嫌な予感がした

何かが起こる、そんな予感が船がシンオウに進むに連れてソレは急激に膨れ上がっていく





「ブイブイ〜」

「ブーイブイブイ〜」





自室にあるフカフカベッドでコロコロと楽しそうに転がってはケラケラと笑う白亜と黒恋

先程美味しいデザートを食べたからお腹も満たされて元気いっぱい、といったところか






「…」

《まだかな〜、シンオウ》

《Zzz…》






ベッドを背も垂れにして蒼華と刹那が座り、刹那の頭に時杜が乗る

蒼華は小さな窓から見える景色を見つめている。刹那はお腹が満たされたのか気持ち良さそうに寝息を立てながら眠っていて、その刹那の頭にはシンオウ到着をまだかまだかと待ち遠しくしている時杜がいた





船に乗り込んでから、早くも三時間を過ぎた





船の探索、他のトレーナーと談笑、美味しそうなデザートバイキング、そしてバトル

船の旅を満喫していたミリだったが、どうにも己に浮上する嫌な予感が頭から離れては消えない。初めての船旅で喜ぶポケモン達を微笑ましいのだがどうにもこの予感は消えさせる事が出来ないでいた

部屋にやってきたウエイターの入れた紅茶を優雅に飲む動作には何も違和感を感じさせないのだが、その思考は様々に駆け巡らせていた





「―――…………」





カタリとカップをソーサーに置き、ミリはふぅ、と息を吐く

それからミリは一冊の雑誌を手に取り、パラパラと捲り出した。この雑誌は部屋に入る前に別のウエイターが渡してくれた物で、暇つぶしにシンオウの事を知ってもらえる為にとの配慮をしてもらっていた。少々厚めの雑誌、確かに暇つぶしにはもってこいだった




刹那の頭から離れ、隣りに飛んできた時杜を視界に入れながらミリはページを捲っていく

ペラリ、一枚のページを捲った時だった






「……これは………」









* * * * * *












会議室が沈黙に包まれた

此所にいる者全員が唖然とし、茫然とし、驚愕した





「…う、そ…だろ…?」





改めて配られた資料

テレビ画面が様々なデータを映し出す




経歴
手持ちメンバー
バトルシーン
画像写真....




一人の少女が映っていた

オレンジのコートを羽織った、美しい少女

少女は盲目でありながら、強者だった



コンテストマスターであり、チャンピオンでもあり、ポケモンマスター







――――彼女の異名は"盲目の聖蝶姫"



彼女の名前は ……―――







『―――……記録が不十分なのは…シンオウリーグの資料室に保管してあった資料や記録、そしてビデオテープが何者かに盗まれてしまっていたの。予想外だったわ…今、誰が何の目的で盗み出したのかゴウキを中心に捜索しています』

『盗まれた物は彼女に関連しているもの全てです。こちらの資料室は私達が普通に入れる所とシンオウリーグ幹部以上の者、もしくは本部関係者の者でしか足を踏み入れてはいけない所があります。誤算でした…まさか全てを盗まれてしまうとは…』

『あの子の個人情報は残念ながら見つける事が出来なかった…その他の資料は知り合いから拝借させてもらったわ。勿論本部にはあの子の事は伝えてある…直に本部から連絡が来ると思うわ』

『僕らは本格的に捜索に乗り出すつもりでいた。六年前、忽然と行方を眩ましていた彼女を―――ミリを』








その為にも、この集会で、この場で、皆の手を借りたいと思っていた、とダイゴは続けた



それからシンオウ側の皆は口々に彼女と自分の関係を言い始める

大切な仲間、大切な親友、大切な先輩、尊敬する人、大切な人…

なのに彼ら全員、彼女の名前を忘れていた。六年の長い歳月は、記録を風化していき、記憶をも風化していった

顔を思い出せても、名前が分からない


でも、今ははっきりと……










「……間違いなくこの写真に写っているのはミリ本人よ」

「あぁ。こんな上玉な女は世の中探し回ってもいねぇし…何より似過ぎていやがる」

「スイクン、セレビィ、ミュウツー。…アイツの手持ちに確かに存在している」

「オレンジの服を着ている辺り、ミリさん本人には間違いないです」

「けどミリは――…盲目じゃないわ」








盲目の聖蝶姫と聖蝶の舞姫との違い


―――それは、"盲目"








『聖燐の舞姫…そう、あの子はそっちでそう呼ばれているのね…』

「…カスミが言う通り、ミリさんとこの人の違いは盲目であるか無いか。…皆さんはミリさんを…いや、聖燐の舞姫を盲目の聖蝶姫だと断言出来るんですか?」

『えぇ、勿論よ。私達はあの子を絶対に見間違えないわ』

『その人はミリさん!聖燐の舞姫は…盲目の聖蝶姫です!』






確かな確信があって言うシロナとスズナの声色には迷いはない

テレビ画面に写るあちら側の皆は全員真面目な顔で、そして真剣な顔をしていた。話を聞く程、盲目の聖蝶姫はよほど慕われ愛されていたのが彼らの姿で良く見て取れた。捜し出したい、見つけ出したい――ひしひしと、ソレを感じさせていた






『先輩はある事がきっかけで盲目になってしまったみたいなんですが、視力は回復出来るから大丈夫だって、僕に言ってくれました。アレから数年も経っています。あの言葉が本当なら…先輩は、聖燐の舞姫で間違いはありません』

『師匠は盲目でありながらも武道の達人でした。滑らせる様にしたたかに相手を倒す戦法を駆使します。聖燐の舞姫が武道をして、その戦法を使っているのなら…間違いありません』

「「「「「……………」」」」」

『先程のバトルレコーダーにあったバトルを見てもらえたら分かる通りだ。既に彼女とバトルを経験しているなら…分かる筈だ。彼女のポケモンは指示無しで動き、しかも彼らポケモンの動きがまるで攻撃を見切ったかの様に………彼女を、いや…彼女達を倒した者はまだ誰一人としていない』

『水色のスイクン、紅色のセレビィ、緑色のミュウツー。白色と黒色のイーブイは知らないが、アイツを証明出来るポケモンがさっきの写真に写っていた。アイツは常日頃からあの三匹をボールから出していた。…アイツに間違いない』






ヒョウタ、スモモ、トウガン、デンジの言葉に妙に納得出来る所があった

ヒョウタの言い分は別として、スモモの言い分にシジマは納得出来た。武道をする者、相手を知るにはまず拳を交えるのが流儀だ。シジマもミリと何度か拳を交えた事があるが、確かにミリは柔の使い手だ。ミリは相手の攻撃を利用した攻撃を得意とする。自己流とはいえ、目を張るものだった

デンジの言い分については皆様々な反応だった。全員、白色と黒色のイーブイの存在は知っている。ジョウトメンバーなんてその二匹でバトルを挑まれている。けれど、一部の者以外は後の三匹の事については知らなかったと言っても良かった。まさか伝説で、幻も、しかも色違いで存在していて、彼女の手持ちにいただなんて…驚きを隠せない


それに比べてトウガンの言い分には全員が納得した。彼女とバトルしたジム戦で感じた違和感は、確かにトウガンが言う事そのもので、あの戦法で負けたと言っても良かった。勿論、あの二匹の特殊能力もそうなのだが―――盲目の聖蝶姫は、確かに彼女と同じバトルをしていたのだから









誰もが皆、聖燐の舞姫であるミリは―――盲目の聖蝶姫だと信じざるおえなかった













「あのさ…ちょっといいか?」











沈黙広がる会議室の中で、レッドが恐る恐ると名乗りをあげる






『何かしら?レッド君』

「聞きたい事があるんだけど…盲目の聖蝶姫って、今何歳なんだ?」

『俺とデンジと同じ23になるぜ』

「へぇー、オーバさんとデンジさんは23歳なんだ。…なぁ、グリーン。俺さ、話がおかしいと思うんだけどお前もそう思わないか?」

「…あぁ、俺も今の台詞で確かな疑問が浮上した」

『?疑問?』

「レッド、グリーン。疑問って何だ?」

「おいおい皆よーく考えてみろよ!あれ?もしかしたら知らないのか?







 ミリの奴、まだ17だぜ?」









あ、と誰かが呟いた





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