―――ポケモンリーグ協会、シンオウ支部





此所はシンオウ支部内にある会議室

只今この部屋では会議を開いているのか、中にいる進行を進める人間の声に、ペラリと所々で紙が捲られ擦られる音が小さく聞こえる

無駄にデカい大きな扉の中では、朝早くにも関わらず、シンオウ地方だけの最終会議を開いていた






「――――と、これが私達が提示する書類になります。前々から皆さんには書いて頂いたものを改めて確認させて貰っていました。これで最後の確認となりますが、また何が訂正箇所等はありますか?」






扉もデカければその中の会議室の広さもかなり広い

白色の長テーブルが横一列ずつに並んでいて、そこに座る人物達は書類を手に目の前に立ち司会役を進める男、ゴヨウの言葉を耳に傾ける

此所にはリーグ関係者であるシンオウ内のジムリーダー、そしてゴヨウを含める四天王とチャンピオンが会議の中に参着していた





「――…特に宜しい様ですね。既に幹部長にはお目を通して貰っています。訂正箇所が無かったらそのまま送ってもいいと許可を頂いておりますので、私がこの資料等をFAXでセキエイリーグに送っておきます。皆さん、此所までは宜しいでしょうか?」





ゴヨウの確認と問い掛けに、ジムリーダー達はそれぞれ返事や仕草で返し、最終決定者でもあるチャンピオンのシロナもヒラヒラと手を振る



今回のリーグ集会は、普段定期的に行われる会議とは全然違ってくる。初めての四地方(正式には三地方)での、合同集会。表向きは今後の活動や悪党迷惑集団についてだが、互いのリーグ協会との交流も含められ、互いの品定めにもなってくる。ジムリーダーや四天王の実力もそうだが、資料の一つ一つが彼らの業績にも繋がって行くのだ

リーグ協会側にとっては、いくら同じ協会同士だとしても自分の協会の方を有利に立ちたい。本部はまた別にしても、支部同士の冷戦は凄まじい。北と南は既に友好関係を築き、そういった壁は無くも、セキエイリーグはまた違ってくる。友好関係を築きたいのか自分達側を優先させたいという意図はともかくとして、上は彼らに相当なプレッシャーを掛けた事は事実である






「本日の午後の13時から北東西南のリーグ集会が行われます。11時頃にホウエンチャンピオンでもありホウエン代表のダイゴさんも此所に到着する予定です。…それから、例の件についてチャンピオンのお二方から話がありますので、またこの会議室に集合して下さい」






私からは以上です、そう言ってゴヨウは最後に一礼をする

その言葉を後にギィィィッ…、と重い扉が開いた。つまりその意味は会議は終了の合図であり、ガタリと椅子から立つ音が次々に響き渡った


























「ダハァァァ…俺マジで死にそう…」

「僕も死にそう…」

「………眠ぃ…」

「私も流石にキツいものが…」

「…僕も地下通路で迷った以上にキツいし眠い…」

「リングの上でキツくて激しい試合よりも精神的にキツいぞぉぉぉ…」






会議室とはまた違ったフロアで、彼等はソファーでグッタリとしていた

そこは所謂休憩室。日当たりの良い部屋にあり、リーグに勤めている人がゆったりと過ごせるルームになっている。しかもどっかのホテルのロビーにあるソファーと同じ物と言っても良い物が揃っていて、上質で座り心地が良く疲れた従業員を癒してくれる

勿論そんなソファーに、彼ら全員は沈み込む。それもそうだろう、幹部からのプレッシャー、そのお陰で資料の見直し等々の徹夜三昧、それに加えジムリーダー達はトレーナーの相手をしなければならない。もうじきリーグが行われる関係、どんどんジム戦を申込むトレーナーが後を絶たない。しょうがないとはいえ、確実に彼らの疲労は蓄積されていくばかりだ






「おい…今何時だ?」

「10時ちょっと過ぎてますよ」

「あー…少し俺寝るわ。時間になったら起こしてくれ」

「えー!?そりゃないよデンジさん!自分だけ寝るってないっしょ!僕も仮眠とりたい!」

「俺も寝るわ。後はよろしく」

「僕も寝るね」

「あー…私も寝かせてもらう」

「すまん、俺も寝る」

「酷っ!?」






そんな疲労三昧な身体に高級並ソファーは至福の一時。眠るなと言われて眠らないわけが無い。今の彼らにそんな言葉は鬼畜以外何物でもない

相当なハードスケジュールだったんだろう。ソファーにのめり込む彼らの目の下にはうっすらと隈さえも見え隠れしている。降り懸かる睡魔にこんにちわ仕掛けている彼らにはリョウの咎めの言葉など耳には入らない。どこぞののび太君みたいに数秒も経てば、彼らから小さくも確実ないびきが聞こえ始めてきた

僕も仮眠したいのに皆酷い!といくら抗議しても、結局相手は先輩や上司だ。勿論ジムリーダーや四天王にも上下関係は付いて回るもので、リョウは泣く泣く恨めしそうに気持ち良く眠る彼らを横目で見るしかない


―――その時、リョウの前に嬉しくも救世主が現れた








「―――…よほど疲れていたのだな。最近色々あったから致し方無い」

「ゴウキさん!」





休憩室に入って来た一人の男、ゴウキ

ソファーで沈み込む様に眠る彼らを一瞥し、自分も空いているソファーに腰を降ろした。手に持っているのは先程会議に渡された資料で、茶色の手袋をハメた手で器用にも捲りながらリョウに言う





「眠いならお前も寝るが良い。時間になったら起こしてやる」

「え、良いんですか?ゴウキさんだって眠いはずじゃ…」

「この者達や他のリーダーや四天王と比べれば全然平気だ。俺は俺でやる事がある」

「あー、ならお言葉に甘えて仮眠取らせてもらいますね!…ふぁぁぁっ…眠…おやすみなさいゴウキさん」





そう言ってリョウもまた睡魔君とこんにちわと挨拶をし、夢の旅へと旅立って行ったのだった

瞳を閉じてソファーに身を預ければすぐに寝息を立てたリョウを一瞥したゴウキは、また視線を資料に向けた










元々ゴウキという男は【鉄壁の剛腕】と名高きポケモントレーナーでありながら、シホウイン道場の副師範代、警察学校の武術師範でもあった

トレーナーとしての才が認められ、【鉄壁の剛腕】としてシンオウに知れ渡ったのは約十年も前。彼がカントーからシンオウへ拠点を移した時から彼の偉業は止まる事を知らない。幼少の頃から学んできた武道の才も秀でていたのもあり、彼の活躍でシホウインの名も轟いたのもまた事実。彼もまた、シンオウに貢献し活躍した者の一人で、今となれば彼の名を知らない人間は誰もいないと言われている

シホウイン道場は一般の生徒を門下生とし、日々鍛練と指導を行なう中でも、一般に言う警察学校の武術や武道も指導をこなしていた。シホウイン道場の指導をゴウキの母であるアンナ、警察の指導をゴウキへとそれぞれ師範と名乗って鍛練を勤しんでいた。勿論、彼らを尊敬する者達は後を絶たず、違う道場でも指導を受けたいと懇願する者さえもいる。その為、代表としてゴウキが直々に指導をこなす事となっていき、いつしか日々の日課になりつつもあった




そんなゴウキが何故四天王に居るのかと言えば、答えは簡単。四天王の一人だったキクノの跡埋めだ


半年程前、キクノの体調が悪化し療養する事になってしまった。キクノはもう高齢な為、そういった体調に左右されやすくなっていく。きっと日々の疲れがどっと出てしまったのだろう。療養する、と言う事は暫くの間四天王の席を空ける事になる。実際に空けていてもさほど問題は無いのだが、協会側はやはり全員が揃っていないといけない…つまり世間の目を気にした協会はキクノの代理を誰か一人見つける事にした

信用と信頼があり、業務に真っ当する真面目で健在、勿論ポケモントレーナーの実力が確かな人間は確実に欲しい所。それで協会が選び、厳選して―――白羽の矢が立ったのは、ゴウキだった

ゴウキは強い。それは協会側も重々に知っていた。決め手となったのがキクノの推薦だった。キクノとゴウキは知り合いで、何度かバトルをする仲でもあった。ゴウキの実力や協会側が求める人材を見定めて、キクノはゴウキを選んだ。勿論、選ばれたゴウキは断る理由も無かった為、快く承諾したのだった

扱いは臨時の四天王。キクノが復活したら退く形にはなっている。まだ表向きでは公開していないが、マスコミやトレーナー達は薄々勘付いているんだろう。今回の集会では初めて四天王として表舞台に立つ事になるが、ゴウキと言う男は自分を棚に上げない性分な為、けして正規の四天王とは答えずに臨時と強調してでも付け加えるはずだ






「―――――………」







ゴウキは器量の良い男でもあった為、沢山あった仕事を溜め込まず手際良くこなしていった。それにキクノが療養前に全て終わらせてあったのもそうなのだが、結果的に目の前でグッタリ眠る彼らと同じ末路に立つ事は免れた









「―――…」







読んでいた資料から視線を外し、窓から見える空を見上げる

一面の青い空。快晴だ

この天候なら、彼女が来ても大丈夫に違いない。今日は大切な仲間であり、大切な妹でもある彼女がはるばるこのシンオウ地方へやってくる










「――――ゴウキ、お前は四天王の仕事があるんだろ?そっちに行っとけ。俺は俺で情報を探してくる」

「俺も俺なりに色々と情報収集しておく。ジョウトにいるミナキという男とも連絡を取り合って調べを進める。ゴウキ、お前はまず目の前の事を終わらせておくんだ」

「無理じゃなけりゃお前もアイツらに色々と情報聞き出しといてくれ」

「一旦解散だ。お前が肩を付いたら落ち合おう」
















「……何も無ければいいが…」









今はただ、情報を探し回る親友と兄の報告を待つばかり






×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -