「――――……まさかこんな時に限ってそんな事が…想定外だ」

「とにかくこの集会を終わらせたら手を打たなくちゃいけない。しかも穏便に」

「そうだ。話をこじれさせない為にも…向こうに無駄な刺激を与えない様にしないと」

「あぁ…僕の予感もあながち間違ってはいなかった。ナツメも口には出さなかったけど薄々感じているみたいだから…」






カツカツと靴の音をならし、足速に会議室まで歩を進めるカツラとマツバ

先程この十分間の短い休憩時間を使って二人がトイレに向かった時、カツラのポケギアに一本の電話が入った


電話の相手に驚き、そしてその話の内容にも驚かされた。冷静で何事にも動じないはずの電話先の相手は珍しく焦っていて、このままでは大変な事が起こりかねないとも言っていた




―――とにかく、"彼ら"が"彼ら"に色々言う前に自分達がなんとかしなければ…








ガチャ…








「皆、すまないが少し話を……」



「あ!カツラさん丁度良かった!」
「マツバさん!アンタ一体何処行っていたんや!?」
「レッドがシロナさんを泣かせた!」
「俺のせい!?」



「………カツラさん、残念だけど間に合わなかったみたいだ」

「…………」







事が上手く進むとは限らない

事態を最小限に、それが出来なくても自分達がフローしようとする前には既に事件は起きてしまっていた


二人の目線の先にあるのは、大型地デジテレビにジムリーダー達の姿。前方に群がる彼らジムリーダーはテレビに映る相手側のジムリーダー達に唖然とし騒然とし、驚愕していた。それもそうだろう、――テレビに映る金髪の女性はその場に崩れ涙を流し、他の者達は表情を歓喜に崩していたり破顔していたりと…自分達はともかく、この場にいたこちら側の者達は全くもって理解出来ない事が起きていたのだから






『そうよ…あの子の名前、なんで今まで思い出せなかったのかしら…!』

『思い出せた。そうだ、彼女の名前は…っ』

『レッド君、君のお蔭で…大切な仲間の名前を、思い出せる事が出来た。礼を言う、ありがとう…!』

「え?あ、どうも…」







その場に崩れたシロナと、その彼女を支えるダイゴが震えながら呟き、他の皆も涙を堪えたり頭を押さえたりする中トウガンがレッドに御礼の言葉を述べば一体何故こうなったのか瞬時に理解した

レッドが、言ってしまったんだと

何がなんだか分からないといった表情で動揺するレッド。自分の発言で相手があんな反応を見せてしまえば誰だって動揺してしまうのはしょうがない。カツラは頭を押さえたかった。事が起き、この状態になってしまえばもう最小限に押さえる所じゃなくなった。

テレビの中にいる―――電話先の相手だったゴウキも、遅かったと表情が語っていたのが良く見えた。流石は地デジテレビといった所だろうか。とにかくこの場を何とかしようとマツバは群れの中に入って行き、その後をカツラも続いた






「一体何がどうしてこうなったんだ。…誰か説明をしてもらいたい」

「…先程、レッド君が…話の流れでミリさんの名前を出した途端、こうなって…」

「お、俺はただ…ミリがシンオウに行くからもし会ったらよろしくな、って言っただけなんだけど…」

「…レッドが一体何のタブーを言ったかは分からないが、これが現状だ」

「(なんて事を…)」






レッドとミリは仲が良い。それは話に聞いている。だからこそレッドは純粋に言ってしまったのだ

今の彼らには、ある意味火種を起こす言葉を







『―――聞きたい事がある』








テレビの画面に映る、金髪の青年デンジ

表情は堅く、でも濁っていたスカイブルーの瞳は歓喜に輝いている。今にも駆け出したいと見て取れた。デンジの問い掛けに全員は彼を注目した(ゴウキが眉間に皺を寄せていた






『名前だけだと本人かどうかは分からない。…誰かアイツの写真とか、持っていないか?』

「写真?写真なら…エリカ、アンタ今アレ持っていたりしているかしら?」

「えぇ、持っていますわ」

「Σ持ってんのかよ」

「勿論、お姉様のコレクションの発行は私達が指揮を取っておりますから。ファンクラブ会長のこの私に、その様なご要望なら叶えて差し上げますわ」

「Σファンクラブ!?あんのかそれ!?聞いてないぞ!」

「当たり前よー言ってないんだから。タマムシシティのファンクラブハウスなんて専らミリファンの溜まり場よ?ちなみにアタシが副会長だからそこんとこよろしく」

「ウチもミカンもイブキも入ってんで〜!ジョウトの女の子達は皆会員や!今ならもれなく超レアプロマイドカードが付いてくる!」

「「「「「……!!」」」」」

「…金持ちのやる事はハンパねぇな…」

「そうだな…」








そんな会話をまじえつつ、エリカは自分の席にある和風な形をチョイスしたエリカらしい小物バックを取りに行き、中から写真ケースを取り出す。その中から一枚を抜き取り、残りをバックの中に仕舞い込みテレビの前までゆったりとあるく

シンオウ側の皆が食いついてこちらを覗いている中、エリカは全員が見える様に写真を翳した




――――白色のロングワンピースの上に薄手の淡い黄色のカーデガンを羽織った女が、白と黒のイーブイの頭を撫でていた。その表情は優しくて綺麗で、撫でられているイーブイ達は嬉しそうに尻尾を振っては喜んでいた。誰もが見ても微笑ましく、それでいて写真に写る女はとても美しいの一言では終わりには出来ない魅力を秘めている。彼女の肩には赤色のセレビィ、彼女の背には水色のスイクンに隣りには緑色のミュウツーが……―――






『っ……!!』







デンジが、隣りにいたオーバが、シンオウ側の全員が息を飲んだ

(同時にマツバの目には歪んだオーラが見えた気がした)






『っ、その写真は何処で…?』

「…盗撮、をしていたストーカーから巻き上げたものです。皆さんも知っての通り、彼女は実力容姿共に完璧…一ヶ月前からストーカーが続出しだしていたのは調べで分かっていましたから」






彼女が道を歩くだけでも目を魅いてしまう容姿、それに加えて無敗の実力を持つ彼女を放っておかない奴はいない

最近、そう、まさにこの一ヶ月間…彼女の隣りに立つ巨大な壁が居なくなってから、ストーカーが激増した。ストーカーが激増すれば彼女に絡むチンピラやナンパも多く現れ、行く先々で彼女に猛烈アピールなんかをしでかしていた。本人はやはり熟練しているらしく、見事なスルーをしていた彼女はストーカーもチンピラもナンパも気にしていなかった

それが逆に相手側に火が付いたのは気付いていないだろう。エリカを始め関わりあったジムリーダーは互いに連絡しあって彼女を悪の牙から守ってきていたのだが…やはり自身に無自覚な彼女は一切気付いていなかった。良いんだか悪いんだか






「あのー、お嬢…そのストーカーから巻き上げた盗撮写真をなんでお嬢が持って…」

「タケシ、その様な疑問は無粋ですわよ。それとも…私のマダツボミのおうふくビンタを食らいたいのかしら?」

「すみませんでした」

「「「「(…………(汗))」」」」






疑問とツッコミは今此所でしてはいけない









「……とにかく皆席に着こう。話はそれからだ」

「もし良かったらそちらから話を伺いたい。…良いだろうか?」

『…どの道、この後君達に話すつもりでいた。是非とも聞いてほしい。僕達と、その写真に写る彼女の事を









――――"盲目の聖蝶姫"の事を』













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