうんだぜ?どーすんだよシゲル』

『さ…サートシ君が真面目で且つ最もな事を言った…!?…やばいよ今日こっち絶対雪が降るって。ナギサシティに大雪注意報だよ!』

『ひでぇ!俺だってたまには真面目でかつ最もな事だって言うぞ!?そうだろピカチュウ!』

『……………ピーカ(視線を逸す』

『ピカチュウ!?』








確かにサトシの言う通りだ

本来なら向こうにとっては嬉しい知らせで、喜ばしい話だ

二人の話、及び集会の時に話を聞いた限りでは、皆してミリの名前を忘れていた。顔や容姿、性格や想い出を思い出したとしても、一番知りたい名前が全然思い出せなかった

悔しさや悲しい、そして憤り

彼らが言う"仲間"や"友達"、そして"親友"だった関係なら尚更一番知りたい




なんとしてでも思い出したい




気持ちは分からなくも無かった








――――…でも










「…悪いが、今は教えられない」

『やっぱ何か、あるんだね?』

「今こっちで盲目の聖蝶姫と聖蝶の舞姫を調べている。教えられない、というよりも…今は何も答えられない」

「とにかく二人は今の事だけを考えてくれ。…それにサトシ、お前リーグ大会に出るんだろ?期待してるぜ、悔いのない戦いをしてこいよ!」

『あぁ!もちろんだぜレッド兄さん!俺、絶対シンジに勝って優勝するぜ!な、ピカチュウ!』

『ピッカ!』







その時、『サトシー!お孫さーん!』『ポチャポチャ〜!』と二人の名を呼ぶ声が聞こえた

声からして女の子。この声が噂のヒカリという少女だとすぐに気付いた(お孫さんはシゲルの事だろう)


そろそろ切ろう、とグリーンが言った








「とにかくそういう事だ。何か分かった時、お前らにまた連絡する。電波の届く所にいろよ」

『分かってるよ。もしミリさんと再会したら一緒に行動するようにお願いしとく。一緒に行動してれば僕やサトシにとって良い刺激にもなってくれるからね』

『ミリさんにリベンジして次こそは勝ってやるぜ!』

『ピッカ!』

「じゃあな三人共。ミリと再会したらよろしくなって伝えといてくれ」

『おう!じゃーなレッド兄さん!グリーンさん!』

『またね兄さん達。連絡待ってるから』

















―――…プツン………――












電話回線が切れた





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