シンオウ地方リーグ協会は北東に存在している。東にあるナギサシティを北に進む海域を通って行けば巨大な滝が聳え立ち、滝を越えれば険しいチャンピオンロードが行く手を阻む

ナギサの展望台にある望遠鏡から覗くリーグは寛大なものだ。勿論、足を踏み入れてみればそれ以上だ









「……―――つーわけなんだけどよぉ、トムさんも一緒に明日港に行くか?」

「いや、私は遠慮しておこう。二時と言えばお客が多く来店してくる時間帯だ。…それに私が行くよりも二人の方がいいに決まっているさ」

「そんなことないぜトムさん!向こうだって久々なトムさん見て喜んでくれるさ!」







ナギサシティにある喫茶店

喫茶店のカウンターにはオーバとデンジが座り、前には喫茶店オーナーでもあり元ナギサジムリーダーのトムがコップを磨いている

輝かしいナギサシティとはうってかわり、落ち着いた雰囲気を持つ喫茶店だ。この店自慢のココアは老若男女問わず人気を呼んでいる







「喜んでくれる、か…けど来るのは聖蝶の舞姫だろ?トウガンから聞いたが、盲目の聖蝶姫は聖蝶の舞姫に違いないが彼女は私達を知らないと言われたそうじゃないか」

「それは違う。言ったのは本人じゃない、あっち側のジムリーダー達だ。…アイツは俺達を忘れちゃいない」

「けれど断固として言われたなら、少なくとも本当の事だ。嘘を言って向こうの得になる事は考えにくい。デンジ、お前聞いたぞ?言い合いになりかけたって。全ては会ってからだ、一々頭にきてたらキリがないぞ」

「…………」

「オーバ、お前も鉄壁の剛腕に掴み掛かったらしいな。…一番混乱していたのは彼だったんだろうな。しかし騒ぐ事なく冷静にその場を納めようとした計らいは流石だな。お前も少しは見習え」

「あー……」






足元にいる自分の相棒のヘルガーを一撫でしながらトムは言う。その場に居ないのにも関わらず冷静に分析をし、的を得た言葉、それでいて二人に注意する彼に二人はぐうの言葉も出せない

眉間に皺を寄せコーヒーを口に含めるデンジと、ブスッとした表情で同じくコーヒーを飲むオーバを見てトムはやれやれと肩を落とす







「全く…お前ら二人は彼女の事になるとどうしようもないな」

「「…………」」







トムという男は元ジムリーダーであり、ハンターでもあったが、何故三人がこうして仲良く(仲良く?)和気藹々(和気藹々?)していられるのかは置いておこう

二人にとってトムという男は、幼少の自分にとっては最大の敵だったが、今となれば良き仲間でもあり良き相談相手でもある。トムも長年二人の姿を見てきた為、息子同然と言ってもいい

勿論、彼女も






「それにお前ら二人の言いたい事は分かる。その気持ちは二人だけじゃない。この事はまだ民間に知らされていないからまだいいが…そんな事聞けば回りは黙っていないはずだ」







伊達に元ジムリーダーを務めたわけじゃない

サングラスがキラリと鋭く輝いた







「警察や特捜部が動き出す話を聞くが、実際はどうなっている?」

「あぁ…特定出来る人物はもう把握できたから、大掛かりな捜索は取り消しになった」

「その方がいい。警察沙汰にもなれば大変な事が起こる。…既にマスコミは彼女を書いている。それだけでも十分なのに警察まで絡んだらスズラン大会所じゃなくなる」







これを見ろ、とトムはカウンターに一冊の雑誌を置いた

手に取ったのはデンジだった。訝しげに雑誌の表を見てみると、ニュースやトレーナーの情報が書いてあるただの週刊誌だ。これが何だ?とデンジは目線で問うが、トムは答えないでコップを磨き始める

二人は目線を合わせ、雑誌を見る。デンジはペラペラと雑誌を捲り始め、オーバは隣りで雑誌を覗く


そして、ある一ページを捲った







「これは…」

「アイツの記事か…」






大きく、しかもカラーページにどでかく書かれている、ソレ

盲目の聖蝶姫の事が事細かく記載されている記事だ

一枚の写真はシンオウ現チャンピオンと一緒に映る写真に、二枚目はホウエンチャンピオンとしてチャンピオンマントを羽織っている姿。それからちらほらと彼女の手持ち達が映っている

こんな記事なんて、今に始まった所じゃない。昔なんて普通にあったし、最近なんて良く目にしている。これが一体どうしたんだ?と二人はトムに目線を送ると、分からないのか?と逆に返させられた







「その記事は一週間前に発刊された物だ」

「確かに日付見りゃ一週間前のモンだが…トムさん、これが一体何なんだよ?」

「………。やはり二人にはアイツがいないと駄目か…」

「おい、何でそこに奴が出るんだよ奴が」






奴、アイツとは一体誰なのか


トムは話を進めた






「考えろ。その週刊誌は一週間前に発刊している。今こっちに向かっているはずのナギサ着便は丁度一週間前にナギサを出港している。ナギサに向かう今の便はスズラン大会を目的とした、シンオウの事を知らない観光客ばかりだ。勿論、船の中暇を持て余したいと思う奴等はいる。この週刊誌は船が出航される前に発売されている」

「…この週刊誌、確かガイドブックにもなっていたな。とすると…ナギサを出発した船がクチバに着いて、クチバからその船がナギサまで出港される。向こうにはこの週刊誌売られていないモノだから、シンオウを知ってもらうにはナギサを出港する前に週刊誌を購入…………っておいまさか!」

「あ!?おいデンジ最後まで言えよコラ!」

「デンジの言葉の続きを言わせてもらうが、つまり、だ……







彼女はこの週刊誌を見ている」

「!!!?」















×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -