「…ミカンちゃん…その皿の量は…」

「Σは!ミリさん…!?ここここ、これは違うんですッ!この量を食べたんじゃなくて…そう!コイルが食べたんですよ!けしてここの食堂のご飯が美味しくていつの間にかペロリしちゃうとかそんな事ありません…!」

「……や、どう考えてもコイルがこんな量を食べれるはずがないんだけど……まー今回は細かい事気にしないでおくよ」

「すみませんそうして下さい…」

「あはは。私もここの食堂一回来た事あるんだー!お腹も減った頃だし、私もご飯たーのもっ」














「…え、ミリさん」

「ん?どうかした?」

「あの…野菜だけ、ですか?」

「うん、大根サラダ。とっても美味しいよ〜」

「…足りるんですか?」

「足りる足りる!これだけでもお腹いっぱいだよ〜!」

「昼なんですからもっとガッツリいっても大丈夫そうなのに…お腹減りませんか?」

「大丈夫だよこれくらい!なんせ私、食べ物食べれなかったり食べ物すら無かった時なんて一か月軽々生きてこれたからねー」

「………………………、え?」







普通なら餓死してます


――――――――――
―――――――
――――















「あー…まだ寝たりないぜ…」

「あと一時間は欲しかった…」

「それくらい耐えろ。後数時間の我慢だ。後は幾らでも寝れるじゃないか」

「ゴウキさん…アンタ本当に超人だな…眠くないのかよ」

「僕らの眠気を分けてあげたいですよ…」

「そんなに眠いのなら俺直々のめざましビンタでも食らわせてやろうか?一瞬で目が覚める」

「「すみません起きます」」







午前11時15分頃、ホウエン地方代表とするチャンピオンのダイゴが参着した




予定よりいくばか過ぎてしまっていたが、特にこれといった問題は無く会議は再開された。会議室にいるメンバーは先程と同じシンオウのジムリーダー及び四天王とチャンピオン。先程の空き時間で仮眠をとっていたのか、皆の顔は数時間前より晴れやかだ。だがやはりまだ眠たいのか欠伸を噛み締めている者も中にはいた

暖かい暖房が効いている会議室で、しかも寝起きな彼らにはキツいモノがある。ゴウキの容赦ない言葉にオーバとリョウは四天王席でシュビッと背筋を伸ばす

一度食らったあの技はトラウマになる勢いだったと二人は言った(勿論他にも犠牲者はいるが









「―――…僕らホウエンの方もなんとか報告書が書けたから、集会の時に手渡せてもらう。それから……――――」






ダイゴが前に立って話を進めている。スーツ姿に身を包み、忙しい時期にも関わらず爽やかな印象を持たせる彼は相変わらずで、着々と話を進め、手元に用意してあった報告書をそれぞれに配っていく。彼ならではの手際良さに拍手さえも送りたくなってくる

流石は元ホウエンチャンピオンでもあり、デボンコーポレーションの御曹司。5までを10以上もこなしてしまう彼はまさに完璧人間。大誤算だかなんだかそんな言葉がちらつくが、今この場にいるダイゴは列記としたチャンピオン。微塵もそんな素振りさえもしなければ下手なミスさえも起こさない







「―――僕達ホウエンからは以上だ。資料は集会の時に読み上げるつもりでいる。勿論先に見てもらっても構わないからそこは個人の自由でお願いする」






爽やかな印象を与える笑顔で、ダイゴの話は終わる

ゴウキは受け取った資料を一枚捲り、文字を追う。そして流石だな、と口には出さずに心で零した。資料に記された内容は事細かく記載されてあり、一枚だけでもホウエンに何があったか詳しく理解が出来た。これら一つひとつの内容はホウエンのジムリーダーや四天王又は関係者の報告書だが、それを一つにまとめあげるダイゴの器量に舌を巻く






「…ダイゴさんって凄いですよね。確かデボンコーポレーションの副社長さんでしたっけ?御曹司で副社長で元チャンピオンだなんて物語にいそうな人ですね〜」

「だよなー。しかもよぉ、いつ見ても爽やかスマイル、泥一つも許さねぇ服に出来るオーラ……やっぱ慣れてる人は違うなぁ。どれだけ俺達がのうのうとしているのかを思い知らされちまうぜ」

「ですよねー」







大誤算な奴だなんて誰がそんな事を言っていたのか

…いや、そんな事を言った奴が一人いた。ゴウキの頭の中では「ダイゴ?あぁ…大誤算な奴か。そういやぁいたなそんな奴」と平然にコーヒー飲みながら言ってしまった人間がケタケタと笑っていた


ゴウキの中でも彼は歳が近いながらも目を見張る、凄腕トレーナーとして認めている相手。それは自分だけではなく他の者達も同じだった。隣りに座る二人は勿論、「流石ダイゴさん爽やかイケメンでカッコいい!惚れなおした!」とジムリーダー側から小さくも黄色い声が上がったのは気のせいじゃない








「―――…ダイゴさん、ありがとうございます。……さて、数時間後に行われますリーグ集会では、存じている通り、私達ジムリーダー及び四天王とチャンピオン以外にも、名誉あるナナカマド博士を始めとした北東西南代表の博士の方々がセキエイの方で発表が行われます。内容は今のところ耳に入っていませんが、集会にわざわざ出向いて下さるところを見れば重要な話だと思います。それから…―――」








ダイゴからバトルタッチをして司会進行役であるゴヨウが話を進める

ちらりと壁にある時計を見上げると時刻はもうじき12時を過ぎようとしている。この会議が終わったら昼休み、それから集会になるだろう。次の行動は既に把握済み。自分が集会で何をするかも認知済み。今日一日終われば、暫く何も仕事は無い(リーグ大会以外は)から、仲間と合流が出来る。それから、こちらにやってくる自分達の姫を迎えに行ってあげればいい





「(…そう簡単に事が進めれる様子は、どうやら無さそうだな…)」





薄々と、感じていた


何かが起きる、と



ゴウキの眼は相手の"気"が読める。感情の起伏、相手の実力、身体の容態など様々な変化を視る事が出来る。幼少の頃から修行に励み、培ってきた能力は衰えを知らず、相手を鋭く見抜く。視なくても身体で感じる事も可能で、彼の強さはこの力があってこその強さだと言ってもいい


今、彼の眼に映っているのは、当たり前だが目の前にある光景だ。四天王とジムリーダーは対面する形で席に座っている為、ゴウキの席からはジムリーダーの表情が手に取る様に分かる。真剣な顔、眠そうな顔、面倒くさそうな顔、疲れている顔など様々。"気"を視てもそれは同じで、集会の事でほとほと参っているのが良く分かる




―――ゴウキは違和感を感じていた




自分が兄を探しにカントーに行く前の彼らは、普通だった。そう、普通に。自分の知っている彼らは至って普通で元気で、気の流れも穏やかだった

けれど、今はどうだろうか

表情は変わりはないが、気が違っていた。普通の流れかと思いきや、急に不安定になる彼らの気。カントーから帰って来た時、最初は体調が悪い不安定なのか、と思っていた。が、どうやら違っていた。不安定は目に余るものまでなっていき――それは自分以外(その他数名)の全員が気の流れが不安定過ぎていた


特にナギサジムリーダーやシンオウチャンピオン、ホウエンチャンピオンが酷いものだった。ナギサジムリーダーのデンジのスカイブルーの瞳がどんよりと暗く濁っていたり、シンオウチャンピオンのシロナは普段とは違う弱々しい姿で四角い何かを持っていたり、ホウエンチャンピオンのダイゴなんて思い詰めた顔をしていたり……他にも沢山いたが、この三人が一番危なかった


一体、自分が不在していた間に何があったのか


……だからと言って自分があれこれ言える立場でもないし、言うつもりもない。彼らの問題なら彼らが解決をすればいい。自分は見守り、助けを求められたら快く手を差し伸べるまで。しかし気が視えるゴウキにとって不安定な気の中にいるのは正直言ってよろしくない

気が視えるからこそ視えてしまう相手の感情。しかも今回ばかりは流石に何も聞かないゴウキも原因解明したいところ







「…以上、私から言う言葉を終わらせて頂きます。後はチャンピオンの方々にお任せします。……シロナさん、ダイゴさん」

「あぁ」

「えぇ、ありがとうゴヨウ」








ゴウキは二人を視た

ゴヨウの言葉に席を立ち、前にでるシンオウとホウエンのチャンピオン達


―――先程まで落ち着いていた気の感情が、徐々に歪み、膨れ上がっていくのを、ゴウキは眉間に皺を寄せてその後ろ姿を見つめていた








「――――皆は、薄々勘づいていると思う。私達が、私達二人がこの集会で何をしようとしているのかを」








静かにシロナから出された言葉に、ジムリーダーはそれぞれシロナを見る

真剣な顔だった。隣りに座るオーバもリョウも、面倒くさそうな顔していたデンジも眠そうな顔していたナタネも、シロナの鶴の一声で姿勢を正した

一気に、空気が変わった







「―――あれから六年が経った。六年が経っても一向に彼女の存在は見つかるどころか…僕らは彼女の存在を忘れていた。そう…忘れて、しまっていた」

「あの子の存在を忘れて早六年…なのに半年前から、皆も口には出さないけど思い出してきているのは分かっているわ。私達も、他の皆さんも、ポケモン達も、全員…」

「リーグは動いてくれた。民間の方々も、警察も、動きだしてくれる。僕らの今日の行動で、彼女を全面的に探す事になる



―――そう、全地方で」








ゴウキは目を張った

ジムリーダーや四天王、チャンピオンの気が歪み不安定になっていく事態もそうだが……なにより彼らが言っていた"内容"そのものが、ゴウキを驚愕させた









「今度こそ、見つけましょう。あの子を、私達の大切な仲間を





……―――盲目の聖蝶姫を」







彼らが言う"彼女"、"あの子"…


それはまさに、今自分と仲間が探している情報そのものだったのだから








反乱が、動き出す





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