「――それでカツラさん、私達は何をすれば宜しいのでしょうか?」 テレビ画面が消えた会議室 エリカはカツラに言う 「…エリカ君、まずは一旦解散してからだと言った筈だが」 「善は急げで御座いますわ。カツラさんが先程おっしゃいましたのは"私達"、つまりこの場にいる私達だけですわ。私達以外にも、今から捜査出来る者達がおります」 「君の優秀な部下達か…」 「私達はジムリーダーです。明日と明後日は休みが取れたとしてもジムリーダーとしての責務と職務があります。…任せて頂けませんか?」 「…ならそちらはミリ君、いや聖燐の舞姫の経歴をお願いしたい」 「分かりましたわ」 「おいカツラ。俺も調べてやってもいいぜ?俺もいるもんでな、…知り合いがよぉ。そっちが聖燐の舞姫ならこっちは盲目の聖蝶姫って事だな」 「あぁ、よろしく頼むマチス」 「カツラさん!俺達は…」 「君達はまず身体を休める事が先決だ。エリカ君もマチスもだ」 「わぁーってるって」 「カツラ、お前は?」 「こちらは知り合いと手を組んで色々と調べさせてもらう。マツバ君、君もだ」 「はい」 リーダー総出で調べるとはいえ、ジムリーダーはジムを運営しなければならない。いくらトレーナーがジム戦に来なくても仕事はちゃんとあるのだ 名乗りをあげたエリカはともかく、マチスの知り合いは当時ロケット団だった部下だ。情報に強い人間もいる ジムリーダー全員で動けば民間人は一体何があったのかと不安を煽る事になりかねない。それにやはり寝不足や疲労が足を引っ張ってしまっている。時間があるにしても、ここは早急に手を打って真相を追求したいところ 「マツバさん」 「…何も言わなくていい。その顔は『何であの時俺の言葉を遮ったのか?』だろ?」 「あぁ、そうだ。あの人は、ゴウキさんは三強としてミリと一緒にいたんだ。向こうの皆が信じてくれる人間はゴウキさんしかいないのに…」 「それが逆に混乱を招くのさ」 「混乱?」 「…それは、つまり…一番身近にいたのに何で気付かなかったんだ。そういう事ですか?」 「……気付いているかは分らないけど、彼らが盲目の聖蝶姫に対する何かが尋常じゃない。純粋に彼女の安否が知りたいのか、それとも別の目的があるのか…。その中でゴウキさんの名前を出して向こうの仲がもつれても困るからね。ゴウキさんも彼女の事を調べているからあまりあちらに刺激を与えたくなかったのさ」 「妥当な判断よ。あれ以上刺激を与えたら手に負えなくなってしまう」 ゴウキが"気"を視れる様に、マツバも"オーラ"が視える 勿論ナツメも例外じゃない。不思議な力を使える者にしか分からない事もある 回りの人には視えなかった者も、二人は視て、感じていた。だからこそマツバはこれ以上刺激を与えない様にした。結果、なんとか穏便に話が進んだからよかったものを… 「でもカツラさん、あんな状況でよく言ってくれましたね。此所で一番言えるのはカツラさんしかいませんでしたよ!」 「そうだな。やはりベテランは違う」 「さっきのカツラさんめっちゃかっこよかったわ〜!」 「改めて尊敬しました!」 「しかし軟禁は無いんじゃないか…?」 「さらりと言ったカツラさんが末恐ろしく感じました…」 口々にカツラの行動を褒めたたえる皆(中には畏怖の言葉も聞こえたがカツラは気にしない事にした カツラは顎に手を当て、真剣な顔で黙っていた。様子に気付いたグリーンがどうしたと問い掛けると、カツラは顔を上げて皆に視線を向けた 「………皆に話しておきたい事がある。彼女の事について言わなくちゃならない事がある」 「!カツラさん、それは…!」 「…しょうがない事だ。彼女を調べる前に、まず彼女を知ってもらわなきゃならない。いつかそれが壁となってぶち当たってくるからね。それに皆知っておけば色々と配慮してくれる。…彼女には悪いけど、分かってくれるはずだ」 「………………」 「何か問題があるのか?」 「重大な話だ。そして彼女の闇でもある。――他言は許されない。彼女を調べていくとぶつかる壁だ。――その事を分かった上で聞いてほしい。彼女は…―――」 * * * * * * 「ゴウキさん…アンタ一体どういうつもりなんだよ」 一方その頃 シンオウリーグ協会、会議室では 「…どう、とは何だ?」 「さっきのレッド君の言葉を、俺達が分からない訳がない。アンタ、数ヶ月前まで行ってたんだろ?―――カントーに」 「……………」 「しかも一緒にもいたんだってなぁ…ゴウキさん。いくらアンタでも俺達黙っちゃいねーよ」 「それにゴウキ、君は集会が始まる前珍しく様子がおかしかった。…チャンピオン達が彼女の話をした、まさにその時だ」 「あの後すぐに集会が始まったけど、休憩時間に誰かと連絡していたの、私見ましたよ」 「ゴウキさん、ミリとどういう関係なんだ?」 あくまでも冷静にゴウキに詰め寄るシンオウジムリーダー達 ある者達なんか、ゴウキの胸倉を掴んでもおかしくない程にゴウキを睨み付けている 部屋の中は先程より沈黙で、何処か寒気さえも感じさせた。けれどゴウキはその空気をもろともせず、資料を纏め上げてガタリと立ち上がった 「舞姫との関係はただ一つ。…アイツは俺にとって大切な仲間だ。それ以上答えるつもりは無い」 「なら何故、今まで黙っていたんですか!」 「黙っている?言うつもりは毛頭無い。お前達が探しているのは盲目の聖蝶姫だ、聖燐の舞姫ではない」 「だけどアンタの隣りにはミリがいた!」 「勘違いしないでもらいたい。俺は聖燐の舞姫としてのアイツを知っている。しかしお前らがいう盲目の聖蝶姫は俺は知らん」 「テメェ…ぬけぬけと!」 「オーバさん落ち着いて!」 今度こそ耐えきれなくなったオーバがゴウキの胸倉を掴んだ。ヒョウタが慌ててオーバを止めようとするが、トウガンがヒョウタを止めた。やらせてやれ、トウガンが視線を向けヒョウタはしょうがなく二人を見守る事にする オーバに胸倉を掴まれたゴウキは、自分に睨み上げるオーバに構わず溜め息を吐く。カチンとオーバはキレるも、その前にゴウキの手がオーバの腕を掴んだ。ギリギリと、剛腕の手に強く掴まれた力に、オーバは眉を潜めた 「それからお前達はもう一つ勘違いしている」 「っ!」 「…混乱しているのは、お前達だけじゃない」 「……………!」 胸倉を掴む力が抜け、オーバの手が離れる。ゴウキも手を放してやる。茶色の手袋から受けたオーバの腕は真っ赤に跡がついていた。それほど強い力で握っていたのが見て取れた。痛そう…と何処からかそんな声が呟かれた 胸倉を整えたゴウキはさも普通にオーバを見て、全員を見回した。資料を手に持ち、席を離れて扉に向かった 「…あ!ちょっとゴウキさん!?」 「これから盗難の調査に戻る。それから俺はお前らの行動に加わらない。外させてもらう」 「「「「「!!!」」」」」 「……それは、何故?」 「俺は俺で、"俺達"で舞姫の事を調べる」 「"俺達"…?君はあちら側のジムリーダー達と調べるつもりか?」 「カツラとマツバがいれば確かに俺はあちら側だろう。カツラもマツバも舞姫と縁がある。…仲間として、だ」 後、もう一つ言っておこう。と鋭い灰色の眼が全員を貫いた 「先程カツラが言う通り、お前らが舞姫を見つけ次第捕らえるのは目に見えている。安全面と騒動回避ならば俺は何も言わん。けれどカツラの言った通りだ、もし舞姫を泣かせたり悲しませたなどしてみれば…」 「…みれば…?」 「俺の拳が唸るか自宅にゴクリンが届く」 「「「(何故ゴクリン…!!!??)」」」 そしてゴウキは最後にこう言った 容赦はしない、と (さぁ、物語は進んでいく) |