ミリの歳は17だ



10人中10人が彼女の事を美しいと言うくらい、魅力ある容姿をしている。身長が高くスラッとしていて、それでいて胸もあり腰がキュッ細くて尻もかっこよく上がっている。オレンジの服から覗く陶器の様な白く、きめ細かな肌は日焼けを知らない。彼女の顔立ちも綺麗で、それでいて艶やかな一面も持ち合わせている。絶世の美少女、まさに彼女の事を言う

見た目で判断すれば彼女は二十歳以上。彼女から醸し出す大人びいた雰囲気からも、初対面の人は必ずと言ってよい程彼女を"大人"と分類する。口も開けば言う言葉も大人びいている為、歳さえ言わなければ誰一人として気付かないはず



だがしかし、彼女は17歳







「そういえば確かにミリは17歳だったわ!聞いた時はびっくりしたわよ〜!」

「うちもうちも!あの時はびっくりさせてもろーたわ!年齢詐欺しとんやないかってツッコミしたら……怖かった」

「怖かった!?」

「軽く殺意が芽生えるって言ったミリが恐ろしく感じた」

「そういえばアイツに酒勧めたら未成年だから無理だって断られたのを思い出したぜ」

「未成年以前に酒を勧めるな」

『………それは、本当なの?』

「あぁ。アイツのトレーナーカードに書いてあったし」

『…あの子一人だけ老けていないとか羨ましいじゃないの…!』

『シロナさん落ち着いて!』






うきぃいいッ!と荒れ出すシロナを落ち着かせようとするダイゴ

流石に六年という歳月は女にとっては死活問題。女性群は「羨ましい!」だの「ありえない!」だの色々と騒いでいた


それだけじゃない、とレッドは言った






「アイツ、さっきも言ったけど今日がシンオウ出発日だったんだ。俺達何度か会っていたけど…シンオウに行くの、すっげー楽しみにしていた」

『『『『『『!!!?』』』』』』

「それにサトシが言っていた。『ミリさんにシンオウで友達はいるのか?』って。俺はそのまんまミリに質問してやったけど…答えは『知らない』。『初めてシンオウ行く自分に向こうの友達なんていないよ』って…笑って言っていた」






レッドはサトシが言いたかった理由が今になってやっと理解した

サトシはきっと旅の途中で盲目の聖蝶姫の存在を知った。それで顔も見たに違いない。だからこそサトシは聞きたかったんだろう。遠回しに聞いてきたのはきっとシゲルが混乱が起きないようにという彼なりの配慮だった



そしてもう一つ、と今度はグリーンが名乗りを上げた






「俺は六年前活躍して行方不明になった盲目の聖蝶姫の存在を知っていた。顔は知らなかったがバトル戦法は噂で聞いていた。…勿論、戦っていて一番よく分かったさ。ミリのバトルには隙が無く、それでいて指示とは別に攻撃し、また…まるで背中に目がある様な躱し方…。そして俺は言った、『お前は盲目の聖蝶姫なのか?』と」






それから改めて言った



お前は一体何者なんだ、と






「…だけどアイツは『違う』と言った。『ポケモンマスター目指している私が、ポケモンマスターの盲目の聖蝶姫なんかじゃない』―――と、はっきりと確かにそう言っていた」












『嘘だな』









デンジが言った







『アイツが俺達を忘れているだと?ハッ!…面白い嘘だ、笑わせてくれる。……だけど胸糞悪い。嘘も大概にしやがれ、トキワジムリーダー。アイツは、ミリは…俺達を絶対に忘れたりなんてしない奴だ!』






ガッ!とデンジは机を強く叩いた。鈍い音が響き渡り、机を揺らした

今まで冷静に、そして静かに話を聞いていた彼だったが、憤りを露にする珍しい姿にオーバを始め、シンオウ側の者達は驚きの表情を見せる


グリーンもデンジの反応に驚き、目を見張るもすぐにキッとデンジを睨み上げた






「残念だが、嘘じゃない。アイツは確かに俺達にそう言っていた。…そうだろ?レッド」

「あぁ、言っていたぜ?恐れ多い、そんな事も言っていた」

『どうだか。それも嘘だな。忘れたなんて言わせねぇ…アイツは隠してんじゃないのか?』

「ミリは嘘つく様な奴じゃない!こっちの皆はミリが嘘つく奴じゃないっての、全員知ってる。それに、そっちにミリが嘘をつかない人間だって証明出来る人がいる!」

『『『『!!!??』』』』

『…………』

「そうだろ?だってアンタはミリの…「レッド君!」






言葉を遮ったのはマツバだった

立ち上がらんとするレッドの肩を掴み、グイッとレッドを席に座らせる。肩を掴む手の力は強く、何処か切羽詰まったマツバにびっくりするもすぐにムッと表情を変え抗議の声を上げようとしたが―――ポンと、レッドの頭に誰かの手が置かれた

横を振り向けば自分の頭に手を置いたのはカツラだった。そしてレッドは口を詰むんだ。サングラスの下から、何も言ってはいけないと、鋭い視線がレッドを突き刺した






「一度冷静になるんだレッド君。…それからデンジ、君もだ」

『チッ…』

「でもこれだけは言っておく。僕は一ヶ月間ミリちゃんと一緒に住んだ事があるけど、彼女は嘘は絶対に付かなかった。シンオウの事もホウエンの事は何一つ言っていなかった。僕の眼が正しければ、ミリちゃんはシンオウやホウエンの事について何も知らない」

「決断を下すのはまだ早い。そちらがミリ君が盲目の聖蝶姫だと断言しても、こちらとしては釈然が付かない」

『こんなに証拠があるのにまだそんな事言っちゃってんですか!?』

「私達は私達で聖燐の舞姫のミリ君を知っている。いきなり彼女がポケモンマスターだったという証明があってもにわかに信じられないのが私の本音だ」

『言いたい事はよく分かりました、カツラさん。それで貴方は、いえ皆さんはどうしたら信じてくれますか?彼女が、ミリが…盲目の聖蝶姫だという真実を』

「……時間が欲しい」

『時間、ですか』

「そちらから受け取ったこの聖蝶姫に関する資料とミリ君の個人情報等を照らし合わせ、彼女"達"の身分を明らかにする。正直言って聖燐の舞姫は謎が多い所がある。聞かなかった事もあるし、気にしなかった事もある。洗いざらいに調べれば…聖燐の舞姫の事、それから盲目の聖蝶姫の事がもっと分かるかも知れない」

『…………』

「(!…流石、カツラさんだ)」










ホウエンとシンオウは互いに時間が必要としている時期だ


ホウエン代表ダイゴはともかく、シンオウ地方はスズラン大会を控えている。四天王やチャンピオンはリーグ大会の仕事に忙しなく勤め、ジムリーダー達はジム戦。そこを突いて、向こう側が出来ない事をこちら側が変わりに調べあげる


その間、小さな可能性でもいい


彼女が、彼女じゃない可能性を









『…ダイゴ、どうする?』

『此所は彼らに任せてみよう。…誰でもいきなり言われたら信じられない所があるからね、信じてもらうには自分達で調べてもらってからの方がいい』

『そうね。その方がいいわ』

「決まったみたいで良かった。我々ジムリーダー総出で彼女の事を調べる。…皆、異存は無いか?」







カツラの問い掛けに、全員はそれぞれ反応を返す

どれもこれも答えは『無し』

カツラは再び口を開いた








「その代わり、約束をしてほしい」

『…約束?』

「君達が盲目の聖蝶姫を大切にしているのと同じで、我々も聖燐の舞姫を親しみ、大切にしている」

『…手荒な真似はするな、という事か』

「君達はシンオウに着いた彼女を見つけ次第捕らえるのは目に見えている。その事について私は何も言わない。彼女はマイペースがあってフラッと消える所があるから目の先に置いておいてもらいたいのもある。…実際に彼女、ちょっとした理由があってポケギア所持していないからね、今」








ぶちキレてポケギアがシロガネヤマのお空に消えただなんて口が裂けても言えない







「もし軟禁したとしても彼女の尊厳を守って、彼女の意志を尊重してほしい。彼女はシンオウに行くのをすごく楽しみにしていた。その気持ちをこちらの身勝手で壊したくない。――……そしてもし、彼女を傷つけたり泣かせたりなんてしてみせれば…」

『分かっている。そんな事はさせない。――――いや、させるわけがない』

『約束します。絶対に』

「なら私から言う言葉は無い」







敢えて言うなら一つ、とカツラは続ける







「お互い、この集会でほとほと参っているのは事実。そっちも疲れて寝不足な人が多いだろ?……まずは全員が日頃の疲れを癒してから事に乗りだそうじゃないか。話はそれからだ」

『――――では、丁度時間にもなりましたのでカントー代表のお言葉を最後として、「北東西南地方リーグ集会」を終了させていただきます。つきましては…―――』










長い集会が、終わった





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